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[無料公開]ユーザー中心組織論〜あなたからはじめる心を動かすモノづくり〜 3章 共創する組織 _PR

そのプロダクトは誰のためのものですか?」ーーこう質問したとき、モノづくりに関わるメンバーは皆同じユーザーを思い浮かべることができるでしょうか。

ビジョン、ビジネス、チーム、サイクル、カルチャー、モノづくりに関わるメンバーの視点をユーザ中心な価値観にそろえていくための方法と、「あなた」が一歩踏み出すために必要なマインドセットをやさしく解説します。

本書はスタートアップでプロダクト作りをするUXデザインの専門家である金子と、弁護士などの専門家の言葉をわかりやすく翻訳して届ける仕事をしている並木さんとが二人で共創して書いた本になっています。

今回、出版元である技術評論社さまから一部無料公開の許可を頂いたので、さらに多くの人に共創のきっかけを届けたいと思い「3章 共創する組織」を公開させていただきます。

3章 共創する組織 より抜粋---------------------------------

ユーザー価値を生み出す「共創」

「速く行きたいならひとりで行け、遠くへ行きたいならみんなで行け」という格言があります。多様なメンバーの力がうまくかけ合わされば、ひとりではつくり出せない新しい価値が生まれます。モノづくりも同じです。
組織で新しいユーザー価値を生み出すには、共創の力が欠かせません。共創とは、さまざまな役割を持つエキスパートが、自分の考えや経験をもとに議論しユーザー価値を「共」に「創」り上げていくことです。これまでに思いつかなかったアイデアや新しい方法を生み出す状態です。

共創を生む組織では、メンバーが持っている以上の能力を発揮したり、誰も思いつかなかったアイデアが生まれたりします。

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前章ではユーザー価値の解像度を高くする方法について解説しました。ユーザーの高い解像度のもと、ユーザーインサイトを探し出し、新しい価値(意味的価値)を生み出すことは簡単ではありません。これを実現する可能性があるのは、多くのエキスパートが共創状態でモノづくりに取り組んでいる組織です。

「共」につくるために、さまざまなエキスパートの視点をそろえましょう。視点の中心はユーザーです。エネルギーのベクトルをユーザー中心にそろえれば、本来のパフォーマンスを超えたモノを生み出せるかもしれません。

組織が変わればモノづくりも変わる

「システムを設計する組織は、組織の形とそっくりのシステムを生み出す」

これは、英国のコンピュータ科学者メルヴィン・コンウェイが提唱したもので「コンウェイの法則」と呼ばれています。簡単に言えば、できあがるモノは、組織の形に左右されるということです。
これはソフトウェア設計に関する法則ですが、組織におけるモノづくりにもあてはまると私は考えます。組織の形を変えずにモノづくりを変えるのは困難です。組織の形に逆らってモノづくりを変えようとすると、たいていいびつなモノができあがります。

ユーザー中心なモノを生み出すには、まずユーザー中心な組織をつくる必要があります。

ここからは、組織の形をユーザー中心に変えることで、ユーザー価値を生み出す方法を紹介していきます。

役割中心での共創は難しい

一般的な組織では、メンバーに業務内容に応じて役割を与え、チームに分割しています。これを役割中心の組織とします。ユーザー視点を中心にした共創するモノづくりは、全員が業務内容にとらわれずに行動できる組織でなければ実現は困難です。
「役割中心の組織」「業務内容にとらわれずに行動できる組織」と言っても抽象的でイメージしづらいので、レストランに例えてみます。料理(プロダクト)をつくるのはレストランの厨房にあたる企画・開発などの部門です。ホールはお客さん(ユーザー)に料理を提供し、コミュニケーションをとるセールスやカスタマーサービスなどの部門といえるでしょう。

お客さん(ユーザー)に価値を提供するためには、料理(プロダクト)だけにではなく、レストラン(組織)そのものに注目しなければなりません。

オーナーシェフがひとりで切り盛りしているうちは、自分だけで完結して思い描く最高のレストランで最高の料理をつくり出せます。シェフがホールと厨房を行き来して、注文をとり、料理をつくり、料理にあったワインを選びます。レシピや接客などを柔軟に変更して、お客さんの満足を追い求められます。より多くのお客さんに喜んでもらいたいと考えると、従業員を雇うことが現実的です。ウェイターがオーダーを厨房に伝え、コックが厨房で料理に腕をふるい、ソムリエが顧客のリクエストに合わせてワインを選ぶようになります。
やがてコックにはコックの業務フローが、ウェイターにはウェイターの業務フローが生まれ、その業務フローを研ぎ澄ますことがそれぞれの関心の中心になります。こうして、それぞれの視点は自分の役割に集中し、役割中心のレストランに変わっていきます。

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Q.視点がズレた議論をした経験はありますか?(クリックしてTwitter)

役割が中心になったレストランでは、それぞれのエキスパートは自分の信じる最高のサービスを提供しようとしているにもかかわらず、ウェイターはコックが「どこから材料を仕入れているのか、どのように調理しているのか」わかりません。コックは、ウェイターが「顧客にどんなサービスをして、どのように料理を勧めているのか」を理解しようとしません。ソムリエは、「来週のワインリストをどうするか」にしか関心がありません。本来、価値を生み出すために本当に大切にしなければいけないユーザーに誰も向き合わない状態です。
役割中心組織では、視点がバラバラになりがちです。つくるモノが決まっているときの業務効率化やコスト削減には向いていますが、何をつくればよいのかわからず、共創が求められる場面には向きません。それぞれの役割に閉じた組織では、たとえエキスパートが集まっていても共創が起きにくいと言えます。これについては「6章目的に向き合うチーム」でも解説します。

「群盲象を評す」

視点がそろっていない組織の弊害を理解してもらうために、「群盲象を評す」というインドの寓話を紹介します。物語には数人の盲人が登場し、それぞれが象に触って感想について語り合います。

- 象の足を触った盲人は「柱のようです」と答えます。
- しっぽを触った盲人は「綱のようです」と答えます。
- 長い鼻を触った盲人は「木の枝のようです」と答えます。
- 耳を触った盲人は「扇のようです」と答えます。
- 腹を触った盲人は「壁のようです」と答えます。
- 牙を触った盲人は「パイプのようです」と答えます。

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それぞれ触った部位が異なるため、当然感想も異なります。それなのに、それぞれが「正しいのは私だ!」と主張して譲りません。それを見ていた王が、盲人たちにこう伝えます。
「あなた方はみな正しい。しかしあなた方の話が食い違っているのは、あなた方が象の異なる部分を触っていたからです。象は、あなた方が答えた特性をすべて備えているのです」
この寓話はさまざまな国で、教訓として伝えられています。同じ状況は組織にもあてはまります。エンジニアやデザイナーが考える「よいモノ」、営業サイドが考える「よいモノ」、企画担当者が考える「よいモノ」、それぞれが考えているのは同じ「モノ」ではありません。

それぞれが触っている部分(担当する業務)にのみ注目してモノの良し悪しを語るのは、盲目のまま象の姿について議論するのと同じです。

組織が大きくなり、それぞれが自分の業務の視点から良し悪しを判断していては、役割が増えるごとに「よいモノ」も増えていきます。

組織の視点をそろえる

モノの価値を判断する基準は、置かれている立場によって変わります。デザイナーは見た目の美しさを何より重視しているかもしれません。エンジニアは運用の簡易さに価値を感じているかもしれません。セールスは競合と比較した優位性を求めているかもしれません。

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それぞれにとって価値あるモノをつくろうと議論した結果、まとまらず折衷案のモノをつくると、誰にも必要とされないモノが生まれてしまいます。
だからといって、同じ役割と価値観を持つメンバーばかりを集めてモノづくりをしても、議論はスムーズに進むかもしれませんが、新しいアイデアは生まれにくいです。既存の意見がより強くなるだけで、新しいユーザー価値を生み出すのは難しいでしょう。

ここで必要なのは、それぞれの立場の視点からモノを評価するのではなく、評価する視点を組織でひとつにまとめることです。

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Q.別視点からの折衷案で失敗したことはありますか?(クリックしてTwitter)

視点をひとつにまとめれば、モノづくりに関わる力もひとつの方向を向けることができます。大きな重りを綱で引いて動かそうとしたとき、ひとりより2人で引くほうが、動かせる可能性は高いでしょう。ただし、2人が同じ方向に引く力を向けなければ意味がありません。それぞれが違う方向に重りを引いたら、ひとりのときより動かせる重量は小さいでしょう。
モノづくりも同じです。視点も目的地もバラバラでは共創は生まれません。視点をそろえ、力のベクトルをそろえ、掛け算の力を生み出すのが共創する組織です。

ユーザーが組織の視点を束ねる

もうみなさんおわかりかと思います。組織の視点をまとめる中心として、最も適しているのは「ユーザー」です。モノづくりの最終目的は「ユーザーに価値を届けること」だからです。

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「これをつくる」という設計図自体に視点をそろえてしまうと、その設計図がユーザーにとって価値がなくなったときにすべてが無駄になります。これはVUCA時代のモノづくりにおいて起こりがちです。
ユーザー価値を生み出すことが目的であれば、ユーザーに組織の視点を合わせるのが最も直接的な方法です。ユーザーに視点がそろっていれば、もしモノづくりの設計図を間違っても、何度でもすばやく方向転換できます。
営業にとっては対価を支払ってくれる人、デザイナーにとっては感動してくれる人、エンジニアにとってはテクノロジーを利用してくれる人。これらをすべて同じユーザーにそろえるのです。

どんな立場のメンバーであっても、それぞれの「よいモノ」の先には同じユーザーがいます。

ユーザー視点は、組織のモノづくりの共通の視点になりえます。バラバラになりがちなエキスパートたちの視点を、それぞれの役割を活かしたままひとつにまとめられます。それぞれのエキスパートがユーザー視点を持てば、すばやく柔軟な改善のサイクルが回ります。

「さまざまなエキスパートがユーザーを中心に視点を合わせ、組織が共創をはじめ、新たなユーザー価値を創造する」これが本書の目指すユーザー中心組織のあり方です。

これから、共創が生まれるユーザー中心な組織のつくり方を解説していきます。ユーザー中心な組織をつくるための要素として、ビジョン、ビジネス、チーム、サイクル、カルチャーの5つの要素を取り上げます。

共創のための5つの要素

組織において価値あるモノづくりをするためには、次の5つの要素のベクトルをユーザー中心にそろえる必要があると考えます。

- 【ビジョン】船の行く先はどこか
- 【ビジネス】船をどうやって前に進めるか
- 【チーム】船の仕事をどう分担するか
- 【サイクル】船をどう軌道修正していくか
- 【カルチャー】船員がどう協力しあうか

それぞれの要素がどれだけよく練られていたとしても、ベクトルがバラバラになっている組織をよく見かけます。それでは、「船頭多くして船山に登る」になりかねません。そうならないためにも、これらの5つの要素をユーザーを中心にそろえていきましょう。

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5つの要素を簡単に紹介します。

①【ビジョン】何を成し遂げたいかの理念・目的地
本書におけるビジョンとは、夢や理想のような抽象的なものではなく、具体的な組織の目指す方向性です。「誰にどんな価値を提供したいのか」をユーザー視点で具体化して、組織の視点をそろえましょう。

②【ビジネス】収益を上げて成長を維持するためのしくみ
営利企業であれば、収益が必要です。ユーザーを中心にしてビジネスモデルを整理することで、ビジネスの成長サイクルを目指します。ビジネス部門だけではなく、企画や開発なども含めた組織のあらゆるメンバーがそれぞれの役割を整理して、ユーザー中心なビジネスモデルを構築していきましょう。

③【チーム】 目的を同じくしたチームでモノをつくる
組織が大きくなるにつれて、全員参加でのモノづくりは難しくなります。このとき実務の単位で分割された「チーム」をつくります。会社によってはプロジェクトだったり、事業部であったりするでしょう。メンバーが同じ方向に進むために、ユーザー中心に視点に合わせた「目標」を設定していきましょう。

 ④【サイクル】組織とモノづくりをサイクルで成長させる
ビジョンにはすぐにはたどり着けません。小さく試す「プロトタイピング」というプロセスを通して、小さな成功と失敗の学びを組織に蓄積しましょう。細かな試行錯誤のサイクルは、一見遠回りしているようにも見えますが、一直線にたどり着こうとするより価値あるモノをつくり出せる可能性が高まります。ユーザーというコンパスを見つめながら、小さくサイクルを回しビジョンの実現に向かいましょう。

⑤【カルチャー】組織の土台をつくる
カルチャーは組織の土台です。共創は優れたカルチャーのうえでこそ維持できます。どんなにすばらしいメンバーが集った組織も、悪いカルチャーが根付けば崩壊に向かいます。共創を生み出す組織であり続けるために、関係性のグッドサイクルを回しましょう。

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これから解説するのは、5つの要素のベクトルをユーザーにそろえていく方法です。章の順に、組織の根本的な部分から、個人につながる部分へ関連していきます。
自分の立場に置き換えて考えるのが難しいと感じたら、いくつか章を読み飛ばして、後で読んでもかまいません。
5つの要素をすべて細部にわたって理解する必要はありません。もし5つの中で、自分が「行動したい」と強い熱意を感じる部分があれば、そこからはじめてみましょう。具体的な行動の起こし方は9章から解説します。

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小さくはじめてみよう

別の視点からモノを評価してみよう
身の回りを見渡して、何か分かりやすい特徴を持つモノをひとつ写真に撮ってみてください。そのモノの持つ特徴を「自分の視点」で見たときと、立場の違う「他者の視点」で見たときでどう違うかを言語化してみましょう。

▼アウトプットしてみよう!
この章のあなたの学びをシェアしてみよう!#UCO(クリックしてTwitter)

【回答例】( 薄いガラスコップの写真を撮って)
私にとって、この薄いガラスでできたコップは飲み口がよく気に入っている。一方で、割れたら鋭利な破片でケガをしてしまうかもしれない。小さな子どものいる家庭では喜ばれないだろう。

著者紹介

金子剛[カネコツヨシ]
600株式会社ExperienceLead。新卒でヤフー株式会社に入社、株式会社サイバーエージェントで新規事業のデザイナーとしての下積みを経て、株式会社リブセンスで開発チームのリーダーを担当。弁護士ドットコム株式会社でデザイン部を立ち上げ後、現在は無人ストア事業のスタートアップにてWEBを飛び出しハードウェアのExperienceを設計中
並木光太郎[ナミキコウタロウ]
弁護士ドットコム株式会社企画編集部ガイドコンテンツ責任者。法科大学院を経て弁護士ドットコム株式会社に入社。オウンドメディア「弁護士ドットコムニュース」で、時事的な話題や身近なテーマを法律的な切り口で解説する記事の執筆・編集に従事。現在は、法的トラブルに悩むユーザーのための法律ガイドコンテンツの作成を中心に、法曹業界の旬な話題など弁護士に向けた記事なども執筆。法をテーマにさまざまな読者層に向けたコンテンツを発信している

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