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【洋書多読】Loveless(209冊目)

アメリカで人気を博したというYA小説『Loveless』を読了しました。

こちらは「TikTok」で随分話題になった小説だそうです。動画を投稿するためのSNSである(ですよね?)「Tiktok」と小説がどんなふうに結びつくのか、SNSにあまり明るくない僕には想像もつかないですが、とにかくこの『Loveless』はアメリカのティーンの間で好評を博し、2021年の「YA Book Prize」という賞を獲得したそうです。

そして僕はネットフリックスもほとんど見ないのでわからないのですが、本書『Loveless』の著者であるアリス・オズマンさんはネットフリックスで人気のシリーズである『HEARTSTOPPER』というドラマの作者でもあるんだそうです。

上の公式サイトの予告編によると、こちらの『HEARTSTOPPER』は男の子同士の恋愛を描いたドラマのようですが、今日ご紹介する『Loveless』もまた、ある性的傾向に悩み、葛藤しつつ成長していく女の子を描いた作品です。

レズビアンでもバイセクシャルでもない性的嗜好性

主人公の女の子であるGeorgiaは、小説やドラマのような素敵な恋愛、運命の人との出会いを夢見る、どこにでもいそうなハイティーンです。

この物語はそんな彼女がalomance/asexual=つまり同性はおろか異性にさえも恋愛感情や性的興奮を感じることができない自分自身の傾向に気づき、傷ついて、そしてそれを受け入れていく、というものです。

性的嗜好性を取り扱ったこの手のお話って今では巷にあふれているようですが、「alomance/asexual」という言葉は個人的には寡聞にして知りませんでした。

が、岸田秀の熱心な読者だった僕にとっては「誰に対しても性的な興奮や魅力を感じない」という性的指向性もまた十分に存在しうるということは理解できましたので、比較的違和感なく本書の世界観に入って行くことができました。

ただ、読み進めていくうちに、これは巷にあふれている、LGBTQに対する教化的な、ありきたりの読み物ではなく、現代を生きる人々の違和感、孤独、社会との関係性と言ったより包括的なイシューを「アセクシュアル」という観点から扱っている、なかなかに奥深い物語であるということに気づいていったのでした。

そう言う意味では、すべての人の心に届くポテンシャルを秘めた一冊だと思います。

現代版『Catcher in the Rye』

本書のAmazonページに、『The Time』誌の次のようなpraiseがあります

“The Catcher in the Rye for the digital age” The Times“
(「デジタル世代の『Catcher in the Rye』である」)

これは『Loveless』という小説を的確に言い表したフレーズだと思います。もうこれだけでも十分読みたいと思わせてくれますし、物語の内容やクオリティだって保証されてちゃっているようなもんです。

20世紀を代表する小説の一つであるJ・Dサリンジャーの『キャッチャー・イン・ザ・ライ(ライ麦畑でつかまえて)』。僕も学生時代に村上春樹訳の同書を何度も何度も読み返して、ときに涙したものでした。

現代版の『ライ麦畑でつかまえて』であるとThe Time誌が称賛する『Loveless』。確かに、大きな時代の変化の中で自分自身の中に生きづらさを抱えながらそれでもまっすぐに生きようとするGeorgiaはまさに現代におけるホールデン・コールフィールドと言えるでしょう。

そりゃあ多くの人の琴線に触れるわけです。

英語のレベルもそんなに難しくないです

YAの小説といえば、多読を愛する英語学習者としてはネイティブが使うカジュアルな口語表現が頻出する一方で、英単語もそこそこ難しいものがでてくるというなかなか手ごわいジャンルです。

ただ、どういうわけか、この『Loveless』はあまり苦もなく読み進めることができました。

シンプルに「読みやすい」です。TikTokという媒体のせいか、はたまた僕の英語力が少し向上したからか?その辺は良くわからないけれど、とにかく巷で評判になったYA小説としてはとても読みやすい部類に入るんじゃないかと感じています。

決して易しいとは言えないですが、かといって『The fault in our Stars』や『It Ends with Us』ほどゴリゴリに難しくもありません。でも、お話の面白さや読者を掴んで話さない感じは、これらの大ベストセラーYA小説に引けを取らない、そんな印象を持っています。

英語中〜上級者向けにはなりますが、一読の価値アリです。性的な嗜好にかぎることなく、多かれ少なかれ生きづらさを抱えるすべての現代人の心に必ず響くからと思うからです。


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