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【洋書多読】Thanks a Thousand(208冊目)

『Thanks a Thousand』というノンフィクションを読了しました。

本書は僕が毎週更新されるのを楽しみにして聞いているポッドキャスト『TED Radio Hour』に、ゲストとして出演していたA.J. Jacobsというノンフィクション作家の著書です(当該のTED Radio Hourのリンクはこちら)。

https://www.npr.org/programs/ted-radio-hour/1141626389/the-gratitude-chain?showDate=2022-12-16

番組自体は昨年の12月16日に公開されていたのですが、僕は2023年のお正月の元旦の朝にこの放送を聞きました。で、その内容がとても面白いと思ったので、放送の最後に紹介されていた本書をKindleで購入して読み始めた、そんな感じです。

一杯のモーニングコーヒーに感謝することから始まる「Gratitude Chain(感謝の鎖)」

『Thanks a Thousand』の著者A.J. Jacobs氏は、近所にあるコーヒーチェーン店でモーニングコーヒーを購入するのが毎朝の日課です。

Jacobs氏に限らず、モーニングコーヒーは多くの人々の朝のルーティーンの一つになっているんじゃないでしょうか?僕もそうでした(今は近くにコーヒーチェーンがないので不可能ですが)。

私たちが当たり前のように飲んでいる一杯のコーヒー。でも実はこのコーヒーが一杯数ドルというリーズナブルな価格で実際に私達の目の前に届くためには、まさに「奇跡」としか表現のしようのないような様々な偶然と無数の名もなき人々の関与が必要です。

そのコーヒーチェーン店が近所に存在していることはもちろん、そこで働く従業員がいなければコーヒーを手にすることはできません。そこで焙煎されて挽かれる豆を購入するバイヤー、それを輸入する業者、輸入された豆を輸送するトラックとその運転手。そのトラックが走行するためのアスファルトを引いた土木建築作業員。豆を輸入するためのタンカーを製造した人…などなど。

どれか一部がかけたとしてもモーニングコーヒーは私達のもとに届くことはありません。

さらに、それらが可能になるためには「鉄鋼業」「造船業」が発展している必要があり、地中から輸送に必要な石油を採掘する技術が発展している必要があり、タイヤに使用する「ゴム」が発見・発明されている必要があり…。

考え始めるとキリがありませんが、そのキリのなさがまさに「奇跡」なんです。

願わくはその現前するコーヒーを可能ならしめたすべての人々に直接あって感謝の気持を直接伝えたい。伝えなければならない。AJ Jacobs氏の「Thanks a Thousand」の旅はそこから始まっていきます。

そんなある意味でちょっとバカバカしい、いかにもテッドトークらしいモチベーションを実際の行動に移した模様をドキュメンタリー風に書き綴ったものがこのノンフィクションというわけです。

TEDの常連スピーカー、AJ Jacobsさんの「当たり前」に気づく旅

英語学習者のご多分に漏れず、僕も英語学習を始めた当初はTEDを視聴してそれをシャドウイングして…というオーソドックスな英語学習をしていたものですが、この方の英語はとても聞き取りやすくてピッチの内容も面白いので、僕の中では有名なスピーカーの一人になっていました。

このトークに関しても、だからこれが初めて聞いたもの、というわけでもなかったんです。

ただ、この方が割とprolificな 作家であって、様々な本を書いておられるということは寡聞にして知らなかったのでした。

「感謝の気持を表すことはシンプルに人間の幸福度を向上させる」

そんな彼の信念と、それに基づく(少々馬鹿げた)行動にも共感したので、スピーチの視聴だけではなく、実際にこの人の本を手にとって読んでみようと思った次第です。

結論ですが、読んでよかったです。

感謝の気持を伝えることの心理学的効用も興味深かったし、一杯のコーヒーにこれだけ沢山の人々が関与しているというシンプルな事実が白日のもとにさらされていくプロセスもとても面白かったです。

毎朝の一杯数ドルのコーヒーを可能ならしめる奇跡の数々。そういう普段無意識にスルーしてしまうような「当たり前」に気づいて感謝し、実際にそれを表現し直接人々に伝えるための旅。シンプルに素敵です。

そんな旅を通じて、自分という存在はこの世界に住む顔も見たことない人々と、好むと好まざるとに関わらず分かちがたく結びついているんだ…という事実に気付かせてくれるのが本書の魅力だと思っています。

僕のように、普段から感謝の念を忘れて自分はこの世界で孤立して一人で生きているんだとか思いがちな人間には必読の処方箋かもしれません(笑)。

「人は一人では生きていけない」「人は環境の中で互いに他者と相互作用しながら生きている」「みんな世界とつながっている」。そういうちょっとロマンティックでスピリチュアルな世界を「一杯のコーヒに感謝する」ことで面白おかしく描き出していく同氏の筆致にちょっと心が打たれました。

ノンフィクションの英語は易しい?!→多読入門に最適

「ネイティブがネイティブに向けて書いたノンフィクション」というと「難しそう…」と腰が引けてしまう人も多いかもです。

が、正直なところ、フィクションと違ってノンフィクションのほうが突拍子もない展開がない分(主人公がいきなり空を飛んだりとか魔法を使いこなしたりとかしない分)、多少英語力が足りなくてもなんとか読めてしまうということは往々にしてあります。

本書もそんな洋書の一つと言えるかもしれません。

娯楽として気軽に読めるレベルの英文ですので、難しい単語や修辞的な表現もあまりでてきません。読んでてわかりにくいのはアメリカで流通している商品名とか、地名とかなんだとかのいわゆる「固有名詞」くらいです。

日本人なんだからそういうのにいちいち引っかかって「あぁまた知らない単語が…地名が…」と落ち込んだりする必要はないと思っているので(アメリカ文化を研究している、とかなら別だけど)、英文自体のシンプルさを存分に楽しみながら読ませてもらいました。単語もそんなに難しいものはでてきません。

「洋書には興味あるけど、何から手にとったらいいかわからんなぁ」という人にとっては最適な一冊になりうるんじゃないかと思います。

世の中に対する自分の態度を考え直すきっかけにもなった、お正月に読むのに最適な一冊だった。

そんな『Thanks a Thousand』、出版されたのは2018年とのことですが、このお正月に手に取るには最適な一冊だったなと思っています。

僕は今ご縁があって、和歌山県の世界遺産「熊野古道」というところにあるゲストハウスで一日三時間、住み込みの掃除おっちゃんとして働かせていただいています。

一日たった三時間…と言われればそれまでですが、僕をここに導いてくれたマネージャーさんはもちろん、この自然の豊かな静謐な土地で、世界中から訪れる巡礼者たちを相手に毎日英語でおしゃべりを楽しむことができるこの環境は、英語学習者としてたまらないものがあります。

定住ってほんと精神的に安定します。感謝感謝の毎日です。

寮費としてお給料から15000円支払っていますが、電気水道などの光熱費は含まれていますし、ネットももちろん使い放題です。毎晩寝るところがあって、温かいお布団を無料で貸していただいて、しかも有名な温泉地ですので、毎日源泉かけ流しの温泉に入り放題。

地元の安くて新鮮なお野菜を使って自炊する生活も最高です。最寄りのコンビニまで車で40分というなかなかの辺境に生活している僕ですが、『Thanks a Thousand』のおかげで、この一見不便に見える暮らしに心から感謝することができています。

本当に素敵な一冊に出会えたなぁと思っています。

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