溶ける公教育 デジタル化の行方 第3部(2)崩れた低コスト試算

2022年10月17日【2面】

 公立小中学校にプールをつくらないと決めた東京都葛飾区―。同区は方針策定にあたり、学校にプールをつくれば建設費や維持費で1校あたり年平均770万円かかるが、民間プールを利用すれば507万円ですむと試算。NHKの番組でも紹介されました。

 しかし、現実は異なります。試算で想定した400人規模の学校でも2022年度の民間プールの費用が最大約900万円になり、600人規模では1150万円に上ったのです。

問題山積

 区は、単価が想定より上がったことに加え、年間5回(1回90分)で試算していた授業回数を、夏休み中の水泳教室をなくす代わりに1~2回増やしたことが影響したといいます。教育効果を上げようとすれば費用が大幅にかさみ、費用を抑えれば教育効果がしぼむという関係が浮かんできます。

 校長の許可のもと、区立水元小学校の学校外プール(区立プール)を使った活動の様子を「見守り調査」した有志の会共同代表の高橋信夫さんは、問題山積だと強調します。

 「学校からプールまでは借り上げバスで移動します。移動などに往復30分かかるため、当初の1回2コマでは足りず3コマ授業にしたところ、授業後の学校到着が給食の時間に間に合わない。午後からの日は昼食後の昼休みを5分に短縮してバス移動です」

 高橋さんは、熱中症予防を理由にしながら、学校外プールを利用していない学校には区がなんの対策もとらないことに憤ります。バス会社もバスや運転手に余裕がなく、他区はもとより千葉県からもバスをかき集めていると指摘。バス契約の入札4件のうち3件は事実上1社入札で落札率100%と、企業の言い値になっているのではと疑惑の目を向けます。

 区の担当者もバスの確保は課題だとし、今後バス会社と相談していくというものの、夏場の水泳授業のためだけに追加投資する企業が出てくるとは考えられません。

使用制限

 水元小が利用する区立プールで週1回、介護予防のサークルをしている浅野篤子さん(72)は、プールが授業で使われるようになったことで多くの団体が使用回数を減らされたと訴えます。「プールが使えない日は代わりに室内でストレッチしましたが、水中と違って腰やひざへの負荷がきついという声が出ました」

 10年ほど前に股関節が悪くなり、つえなしで歩けなくなった浅野さん。プールに通うようになり、つえが必要なくなりました。授業で区立プールを利用する学校が増えていけば、さらに使用が制限されると懸念します。

 対照的なのが東京都中央区です。区立小学校4校を屋内温水プールにし、年間通して市民に開放。市民開放は1994年からで、新型コロナ下の昨年度も約5万6千人が利用したといいます。水質などの管理は業者に委託しています。

 区の担当者は、十分な土地確保が難しいという中央区の特性が校舎内への屋内プール建設の要因になっていると断ったうえで、民間プールの水泳授業での利用は移動時間などの課題が多いと判断したといいます。

 「温水にすることで運営費は高くなりますが、プールへの需要は高く、区民サービスにも資する。行政コスト全体のなかでみれば費用は見合っていると考えています」

 (つづく)

 最近思うんですけどなんでもコスパコスパで考えない方がいいと思うんですよね。

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