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疎外感を見る

新宿から山手線に乗り込んで、
閉まっている方の扉の前に立つ。
電車が発車するまでのわずかな時間、
私は窓の外を眺めていた。

隣の線路には電車は来ておらず、
ホームの様子がよく見ることができた。
電車の幅分距離はあるものの、
程よい距離感で色んな風景が見えてくる。

私の視界入ってきたのは、
ホームと、屋根と、階段と、
そこまで多くはない人だった。
まだ前の電車が行ったばかりなのだろう。
だから尚更その一家が
目に入ってきてしまったのだ。

所謂外国人観光客の集団だと始めは思っていた。
ここからよく見えるふたりの女性、背の高い男性は、
明らかに日本人ではなかったからだ。
口々に言いたいことを言っているようで、
なんとも騒々しそうな雰囲気が伝わってくる。

女性らが囲むようにするその先に子どもがいた。
その小さな手を繋ぐ母親も同じように立っていて、
その母親は日本人だった。
はっとして子どもを見れば、
両親のそれぞれを受け継いだ
ハーフであることが明らかだった。

と言うことは、男性は父親で、
ふたりの女性は祖母と叔母だろうか。
きっと日本へ遊びに来ているのだろう。
そして観光の最中なのだということが見て取れた。

そこまでわかってそのまま見ていると、
母親の表情がなんとも言えないもので心配になってしまう。
無と諦めとじわりと湧き出る怒りの表情だった。

口を一文字に結んでいるものだから、
言葉が話せず意思疎通が図れないのだろう。
仮にそれが英語だったとして、
祖母、叔母、夫は英語で話しているようで、
また子どもに対しても英語で話しかけているようだった。

だれも母親には話しかけない。
ただそこにいるだけの母親。
決して握った手を離さないのは、
負けるものかという決意があるようにも思えた。

恐らくだが、彼女の怒りは夫に向けられたものだと思う。
一時であるならあそこまでの表情にはならない。
ずっとあの調子でここ数日か、
数時間かを過ごしてきたのだろう。

正に耐えているその表情は固く、
一点を見つめる視線のその先に何が映っているのだろうか。

色んな家族がいて、色んな価値観があるのだろうが、
日本にいて、自分は日本人で、
どうしてあそこまでの疎外感を感じなくてはならないのだろうか。
全くの通りすがりの私がそんな事を感じずにいられない程、
彼女の表情が頭から離れることがなかった。

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