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IPCC AR6 第二作業部会報告の内容を読んでみた。

何のご縁か、記事を読みに来ていただいた皆さまこんにちは。コンテンツコーディネーターのせいどうです。

さて、昨日公表されました、IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)の第六次評価報告書、第二作業部会報告について、今後の気候変動適応策において重要な概念になるであろうことを中心に紹介したいと思います。

この記事は以下の構成で進みます。

0.この記事を読む前に
1.「1.5℃」は今後どうなるか
2.無化される「境界」。3.「ルール」と「適応」
4.おわりに

0.この記事を読む前に

まず、この記事は2022年2/28(月)現在執筆されているもので、メインで扱うものは報告の「政策決定者向け要約、ヘッドラインステートメント(以下HS)」です。
また、この記事を読んだ皆さんが関心を持ち、実際の報告書を読んでもらえるよう、日本語の暫定訳を参考にしています。
そのため、今後この記事の内容・表現の一部が訂正される可能性があることをご了承ください。

ではでは、まず日本国内メディアの報道を見てみましょう。
例えば、朝日新聞社NHKは「広範な被害・悪影響」という表現をタイトルに入れています。これはHSのB(観測された影響及び予測されるリスク)の1節で書かれた内容です。また、毎日新聞社は「適応の限界」に関する指摘があったことをタイトルに入れており、HSのC(適応策と可能にする条件)の3節で報告された内容です。
日本経済新聞は「水不足30億人」と、より具体的な被害についてタイトルで紹介しています。この内容は直接HSでは確認できないので、気になる方は元の報告書を読まれることをお勧めします。

さて、国内メディアにはこうした内容についての報道をお任せして、私は以下の3トピックに沿ってHSの内容を紹介させていただきます。

1.「1.5℃」は今後どうなるか

HSの中で、「1.5℃」という表現は5回確認できます。
うち1回は「1.5℃」に達しつつある、という事実を紹介するために。
その他4回は「1.5℃付近」「1.5℃を超える/以下に留まる」といった、「1.5℃」を「境界」として扱う表現が見られました。

これは、昨年COP26での「1.5℃」表現の確認などでもわかるように、国際社会の「目標観」において、「1.5℃」という数字が現在も目指すべき具体的目標として表彰化されていることを意味すると考えられます。

また、1.5℃を超える場合においては、危険性が向上しリスクに追加的に直面することなどにもHSで言及され、より一層の取り組みを進め、目標をクリアすることの重要性を示唆していると言えるでしょう。
少なくとも、今回の報告書では「1.5℃」は取り組むべき目標として提示され、今後も諦めず目指す目標として継続されることを確認したのかもしれません。

2.無化される「境界」

一方で、もはや気候変動適応において、ある種の「境界」が失われつつあることがHSから指摘できます。
例えばB5.「気候変動の影響とリスクはますます複雑化しており、管理が更に困難になっている。複数の気候ハザードが同時に発生し、複数の気候リスク及び非気候リスクが相互に作用するようになり、その結果、全体のリスクを結び付け、異なる部門や地域にわたってリスクが連鎖的に生じる。」
という指摘、これは、ハザードが複合化し誰しもが「気候変動の影響を受ける人」になるという既存の指摘を明確にしたもので、日本人にありがちな「温暖化は海の向こうの話」という捉え方が誤りであることを裏付ける指摘でもあります。
つまり、「空間的な境界」がない問題として、気候変動問題はこれから多大な影響を与えるリスクを有し、それに適応することが要求されていると言えるでしょう。

また、C1.「多くのイニシアチブは、即時的かつ短期的な気候リスクの低減を優先しており、その結果、変革的な適応の機会を減らしている。」
では、長期変化への対応として考えるべき気候変動適応について、残念ながら具体的行動はそれに沿っていないことを指摘しています。つまり、「時間的境界」を設け、短期的な対策にとどまっている現状に警鐘を鳴らす、そういった指摘であると読み解くことができるでしょう。

気候変動問題は、もとより世代間・地域間といった「境界を超える」問題です。
そうした問題であることを素直に受け止め、対策をより進めていくことが重要であると、科学的知見が改めて示したと言えるのではないでしょうか。

この境界の無化については、矢守(2020)がコロナ禍に直面した際の自然災害対策に関して『「境界なき災害」』と題して、非常に示唆ある指摘がなされておりますので興味がある方はご一読ください。

3.「ルール」と「適応」

気候変動適応は、もはや「詰み」な状態なのでしょうか。
HS.C5では、適応の失敗を回避することについて、それを「可能にする条件は、人間システム及び生態系における適応を実施し、加速し、継続するために重要である。これらには、政治的コミットメントとその遂行、制度的枠組み、明確な目標と優先事項を掲げた政策と手段、影響と解決策に関する強化された知識十分な財政的資源の動員とそれへのアクセスモニタリング評価包摂的なガバナンスのプロセスが含まれる。」
と指摘しています。
非常に多岐にわたり、どれも重要な概念です。今の日本ではこれらすべてに取り組むことは「難題」かもしれませんが、しかしやらなければならない局面でもあると言えるでしょう。

なかでも、「制度的枠組み」は、他の多くの取り組みを加速させるカギになると言えます。今後、この報告書を受けた日本政府、世界の動向が非常に楽しみです。

4.おわりに

報告書の詳細については、是非本文や、3月に公表される予定のSPM邦訳等を確認ください。
このnoteを読んでいただいた方が、気候変動適応についてより深く考えてくださることを祈り、筆をおかせていただきます。

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