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船場

車で海沿いの街まで出掛けてきた。
昔暮らした街からほど近く、よく出掛けていた場所だ。
今はもうずっと離れた場所で暮らしているが、たまに「帰り」たくなることがある。

別に仕事の都合で暮らしていただけだから、その街を自分が選んだわけではない。
必然的にその地に足を下ろすことになり、どこに惹かれるわけでもなくただ惰性で暮らしていたはずなのに、ちょっと特別な場所になった。

車で運河沿いを進む。
細い道から大通りへと繋がるその通りは非常に混雑しており、見事な渋滞が成されていた。
助手席に座る私は、ぼうっと運河に浮かぶ赤い頭をしたカモを見る。
時折体全体を水の中に潜らせて、餌を捕っていた。
飛んできたのは黒いサギだ。
長い首と、小さいのにきょろっとした目がいい味出していると思う。

運河にはたくさんの船が停まっている。
早朝にはここから出発して漁へと出掛けるのだろうか。
風が強い今日は、隔てる物がない水上に並ぶ船へ直接ぶつかるように吹きつける。
その度に、帆のないマストがゆらり、ゆらりと横に揺れる。
船の軍団が同じように揺れる景色を見て、「あぁ、だからこの地名なのか」納得が落ちてきた。

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