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生検検査

先生がその日の診察が全て終わるのを待ってから、私は再び呼ばれて診察室へと入った。
先生の「検査した方がいい」発言でお気楽さは抜け、既に不安が胸に広がっている。
先生は胸の専門家であり、職人である。
これまでの経験から検査が必要と判断したのだから、検査の実施を受け入れるし、自分にとって悪い結果が出てしまう可能性も受け入れざるを得ない。
自宅へ帰ってからネットで調べたのだが、超音波検査でのしこりの見え方は、良性、悪性でそれぞれ特徴があるようだ。
こうした専門知識に感心するとともに、ますます不安が増したのは言うまでもない。

「生検」と先生は言っていたが、ネットには「細胞診」と書かれている記事もあった。
要するに精密検査である。
針を胸に刺し、胸のしこりの細胞を採取し、顕微鏡で確認して良性悪性を判断する検査だそうだ。

私はこの日3回目となる上半身裸の状態になり(初診時の超音波、これもやりたいと言われたマンモグラフィ、この時の生検で計3回だ)、
ベットに横たわったら、先生の指示通りに右腕を頭の上へと伸ばす。
丸く穴の空いた青い紙製の布が被せられた。
テレビドラマで目にする手術時に使用されるようなやつだ。
丸い穴は私の右胸のかなり脇に近い部分に当てられて、先生は超音波で場所を確認し、それから私の体にペンかなにかで印を付けた。

使用する針はバネで飛び出す仕組みで、それを合計3回胸のしこりに刺して細胞を採るらしい。
麻酔をして行うから痛くはないと事前に説明を受ける。
毎度思うのだが、なぜ痛みを和らげるためには始めに痛みを受け入れなけばならないのか。
理不尽さを感じつつ、諦めて麻酔の針の痛みを受け入れ、いよいよ検査の針が刺された。
——バチン
随分と派手な音を立てて飛び出す針だ。
そして音と共に、それに見合った痛みが右胸に走った。
「どう?」と確認する先生に、「結構痛いです」と答える。
ではと麻酔を追加されて2発目。バチン。
「やっぱり痛いです」ではと麻酔を追加されて3発目。バチン。
痛みはようやく和らげられ、音だけが耳に響いて検査は終了した。

針を刺したところを何度も先生が拭っている。
止血のために圧迫しているのもわかる。
——そんなに血が出たのか
血に対して恐怖心があるため、こうした状況はどうも苦手だ。
途中先生から看護師さんへと交代し、後処理を続けてくれる。
さらに圧迫して止血を行い、それから傷口に大きなテープを貼ってくれた。
今日はお風呂は禁止と告げられる。
コロナ禍のこのご時世に、お風呂に入れないのはかなりつらい。
湯船なしで傷口を濡らさず軽くシャワーだけならと言ってもらい、帰宅後前屈みで髪の毛を洗い、シャワーで下半身だけ綺麗にしてその日は終えることにした。

検査結果は通常であれば一週間ほどで出るのだが、この時はGWの直前で、結果はGW明けの二週間後になってしまった。
不安を抱えての二週間はきっと長く、GWなんて楽しんでなどいられない。
何はともあれ検査結果が出るまでは待つしかない。

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