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あめ、ときどき、はれ

「神部くんさぁ、そろそろほんまに神社でお祓いしてきてくれんかなぁ・・」
「そんなん言わんといてくださいよ。僕のせいちゃいますって‼︎」


今日は、ライブの日


神部屋宗介は、当時、月に3・4回くらいのペースで、
東京は高円寺・四谷・下北沢辺りで、所謂弾き語りライブと言うものを、
よなよな、自分で作詞作曲をしながら、細々と続けていた。

「だってまたやん。また雨降ってるやんか。神部屋くんブッキングした時、絶対雨降るでしょ〜?なんなんよ、ほんまに」
「いやいや、知らんし。そんな事できるんやったら、もう他のことに使っとるわ」
「そりゃそうやけど・・でもほんまに、今のところ、うちのブッキングだと100%やからね」


なぜだか知らんが、僕が何かをする時、必ずと言っていいほどに、雨が降る。
これは、もういつからそうだったのかを思い出すのが困難なほどに。
記憶の中では、中学校の卒業旅行で行った長崎も、旅行中ずっと雨だったことくらいは覚えている。

あぁ 長崎はずっと雨だった・・・なんやら聴いたことがある歌謡曲みたい。

上京してからのライブも、思い返せばそのほとんどが、雨、雨、雨。
オリジナルの雨グッズを販売したらええんちゃうか?って結構本気で業者から誘われたことがあるくらいには、雨だ。雨に好かれてしまっていると思っていた。


ただ、どこか不思議だなぁ・・と、思わないでもなかった。

何故だか、僕が移動している間だけは、どうも雨が降らないっぽい。
そう言う噂が、だんだんと周りから聞こえてくるようになった。

「そういえば、神部屋くんは今日何できたん?西武池袋線から山手線使こたん?」
「いやいや、僕はいつも通り、これですわ」

そう言って、ちょっと大きめでオフホワイトの革素材で仕上げられたバイク用ヘルメットを見せる。

「まじか‼︎この雨で、ようベスパに乗ってこよう思うわ」
「それは僕もそう思うんすけどね。なんでなんでしょうね・・家出るときに、丁度雨降ってないからかなぁ・・あぁ、そうかもしれない」
「信じられへんわ。だってほら、外みてみ」

そうやって、ライブハウスのブッキング件オーナーが、程よくホコリを纏った二重窓を指差す。外はなかなかの本降り。天気予報なんか見なくても、普通は電車、もしくはバスだ。

「ですよね〜ハハハ」
「ハハハじゃないよ。全く」

それから、雨の影響で入り時間から大幅に遅れて到着した、他の出演者たちからも、それさっきも聞いたなぁ・・と言うような話をほとんど人数分繰り返して、その後、足元の悪い中来場してくれたお客さんからも、また同じようなことを、繰り返し繰り返し聞かれることになる。

ただ、ライブ終了後の、皆の雰囲気を見ていると、どうもおかしい節がある。

「みんな、今日はまだ帰らへんの?」

それぞれが、お目当てのミュージシャンを捕まえて、ライブ後談義をしたり、全く関係のない、どうも好きな人にふられた話をしてる人や、この後打ち上げ行くんすか?ってやたら言うやつもいる。

「神部くんはどうすんの。この雨やのに。ベスパ置いて帰るんか?」
「いやぁ〜なんかね。もう少しで、ん〜後30分くらい?雨あがる気がするんよね。そしたらベスパで帰るよ」

その刹那、辺りでそれぞれ集団を形成していた各グループから聞こえてくるのである。

「どうやら、後30分らしいよ」
「ほんまかなぁ・・今日のは流石に無理やって」
「でも準備だけしとこうや。先に支払いしてくるよ」

そう言った、ざわざわした声が、聞こえてくるのである。


そして、その答えは、30分後に訪れる。

「マスター、雨上がったぽいから帰ります」
「みんな、いつまた降るかわからんから、駅までダッシュやで‼︎」

そして、僕。

「今日もありがとうございました」
「おぉ、下濡れてるんやから、気をつけて帰りや〜」

そうやって、小屋を出ると、
身体に感じる、雨上がり特有の匂い

「この匂い、意外と好きなんよなぁ・・」

誰に聞かせるでもなく、一人呟きながら、
真っ赤なベスパに跨って、環7から練馬へと。


これは結局、なんなんだ・・
雨に好かれているのか、それとも晴れに好かれているのか・・
そのどちらでも、ないのか・・

その答えがわかるのは、
この時からもう少し先の未来のお話である。






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