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自衛官中途退職 前年度比35%増2021年度5742人 ハラスメント横行・任務激化〜すべてがNになる〜


2023年3月12日【1面】

 2021年度の自衛官の中途退職者が前年度比で約35%増加し、直近15年間で2番目に多い5742人に達したことが、防衛省がこのほど公表した資料で判明しました。

 岸田政権は昨年閣議決定を強行した安保3文書で、敵基地攻撃能力の保有などと並ぶ「戦争国家」づくりの重要な柱として「人的基盤の強化」を打ち出していますが、現場自衛官が任務激化の中で深刻な矛盾にさらされている実態が浮き彫りになりました。

 防衛省は本紙の取材に、中途退職の理由として「民間企業等への就職」「進学」「家庭の事情」「性格不適合」(21年度集計)を列挙。中途退職抑制のため、23年度から民間会社を活用するとしています。

 資料は安保3文書に基づき、防衛省内で開かれた「防衛省・自衛隊の人的基盤の強化に関する有識者検討会」の第1回会合(2月22日)で配布されたもの。それによれば、イラク、インド洋などに海外派兵が拡大した07年度に中途退職者が5952人に達した後、09年度からおおむね4000人前後で推移。17年度から増加傾向が続き、21年度に急増しました。重大なのは、現場の中核である「曹」や、3尉以上の「幹部」の中途退職が直近15年間で最多になっていることです。組織劣化の進行をうかがわせるものです。

 中途退職者激増の背景として、任務激化に伴う心身の負担や、ハラスメントの横行が指摘されています。21年度の防衛省・自衛隊内でのハラスメント相談件数は、16年度に比べ約9倍に増加。最近では、元自衛官の五ノ井里奈さんが隊内で性暴力を受け、退職に追い込まれた経緯を告発しています。

 「自衛官の人権弁護団・北海道」の佐藤博文弁護士は、現職自衛官や家族からの退職に関わる相談が増えており、「22年度はもっと増える」との見通しを示しています。

 (佐藤弁護士の話2面)

自衛官退職者急増 安保3文書 矛盾噴出

自衛官の人権弁護団・北海道 佐藤博文弁護士

                       2023年3月12日【2面】

 自衛官の中途退職者が急増している問題で、「自衛官の人権弁護団・北海道」の佐藤博文弁護士に話を聞きました。(小林司)
 2022年度は中途退職者がもっと増えると思います。私たちのもとには去年から今年にかけて、自衛隊員や家族から、退職したくても退職させてくれないという相談が多く寄せられるようになりました。その数は相談の半分以上になります。
 自衛隊の応募者数が減少する中、防衛省は入隊年齢を26歳から32歳に引き上げる、再任用枠を30人から1200人に引き上げるなど、なりふりかまわずリクルートを進めてきました。さらに20年には、パワハラやいじめに対する処分を厳罰化しました。それでも退職者は増え続け、それを止めるために退職を妨害するという新たなパワハラが発生している状況で、完全に悪循環に陥っています。
 「精強さ」「男らしさ」が求められ上司の命令が絶対の縦社会が軍隊です。それが女性へのセクハラや立場の弱い男性へのパワハラとなります。対等平等な人間関係ではありません。
 私たちは「兵士である前に市民である」という考えで活動しています。日本と同様、戦後に再軍備したドイツでは、陸海空軍の軍事部門と並び人権擁護や精神ケアの担当が独立して設置されており、軍事オンブズマンという第三者機関もあります。旧日本軍の体質を引き継いだ自衛隊とは根本的に違っています。
 安保3文書に基づいて「専守防衛」までかなぐり捨てれば、海外のどこに行ってどこで死ぬかわかりません。
 防衛省が有識者会議を重ねて人員確保を目指しても成功するとは思えません。自衛隊ができて約70年間抱え続けてきた矛盾が安保3文書や「台湾有事」をきっかけにアメリカと一緒に戦争に向かう段階になって一気に噴出してきたのが今の状況です。だからこそ事態は深刻なのです。
 最後に自衛隊志望者に向けて一曲送りたいと思います。ガガガSPで「自衛隊に入ろう」です。


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