見出し画像

学会中に頭をよぎる今後の日本の医療費問題

米国心臓病学会(AHA)で発表・聴講のためフィラデルフィアに来ています。いろんな研究結果が出て、本来医学の進歩を喜ぶべきなんでしょうが、米国に来ると物価の高さと相まって、いつもなぜか暗い気持ちになるのは次のような理由です。

今回の学会で、現在糖尿病のみに保険適応のある「やせ薬」を、糖尿病のない患者に使うと心血管病による死亡が減ることが証明され、「肥満は治せる病気になった」などと称賛されました。長嶋茂雄氏や小渕恵三氏が患った心房細動からの脳梗塞の、高価な新規予防薬 (Xa阻害薬) が国民皆保険のお陰でこれだけ普及しているのは日本だけなんですが、心房細動が結構短時間で脳梗塞リスクの患者でも、使えば脳梗塞がそれなりに予防できることが報告されました(ただし出血は増える)。さらにまだ市場に出ていない新しいXIa阻害薬は副作用である出血をさらに圧倒的に減らすことが分かりました。

子供のうちからやせ薬を使った方がいいとか、XIa阻害薬なら90歳以上の超高齢者でも出血の心配なく使える、などとどんどん適応拡大を図った新しい臨床試験が組まれることでしょう。ポジティブな結果が出るたびに欧米のガイドラインが改訂され、保険適応も拡大されます。

いずれも驚くほど高価な薬なんですが、日本でも適応拡大されるんでしょうか?国民皆保険の上に生産人口比率がジリ貧の日本はどこまで追随していくんでしょうか??

ちなみにこういう素晴らしい薬を出しているのは今やほぼ外資です。年功序列社会のうえに研究職が冷遇される日本からは優秀な研究者は国外流出していますので。外資系製薬会社の薬をいくら処方しても日本の税金にはなりません。

「好きなものを好きなだけ食べていいのよ、大人になったら薬を飲めばいいんだから」とお母さんが教える時代になるんでしょうか?短時間でも心房細動のある90代高齢者が公費でXIa阻害薬を飲む時代が来るんでしょうか?

個人的には現役時代に社会保障費や公的医療保険を散々支払った末、老後に「国民皆保険は破綻したのでやめます」と言われるのだけは勘弁してほしいと思ってます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?