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病院選び

意図せず急遽決めなくてはならないことができてしまった。
行きつけの病院で診てもらったものの、中規模の病院では設備に足りない部分もあり、なにより先生の私に対する消極的な言葉に見切りをつけたためだ。
また、自分が暮らす地域の有名な病院は把握していても、特定の病気を得意とする病院など知る由もなく、いつもの病院でいいやという気持ちが腹の底にあったことは否定できない。

そもそも何をもってして「いい病院」なのかがわからない。
腕がいい先生がいるのか、親切なサービスを受けられるのか、人によって受け取り方も異なれば、求めるものも違うため、一概に言うこともできない。
どうせなら腕のいい先生に執刀してもらいたいし、サービスは悪いよりいい方がもちろんいいし、親切で優しい病院がいいなぁなんて思ってしまったりもする。
そんな簡単にいくわけもなく、ではと症例数を比較しようにも、病院の規模によって集まる患者数も異なるのだから、単純な比較もできない。
その中にどれだけ腕の立つ先生がいて、また先生の層の厚さはどうなんだろうなんて、求めれば求めるほどにわけがわからなくなる始末だ。
乳がんのキーワードで調べても、Web上ではいくらでもいいように書くことができるし、こちらも鵜呑みにするわけにもいかない。
相談できる相手もおらず、知名度と口コミしか参考にならないのが現実だ。

ひとりあれこれ考えて、一番の優先順位を通いやすさに設定することにした。
乳がんは長く付き合う病気らしいから、10年通うとしたら通いやすくなくては嫌になって投げ出してしまうかもしれない。
自宅からほど近い場所にあって、大きくて、高額にはならなそうな病院を候補に挙げてみた。
自分の病気と真剣に向き合いたいのに、なんとなくで決めた風になってしまい、自分に大して気まずい気持ちが残る。

伝えた翌々日だったか、夫に時間を取ってもらい、子ども不在の午前中に話し合いをした。
改めて体のこと、病院でのやり取りの内容、これからのこと、お金のこと、希望の治療方針、そして病院をどこにするかということを話し合う。
私は事前にじっくり考えてから臨むタイプのため、自分の中で大まかな希望が決めてある。
その一つひとつに否定的でもなく、騒ぐでもなく、わかったと受け入れてくれたことがありがたかった。

ただし病院についてだけは違った。
私の候補の病院を伝えたのだが、いいんじゃないかとは言ってくれない。
どこの病院がいいのかは私はわからないし、夫にもわからない。
だから私はこの辺りで手を打ちませんかという案を出したのだが、夫はわからないのだからこそ知名度の高い大学病院を選ぶべきだと言ってきた。
大学病院…。
大学病院なんて大それた場所に、私なんかがお世話になっていい場所ではないと、候補から真っ先に外していた。
偉い先生や、有名人が行くところではないのか。
はたまた重症度の高い人が行く場所ではないのか。
ごくごく一般的な生活を送っている一介の主婦が足を踏み入れていい場所ではないのではないか。
そんな卑下する思いがあって、口にすることを憚っていたのだが、心のどこかに同じような思いがあったのかもしれない。
戸惑いはなく、むしろほっとするような、あぁ私が行ってもいいんだという安心する気持ちがあった。

私の妥協案があっさりと却下されることで、私は大学病院へ行くことを決めた。

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