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嫉妬

僕は、物心ついた頃から、
「心が死んでいるんじゃなかろうか?」
と、自分でも思うくらいに、簡単に感情が動かない。

周りから見て、辛い出来事に見えるようなことであったとしても、
涙も流すことはないし、自分の中のルーティーンがブレることもない。


高校一年の二学期から暫くの間、ちょっとしたことでいじめに近い状況になったこともあるが、その時でさえも、特に気にすることもなく相手の気を削ぐような行動をとったり、どうやってひとりずつをはめて各個撃破し、攻守交代をするか等を考えて策を張り巡らせたりと、感情が動き始めるよりも先に、頭脳が冷静に物事を捉えて現実的な判断をしてしまう、そんな性格のままで花の高校生活は終えている。

女の子から声をかけられることも、1度や2度ではなかったが、
最終的にある女の子からは、「あなたの感情は本当に氷のようだ」と、
それこそ氷の刃で胸を刺されるような一言を食らったこともあるが、
それを受けた時でさえ、「ふ〜ん、そっか。今までありがとね〜」
みたいな感じで言葉を返し、氷が溶けるほどに燃え上がらせたこともある。

そんな僕だって、心を焦がすような想いで、誰かのことを考え、
たった一言で飛び上がるほどに嬉しくなったり、凹んだり、心が軽くなったり、
勝手に涙が出てきたりするような、所謂恋愛をしたことがある。

彼女とは、出会ってから袂を分かつまで終ぞ付き合うことさえなかったが、
少なくとも3回はプロポーズした。冗談じゃなくて本気で。

彼女にはその時、将来結婚を考えて付き合っていた彼がいたのだが、ある時のプロポーズの数日後にあった時には、いつも通りサバサバとした雰囲気で、「そうそう神部君、一応伝えておくけれど、彼と別れてきたから」なんてことを言うので、
「なんでそんなことを・・」と聞き返す僕に、「そうしないと本気で思ってくれているあなたに失礼じゃないの」と真顔で答えて、「今は女としてじゃなくて、一人の人間としてちゃんと見て欲しいし、それをどうかわかって欲しい」と、微笑みながら言われた日の夜なんぞ、実際に吐いてしまうくらいに胸が気持ち悪くなって、動悸がえげつなかったことを思い出す。

その時のような、身をちぎられるような感覚を生む感情からは随分とご無沙汰で、
特に神様事に関わるようになってからは、以前ほど感情が動かないことはなくなったものの、穏やかで波風の立たない和いだ心で、日々を過ごしていた。


そんな平穏な日々を送っていた僕の心が、このところ非常に騒がしい。
ずっと忘れていたような、甘くて軽やかな心の変化をもたらす一人の女の子。
彼女はまるで猫のように気まぐれで、尚且つ真っ直ぐに輝く目をしている。
澄んだ青がよく似合う凛とした雰囲気に、知性も、好奇心も、曲げない意志も、 そのどれもが新鮮で、生々しい感情が錆び付いてしまった心の扉を簡単にこじ開けてくれるのだ。

最近、僕の心の中には、一般的に「嫉妬」と言われるような感覚がやってきている。この感情は、既出の彼女の時にはほとんど感じたことがなかった。
その点、「猫の君」は、いとも簡単に僕の心に嫉妬の種を巻いていく。

なんと素晴らしいことか。

忌むべき嫉妬の感情さえ、世界が輝き出すような生きた力を感じる。
ずっと欠けていた創作への意欲も、日々を過ごしきるための生き方も、
会えない時間があればあるだけ、その一日一日が、熟成されていくボルドーワインのように、複雑な心の色を醸し出すのだ。


私の為に注いでくださった想いは、より良い創作活動への源泉とさせていただきます。こうご期待!!