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解決策

雨が降る昼下がり。
狭い歩道を傘を差し
2人並んでゆっくりと歩いていた。

所謂住宅街で人通りはまばらにしかおらず
雨の音と、一方通行の道路を通る車の音くらいしか
耳に入ってはこなかった。

突然背後から衝撃を受ける。
背負っていたリュックと
手に持っていた傘が弾かれた。
それから体勢を崩した私の横を
勢いよく人が抜けていった。
咄嗟に「ごめんなさい」と口をついてしまう。

走り去っていくスーツ姿の男性の後ろ姿を
半ば呆然と眺めながら、
何で私は謝ったのだろうと考える。
ぶつかられたあの瞬間に、しまったと思った。
狭い道なのに完全に塞いでしまっていた。
だから「(道を塞いでしまって)ごめんなさい」と
私は思ったのであって、
「(ぶつかって)ごめんなさい」では決してない。

一度も振り返ることなく、
またぶつかってきた際に
一言も声を発することもなかった男性は、
雨の中をそのまま走り続け
やがて視界から消えていった。

道を塞いでいたのはこちらが悪いが、
何故一声掛けずに体当たりすることを
あの人は選択したのだろうか。
「すみません。通してもらっていいですか」
すっと思いつく言葉だと思うのだが、
私をただの障害物と見なして
体での解決を選ぶその心情が理解できない。

こうした時、私に怒りはない。
少しの恐怖と、呆れた気持ちがあるだけだ。
正しく怒った方がいいとは言うが、
よくわからない行動に出る人に
怒りをぶつけたり正論を説いたところで
逆上されてトラブルになる方がリスクが高い。

嫌な気分だったなと自分の気持ちを受け止めて、
ああした人もこの世には存在するのだと流すことにした。
走る勢いのまま水たまりに足を思い切り突っ込み、
ズボンに泥がはねてしまえばいい。
なんてちょっとした呪いをかけてみたりして。

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