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【春木ゼミ】出生数と合計特殊出生率のグラフを見て

voicyやstand.fmでおなじみ元フェリス女学院大学教授の春木良且先生が、クロスプラットフォームによる自由参加型のPBL(アクティブラーニング)を開始されました。こちらの課題についての考察です。


課題では下記のグラフについて率直な印象を述べよということになっています。1950年以降の日本の出生数と合計特殊出生数の推移です。出生数というのは単純に生まれた人の数を示しており、合計特殊出生率というのは「一人の女性が一生涯で産んだ子どもの数」のことをいいます。具体的には15歳〜49歳の女性のみが対象となります。

出典:厚生労働省ホームページより
(https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/kousei/19/backdata/01-01-01-07.html)


解説など何も読まず、グラフだけ見た印象で気づいたことや疑問などをまとめよということでしたので以下に私個人の印象を述べます。

グラフから読み取れること

①出生率、合計特殊出生率ともに1970年代前半以降、概ね下降の一途を辿っている

→第2次ベビーブーム以降大きな出産ラッシュの山は見えないので、第3次ベビーブームは起きなかったことがわかります。

②合計特殊出生率は2005年頃を境に緩やかなV字回復を遂げている

一方で出生数そのものは下がり続けているため、産む人と産まない人に二極化しつつ、産まない人の割合が増えている、あるいは母数となる女性自体が減り続けているため、出生数そのものの引き上げには至っていないということが考えられます。

③出生数は今後も回復しないが、合計特殊出生率は維持される見通しとなっている

合計特殊出生率に関してはやや希望的観測が過ぎる気もしますが、このことは少子化と格差社会の更なる進行を表しているのではないかと思います。

「産まない人」が増えているのはなぜか

ここからは個人的考察に移ります。

①産業構造の変化により、子どもを産む必然性がなくなった

農耕社会→工業社会→商業社会と変化していくにつれ、子ども=家業の担い手(働き手)という感覚が薄れたため、出産に対するインセンティブが働きにくくなった可能性が考えられます。
つまり、子どもがいなければ家業が成り立たなくなるというような状況ではなくなったため、子どもを産む決断に至るには単純に「家族が欲しい」とか「人生経験として産んでみたい」といった内発的動機しか機能しなくなってきたのではないでしょうか。

②女性の生き方の多様化

1960〜70年代の女性解放運動以降、女性の労働や大学進学が一般化するとともに、お見合い結婚ではなく恋愛結婚が増えたことも一つの要因となっているのではないでしょうか。
つまり結婚や出産に女性自身の意思が大きく反映されるようになった結果、産まない選択をする人が増えたということが考えられます。

③婚姻数の低下=出生数の低下

このグラフからは婚姻数の推移はわかりませんが、おそらくバブル崩壊以降、いわゆる就職氷河期が始まり結婚適齢期の男女の雇用が不安定になったために、十分な収入を得られず、結婚に結びつくような安定的な関係性を築くことが難しくなったと考えられます。その結果、自分の意思で産まないだけでなく、産みたくても産めない女性が増えたのではないでしょうか。

④近年は「内発的動機」すらも低下している可能性

長引く不況の影響で、若者たちの間に「子どもを産んでも幸せにする自信がない」といった空気が蔓延しつつあります。彼ら自身が30年間に及び幸せの実感を得ずに育ってきてしまったからでしょう。また核家族化と共働きが一般化したことにより、家庭の中に人が不在となる時間が長く、家庭生活の幸せを現実的にイメージしにくくなってしまったことも一因ではないでしょうか。
加えて実質賃金の低下や社会保障費の負担増、奨学金の返済など、金銭面でも困窮する人が増えているため、結婚資金や出産・育児にかかるお金、子どもの教育費のことまで考える余裕がないのです。このことが少子化にさらなる拍車をかけていると考えられます。



以上が私の考える少子化の現状です。

この状況を挽回するには農耕社会への回帰核家族化の解消が最も手っ取り早いのではないかと個人的には考えますが、それが現実的ではない場合にはやはり若者の賃金上昇社会保障費の抑制ワークライフバランス教育費の負担軽減がカギとなるのではないでしょうか。また、生活費のうち最も家計を圧迫するのは住居費なので、子育て世帯に限り何らかの住居の提供(または住居費の補助)を行うことは有効なのではないかと考えます。今の社会でこのことがあまり議論されないのはなぜなのだろうと個人的にはずっと疑問に感じています。

さらに、金銭面における問題解決だけでなく、家庭や社会における孤立感の解消が個人の幸福度の向上に寄与すると私は考えますので、子育てを個々の家庭に一任せず、社会全体で育てる機運の醸成が長期的な目線において必要となってくるのではないかと思います。
具体的には子ども誰でも通園制度などが良い例だと私は思いますが、現実的にはまだ保育と就労はセットになっており、希望する人が希望する日数だけ子どもを通わせられる制度にはなっていないと感じます。また、それを実現するには保育人材の確保と給与や配置基準含めた処遇改善も併せて行っていく必要があり、現場の状況がまだ追いついていないという課題があると思います。

まとめ

少子化の挽回には若者の賃金や働き方を含めた就労環境の改善と、年金・医療費の抑制や住居対策、教育費の扶助を含めた社会保障改革、および保育環境の整備などを一体的に行なっていく必要があると思いますが、現状ではいずれも難航(あくまで子育て当事者としての私の体感です)しているため、急激な少子化には今後も抗えない状況となっていると考えます。

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