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【洋書多読】Tokyo Ueno Station(200冊目)

柳美里さん原作の小説『Tokyo Ueno Station』を読了しました。

日本語版の小説のタイトルは『JR上野駅公園口』。2014年に刊行されたそうです。2020年モーガン・ジャイルズ氏の翻訳でアメリカで最も権威のある文学賞の一つ、全米図書賞(翻訳文学部門)を受賞したことで、人気に火が付きました。

でも当然ですけれど、この物語が持つエネルギー・美しさ・儚さを考えれば、世界的に評価されて当然、という感じでしょう。

僕はまだ日本語版を読んだことがないのですが、この記事を書き終わったらすぐに購入して読むつもりです。

僕のブログはあくまで英語学習者視点で洋書を論じていますので、深い物語の分析には踏み込みませんが(そんな力量もないし)、もし気になる方がいらっしゃったらこちらのサイトをご覧ください。僕もここに書かれていることに100%賛成です。素晴らしい書評だと思います。

とても美しい英語で書かれた、ある種の芸術作品

本書の流れるような英文は、僕のようなあまり文学的な素養のない人間にも一発で伝わってくる独特の美しさ・リズム感をたたえています。これは英語を「音」で学んだ人には比較的理解していただきやすいものでしょう。

おそらく、このリズム感は原文である日本語が持つ雰囲気をかなり忠実に再現している・しようとしているに違いありません。残念ながらまだ原作を読んだことはありませんが、なんとなくそのことは想像がつきます。

とは言え決して難しい英語で書かれているわけではなく、むしろどちらかと言えば平易でシンプルな英語で書かれています。そのシンプルさが、一人のホームレスの男性が時代の波に翻弄されながら淡々と生きる姿をより鮮明に際立たせています。

ホームレスという存在はある意味で、現代社会の歪みや不条理が現象したものであると、言い換えることができるとおもっています。それを個人の怠惰のせいであるとか、狂人の沙汰といったある種の常軌逸脱と短絡して「みないふり」をする我々の社会の無関心。これもまた、この小説の大切な一本の経糸になっているのですが、そのような無関心・不条理をより一層際立たせているのが、物語のプロットを乗せる、このシンプルで、飾らない、詩のような英文であるということができるでしょう。

時代背景、そこに翻弄される一人の男性の生き方、東京という現代の病、そしてそれらを紡ぐ美しい文体。全てが綿密に計算されて織り込まれた、ものすごい物語です。

英語力が足りないと思う方も、ぜひ日本語版を読んでからチャレンジしてみて欲しい一冊

シンプルで平易であるとは言えやっぱり児童書をつらつら読むようなわけにはいかないレベル感の英文ですから、多少は読む人を選ぶ、これは否定できません。

でも、であるならばこそ、まず日本語版を読んでからこの英語版にチャレンジしてみてほしいです。きっとすごく良い学習の機会になると思います。英検の対策本とかのBoringな英文とは似ても似つかない文体に「本当に同じ言語か?」と思ってしまいそうです。

物語なので当然好き嫌いはあると思いますが、きっと多くの人の心に響く物語であると思うので、日本語の原作であれば読み進めるのはそんなにこんなんじゃないはずです。ボリュームがそんなにあるわけでもありませんし。

で、物語をきちんと把握した上で、あらためてこの英語版に取り組んでみてほしいです。

そしてぜひ、この翻訳版の英語が持つリズムや音の響きを大切にして読んでほしいと思います。

余談ですが、先日『英語のハノン』の横山先生の講演を聞きに言ってきたんですが、横山先生はその講演の中で「英語は音が大事」「リズムを意識しながら英文を口に出すことで伝わる英語になる」ということをしきりにおっしゃっていました。
僕も英語の持つリズム感をよく「うねり」という言葉で表現するのですが、そういう「うねり」を身に着けた人というのは、文法知識がなかったとしても、少々発音が上手くなかったとしても、流れるように英語を話したり書いたりすることができます。

話せて書ける人は当然、読むこともできます。そして「音のない世界で英語を学んだ人の英語は、一発で分かる(違和感を持っている)」というのが横山先生の意見でした。僕は先生のこのご高説に120%賛成です。

そういう英語的な感性というのは、ネイティブが書いた良質な英文のテクストを読むことで身につけることができる、ある種の感覚的な・身体的なものなんです。

『Tokyo Ueno Station』には間違いなく、その手の良質のテクストが持つ力があります。こういう文章に大量にアクセスすることで開かれていく英語の世界というのが確実にあると思う。

本書を一冊読了することは、単に物語のコンシューマーとしてではなく、英語学習者としてもまた、たくさんの素晴らしい経験を読者にもたらしてくれるはずです。

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