バイデンの気候サミットの報道されないところ
4/22-23、パリ協定に復帰した米国主催の、気候サミットが開催されました。
報道では伝わってこないけれど、大事な内容が詰まっているのが22日の夜に開幕した、各国首脳が集うオープニングセッション。日本では、菅総理が46%に目標を引き上げてコミットしたことに色々言われていますが、その他の国は何を語ったのでしょう?
各首脳の長いスピーチから、私が印象に残ったものを独断でピックアップしました。結構勉強になるんです。
米国 ハリス副大統領&バイデン大統領
「この危機を自ら解決できる国はない。世界の主要経済大国が対策を強化しなければいけない」
「2030年までにアメリカは温室効果ガスの排出量を2005年に比べて、50%から52%削減する」
従来の目標から、削減幅をおよそ2倍引き上げることを表明。
この一節ばかりが報道されていますよね。ただ、米国は戻ってきました。もう「アメリカファースト」ではありません。
ちなみに、このアメリカの数字と関連があるのがこのグラフ。
そりゃ2005年と比較して削減、と言いますよね。
その後、国連事務総長に続きます。
国連 グテーレス事務総長
「母なる自然は待ってくれない」
「太陽光発電など再エネを利用できる設備投資を増やすことが必要。」
「石炭火力発電を段階的に廃止すべき。先進国は2030年までに、その他の国も40年までに全廃すべきだ。」
「先進国はG7(@英国・6月)で途上国向けの財政支援策をまとめよ。」
「若者は、年長者をプッシュしよう!」「女性は遠慮なく活躍しよう!」
いきなり、石炭火力にとどめを刺しに来ました。(でも、これはずっと前から言われている事なんです・・・)
中国 習近平国家主席
「温室効果ガスの排出量については、30年までにピークを迎え、60年までに排出量を実質的にゼロにする」
「石炭の消費量を 2025年から徐々に減らしていく」
「山を守る」「システミックガバナンス」「自然のバランスエコシステム」
といった、COP16を意識したかのような発言も多く見られます。
目標は数値言及無しで見通しは据え置き。個別に素晴らしい取り組みはあれど、国としては、30年まで、拡大するGDPに応じて排出はまだ増える。国としては脱炭素からは一歩距離を置いているイメージです。
「人を中心としたアプローチに従わなければならない」
「国連中心の多国籍主義に従わなければなりません。」
これは、西側が勝手にルールを決めるのではない、という牽制でしょうか。
「われわれは途上国による気候変動対策への貢献を十分に認識する必要があり、こうした国が抱える特有の問題や懸念に対処する必要がある。」
「先進国は気候変動の目標や取り組みを強化し、途上国の低炭素社会への移行支援などで具体的な施策を提供せよ」
これは、いつもの先進国への履行を迫るやつですね。
「私たちは自然を私たちのルーツとして扱わねばならない。自然を尊重し、保護し、その法律に従わなければならない。」
こちらは、今年の11月に予定されている昆明での生物多様性会議(COP16)を意識した発言かな・・・
インド モディ首相
特に新しい目標はない印象。
多くのインド人が既に持続可能な伝統的慣行に根ざしているため、インドの1人当たりの二酸化炭素排出量は世界平均より60パーセント低い。
再生可能エネルギーの利用拡大に向けた米国との新たな連携を発表。
英国 ボリスジョンソン首相
相変わらず、自分の言葉で演説するスタイル。
「1990年と比べ、2035年までに78%削減する。現在42%削減し、経済は73%成長。」
「米国が入ってきたのはゲームチェンジアナウンスメントで興奮する」
「投資は、気候変動に対応する遺伝子組み換え種の開発、スーパーコンピューター、宇宙」
そんな中、「この気候変動対策は、バニーハガーにはならず、しっかり進めるんだ」という風に言及し、欧州ではグレタさんが、自分のプロフに「バニーハガー」と書いたりするちょっとした騒動になっているようです。
※バニーハガー:
動物愛護の人たち、倫理的に(ややあざとい感じで)メッセージを伝えようとする人たちを表現している向きもあるようです。
日本 菅総理
「2030年度目標を、2013年度から、既存の26%→46%削減へ7割以上引き上げ、さらに、50%の高みに向け、調整を続ける」
「世界のものづくりを支える国としてふさわしいトップレベルの野心的な目標を掲げ、世界の脱炭素化のリーダーシップをとっていきたい。」
ついに日本からも2030年の具体的な数字が出ました。46%。積み上げ型日本にしては頑張った印象。但し、これでパリ協定順守が出来るかというと、62%なければ間に合わないという試算があることも付け足しておきます。
いずれにせよ、これから産業界も脱炭素が加速します。
「企業に投資を促すための十分な刺激策を講じる」
「2030年までに、全国各地の100以上の地域で脱炭素の実現」
「食料・農林水産業において、生産力を向上させながら、持続性も確保するためのイノベーションの実現」
「サーキュラーエコノミーへの移行を進め、新産業や雇用を創出。」
かなり環境省からのインプットが効いている印象。サーキュラーエコノミーへの移行を目指す旨、ハッキリ宣言しています。
「日本が誇る省エネ・水素・CCSなどの技術を最大限活用し、世界の脱炭素移行を支援」
「多国間主義アプローチを極めて重視する日本は、気候変動という人類の課題を解決するため、COP26およびその先に向けて、各国や国際機関と協力しながら、指導力を発揮していく決意です。」
ちなみに、2013年は、日本の排出ピーク。2005年はアメリカの排出ピーク。削減幅のパーセントを大きく見せる戦略は、色々な国が取りますね。数字のマジックも加味して、数字を見る必要があります。
「ものづくりの国」からも、金融立国の国と比較しないでよ、というメッセージも読み取れます。
カナダ トルドー首相
2030年までに2005年比でGHG30%削減だった従来目標を「40~45%減」に目標引き上げ。
バングラデシュ シェイク・ハシナ首相
「年間1,000億米ドルの世界気候基金の設立、再生可能エネルギー部門の拡大に向けた支援を先進国に求める」
※パリ協定の誓約の一環として、2020年以降、脆弱な国々が緩和と適応を通じて気候変動に取り組むのを支援するために年間1,000億米ドルを調達するという規定があったが、これまでのところ、実現していないという主張のようです。
ドイツ メルケル首相
「ビジネスも仕事も、全てやり方を変える時だ。」
「1990年と比較し、55%削減。石炭はすでにピークアウト、2020には再エネ46%になった。」
「カーボンプライシングを、輸出入と暖房に」
「世界中の生物多様性の損失を食い止めるために、世界の陸地と海面の30%を保護下に置くことを提案」
カーボンプライシングや生物多様性にもどんどん具体的に踏み込んできました。
フランス マクロン大統領の番だけど・・・
ここで、サミットのテクニカルトラブルが発生した模様!
関係者焦ったろうなぁ・・・いったん飛ばして次へ。
ロシア プーチン大統領
急に回ってきたプーチン大統領。
この貫録で1分の沈黙の後、(会場、不安になってました 笑)
「1990年代以降、モスクワは排出量を半減させた」
「水素発電にも力を入れていく」
「カーボントレーディングもやっていく」
「新たな排出の問題に取り組むだけでは十分ではなく、すでに大気中に存在するCO2を吸収するという仕事を引き受けることも重要だ」
「格差の是正も大きな課題だ」
国連中心の政策を、という事で、やはり中国同様、西側諸国主導のルール作りに異を唱える意図もあったのでは、と感じました。
フランス マクロン大統領(再)
「金融システムの再構築」
「NGFS(気候変動リスクに係る金融当局ネットワーク)」
EUの金融監督当局が主導=金融システムをグリーン化する!
「TCFD」← マクロンはTCFSと言ったが、TCFDの言い間違いと思われる。
「これらが、新しい金融のモデルになる。」
金融のトピックがとても強く出ていました。
韓国 ムン・ジェイン大統領
「新しい石炭発電所への公的資金調達を停止する」
「まもなく積極的な目標を国連に提出する」
石炭火力発電離れは、アジアでも本格化してきました。
「石炭への依存度が高いために苦戦する開発途上国は十分な配慮と適切な支援を与えられるべきであるが、世界は石炭火力発電所を減速させることが不可欠である」
先進国としての発言と、途上国の立場の代弁と、なかなか巧みです。
インドネシア ジョコ大統領
途上国としての見解。グリーン開発の支援を求める。
ネットゼロ排出のパイロットプロジェクトとしてインドネシアグリーン工業団地の建設の紹介。EVのバッテリーを作る。
南アフリカ ラマポーサ大統領
「2030年の排出上限を28%削減」
「以前は2025年にピークに達し、2035年から減少させるという計画だったが、2025年から減少させることを狙う。10年早める。」
「貧困の解消」
南アフリカも、目標を引き上げてきたようです。
イタリア マリオ・ドラギ首相
「パリ協定で、温暖化を産業革命以前と比べて1.5度の上昇に抑えることを約束したが、それ以来私たちが取った行動は不十分なことが証明」
「金融を、経済を作り直さねばならない。」
「今すぐ行動しよう、後で後悔しないように。」
マーシャル諸島 デービッド・カブア大統領
海抜わずか1メートルの低地の環礁国からです。
「地球温暖化を1.5度に制限するパリ協定の「生き続けるための1.5」キャンペーンを主導し、署名後に新しい気候目標を提出する最初の国になった。」
「あまりにも頻繁に、国々の『急激な排出削減はコストがかかりすぎる』という言い訳を聞く。が、主要経済国からのメッセージがトレンドを作る。(しっかりしてくれ)」
「COVID-19からの回復をチャンスに変えるべきだ」
切実です。
アルゼンチン フェルナンデス大統領
「再生可能エネルギーで国の30%を供給する」
「違法な森林伐採を根絶する立法。環境犯罪として分類。」
「国際的な信用機関は、特に「生態系サービスのための」そして「気候変動対策のための債務スワップ」への貢献で、もっと貢献すべきだ」
「文化的意識のために連邦環境教育法を推進」
私もこの辺りで疲れてきたのですが、森の管理が出てくるところが、本当に世界は多様だなぁ、と感じます。
EU フォン・デア・ライエン委員長
「EU諸国は2030年までに温室効果ガス排出量を1990年レベルより55%削減することに合意した」
「私たちの政治的コミットメントは、今や法的コミットメント」
「科学によれば、まだ手遅れではないが、急がなければならない」
「カーボンは値付けされねばならない。自然はこれ以上代償を払えない」
「1.8兆ユーロは、気候関連の成長を見込んでいる。」
内容は上記なのですが、とにかくスピーチがうまい・・・カッコいいなぁ、と思わされます。
サウジアラビア ソロモン王
「再エネで、2030年までに王国のエネルギー需要の50%を生み出すため、戦略と規制のパッケージを立ち上げた。」
「昨年G20で、土地の劣化を防ぎサンゴ礁を保護する、2つの国際的なイニシアチブを立上げ、循環経済の概念を採用する必要性を提唱した。」
「ムハンマド皇太子が最近、炭素排出量を現在目標より10パーセント以上削減することを目的としたグリーンサウジイニシアチブとグリーン中東イニシアチブを発表した。」
「サウジアラビアにに500億本の木を植えることを目指している。」
王様が、威厳に満ち、紙を堂々と読んでいました。いろんな国があることを痛感させられます。
ただ、このサミットのオープニング、どこまで続くねん、と思いませんか?私も、かなりそう思って見ていました。まだ出てきます。
ブラジル ジャイール・ボルソナロ大統領
「2030年までに違法な森林伐採をなくす」
「地球最大の生物多様性の本拠地として、また農業環境の大国として、ブラジルは地球温暖化に取り組む取り組みの最前線にいる」
森多いもんね・・・
ブータン ロテ首相
「既にGNH(国民総幸福)で測っている」
「我々のエネルギー源は水の力だ」
「我々は既にカーボンニュートラルではなくカーボンネガティブだ。」
「後発開発途上国(LDC)を代表し、長期的な気候回復戦略を推進する準備ができている」
「後発開発途上国への援助をすべきだ」
全然ニュースにならないけど、印象的だったのがこれ!スピーチもうまいし、既にGNHだし、既にカーボンネガティブだし・・・なんか、ブータンの偉大さが光り輝いて見えました。
オーストラリア スコット・モリソン首相
・・・また音が出ない!!!・・・機材トラブル??
いやー、担当者は大変だ・・・1分ほどで復活。
引き上げも期待されていたものの、2030年までに炭素排出量を2005年のレベルより26%〜28%削減するという既存の公約を堅持。
「私たちの目標は、私たちの産業を可能にし、変革する技術を通じて、可能な限り早くそこに到達することであり、産業を排除する税金や、彼らが支援し創出する仕事や生計手段ではありません」
「将来の世代は、私たちが約束したことではなく、私たちが提供するものに感謝します。」
アンティグア・バブーダ ガストン首相
気候についてはほとんど言及せず、パンデミックのために観光業に依存する国々を襲っている金融災害に焦点を当て、国の債務を免除もしくは再編成するよう要請。
米国だけでなく中国も気候問題のペースを設定しているという事実を賞賛。
光るメガネが終始気になりました・・・
メキシコ アンドレ・ロペス大統領
最近3つの炭化水素鉱床を発見した。そのすべてが内需を満たすために使用される。メキシコはもう原油を売ったりガソリンを輸入しないだろう。
ガボン アリ・ボンゴ大統領
88%を占める森を守る。Biodiversityに貢献。
コロンビア イヴァン大統領
「必要とする開発途上国に債務救済を提供せよ」
「目標を達成するには、より持続可能なエネルギー源、よりクリーンなモビリティ、そしてアマゾンの森林破壊の削減」
「2022年8月までに1億8000万本の木を植える」
「気候変動への私たちの貢献は、その宝:多様な生物を保護すること」
生物多様性(Biodiversity)に言及する国がとても増えました。
トルコ エルドアン大統領
「まず、トルコは現在の気候危機に対し歴史的な責任をほとんど負わない」
「世界の気候体制において公正な観点から評価されるべきである」
「森林地帯を増やし、生物多様性を改善し、環境を保護するために投資」
「地域で再エネをリードしており、2030年までに、太陽光発電能力を10ギガワットに、風力発電を16ギガワットに増やす」
いやー、トルコは独自に行きますねぇ。石炭のガス化水素を今から増やしていくと宣言している国の一つです。
でも、その背景を少し解説すると、第一次大戦でオスマン帝国が負け、その後、1923年ローザンヌ条約でトルコの国境線が決まったとき、連合国より合わせて今後100年、地下資源を採掘する事を禁じられました。その禁が空けるのが2023年ということで、そこからトルコは資源の採掘をするぞ!と手ぐすね引いて準備している状況です。
「歴史的な責任をほとんど負わない」という言葉は、とんでもなく聞こえますが、そういう背景から来ているのかもしれません。
チリ セバスチャン・ピネラ大統領
チリは「小さな国」だが、グリーン水素を推進することで貢献することを目指している
XIYE BASTILLA - Fridays For Future
米国のグレタと呼ばれるMexico出身のNY在住の若い女性です。
気候危機は、地球規模の問題に対し、「植民地主義、抑圧、資本主義、市場志向の洗脳された解決策の有害なシステムを永続させ、支持している」権力を持つ人々の結果。
現在の経済的および政治的システムは、「世界の『南』を対象とし、黒と茶色のコミュニティを世界の『北』に向ける」「犠牲となるエリアの存在に依存している」
世界の指導者たちは、気候変動について話すだけでなく、「化石燃料の時代が終わったことを受け入れる必要がある」
世界中の再生可能エネルギーへの即時移行と、新しいパイプラインを含む化石燃料やインフラへの補助金の廃止を要求する、怒りのこもった勢いのあるスピーチでした。
ここで、第一部が終わり。
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さて、今回の日本の46%削減。これまでの日本を観察してきた私としては、積み上げ式だと30%代という話もある中、かなり頑張った方だと感じました。
一方で、日本が1.5度以内に抑えるパリ協定を守るためには、2030年に62%の削減が必要という試算もあり、不十分だという声が強く上がることも理解できます。※不十分だという声は、欧州にも、米国にも向けられています。
しかし、こうしてみると、世界は本当にいろんな国があり、その国ごとに政治があり、事情があり。人間の集団の意思決定はなんて難しいのだろう、と思います。
国ごとに異なる事情がある中、一律横並びで比較するのが最善の手法とは思えませんが、魔法はなく、民主主義の仕組みを洗練させていくしかないのでしょう。
この、気候サミット、下記からどなたでもご覧になれますので、是非どうぞ。首脳のスピーチが延々と続いて、一つ一つのスピーチは短いのに、全体としては結構長いです(英語です)。
画像も、ここからの引用です。
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