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Leica MPを買った話

中古のLeica MP ブラックペイントを買いました。ライカ欲しかったわけじゃないし、正直今でもピンと来てません。
なぜ買ったのか、ということを備忘録も交えて書きます。

以前の記事で書いたように、フィルムカメラはIKON ZMを使用してました。

使いやすさで言えば今でもレンジファインダーフィルムカメラでは最高位に値すると思っています。スペックを見てもその軽さ(460g)・巨大で明瞭なファインダー・絞り優先AE搭載・電源OFFスイッチあり・小気味よい音の最高速1/2000のシャッター・トップクラスに長い基線長など長所の枚挙に暇がありません。あとフラットで直線的な潔いスタイリングもいい(これは主観)。

一方でMPと言えばズッシリ重く(600g)、IKONと倍数は同じだけどやや小さいファインダー、絞り優先AE無し、シャッターは1/1000が限度など…スペックだけ見ればIKONに軍配が上がるのは疑いの余地がありません。

ではブランドで選んだのか?とんでもない。カメラのブランドに拘りはありません。コスパ至上主義です。このカメラを選んだ理由は2つあります。

①20年後、30年後も使えるカメラが欲しかった

IKONはその軽さと引き換えに筐体にプラスチック素材を多用しています。バックドアは指先で叩くとポコポコ鳴ります。トッププレートのマグネシウム合金はお世辞にも堅牢とは言えません。まだ大きな事故はありませんが、落下や衝突の衝撃で何らかの影響が出るのは想像に難くありません。またIKONは絞り優先AE・電子シャッター機なので電子回路を多用しています。貧弱な外装の下で怯えるフレキ基板を想像すると、扱いが少しだけ恐る恐るになります。
さらにIKONは生産終了してから10年以上が経過し、生産元のコシナでの修理サポートも確保している予備部品が払底次第修理不可になります。上記の記事でも書きましたがファインダーアセンブリは既に払底しているようです。IKONの修理を受け付けている、もしくは修理実績がある業者様を知っている方はコッソリ教えてくれると嬉しいです。

初めてフィルムカメラ(写ルンです)を使った小学生から今までほぼずっと近くにはフィルムカメラの存在がありました。結婚・子供の誕生など環境の変化によって趣味を変えざるを得ない人も大勢いるでしょうが、私の場合はどうやらこのまま生涯の趣味になりそうです。そう考えた時、修理できないカメラを相棒に据えるというのは精神衛生的にも良くない気がしました。現在でも「製造メーカーにて」修理可能(≒現行機種)で堅牢、電池に依存しないメカシャッターを備えた機種がマストです。すると選択肢はフィルムレンジファインダー機の現行機種であるLeica MP, Leica M6(復刻), Leica MAの3つに絞られます。今年発売がウワサされているRollei35AFも期待していたんですが、ちょっと有名になりすぎて転売の餌食になりそう。MiNT cameraの頃からコッソリ追いかけてたんですけどねえ…皆フィルムカメラ好きなんだな。ペンタックスの新しいフィルムカメラはハーフ判みたいなので除外(そもそもアレは一眼?)厳密に言えばLeicaM2~M4あたりも修理業者が多いので視野に入ってきていたのですが、露出計等の都合があったので今回はパスしました。

電源に依存せず完全メカニカルでオフグリッドなMAは少なからずロマンがありますが、絞り優先AEの快適さに浸かった身としてはいきなり露出計無しの機種を使いこなすのはハードコアすぎるのでナシ。あとは露出計を備えたMPと復刻M6だけですが、両者の違いはほぼ見た目だけだったので、ちょうどOH済み中古で売っていたMPにしました。私が購入したものは2009年製造で既に15年が経過していましたが、OHを経ると全くその年月を感じさせません。とはいえライカ使うのも初だし新品のMPも手にしたことはないですが…
真鍮製のボディはズシリと重くお世辞にもホールドしやすいとは言えませんが、滲み出てくるような頼もしさがあります。電池切れでもシャッターを切ることができるというのもありがたい。


②日本円を日本円のまま持ち続けるのにはリスクがある

円安、酷いことになっていますね。この記事のこの行を書いている2024年5月15日現在、1ドル156円。1年前は135円。この1年で円の価値が約14%落ちたということになります(計算合ってる?)。投資等で円ベース年利14%の利益が出てようやくトントン、投資せず円のまま貯金していた人は大損、ということになります(これ計算合ってる???)。調子よくて3~5%みたいな世界で年利14%ってとんでもない数字です。
日本はこの先衰退していくという流説はどんどんと否定できないものになってきました。円の価値もこの先下がり続けると思っています。裏を返せば、円の価値が一番高いのはまさに今この時なんじゃないか?もっと言えば、欲しいものを相対的な底値で買えるのは今しかないんじゃないか?ということに気づきました。言ってるそばからライカがまた値上げを発表しましたね。滑り込みセーフ…

とはいえ、数十万をポンと趣味につぎ込めるほどの金銭的な余裕はありません。しかし世の中は便利にできているもので、60回無金利ローン払いなんてものがあるんですね。良くない。こういうのは本当に良くない。そう思いながらも好奇心で分割シミュレーションしてみました。

ん~?あれ?全然…

頭金なしでも現実的な数字が出てきました。毎月息子の公文に払う金額より少ない。13年間も払って完済した奨学金の毎月返済額よりも少ない。

いや~~~~~~~~~~~~でもたかがカメラに5年ローンってどうなの?なんか色々戻れなくなる(?)予感しかしない。

ここでまた円安のことが頭をよぎります。
(おそらく)円の価値が一番高いのは今で、(おそらく)今後円の価値は下がって物価指数は上がる…
ん?つまり5年間お金を貯めて5年後に一括で買うより、今購入(=支払総額を固定)して支払いを可能な限り先延ばし(=ローン)にするのが最適解…?いや待てよ…無金利ローンってよく考えたらとんでもないアドバンテージだな…

そんな問答を繰り返し、電卓を叩き期待値みたいなものを計算し尽くした結果、何度考えても「今買わないやつはバカ」という答えしか出ませんでした。
仮に何らかの事情でMPを手放すとしても、リセールバリューの高さ、為替、物価推移を鑑みて十分期待値プラスだと考えます。むしろ今買わないことによる機会損失のリスクが大きすぎる。期待値の概念はテキサスホールデムにハマっていた時によく勉強していたので、期待値プラスならGO、マイナスならNOというのを機械的に判断できるようになりました。

もはや「よっしゃ~買うぞ~!」みたいな盛り上がりは全く無く、「あ、これを買えばいいんですね?」という他人事みたいなノリで歯磨きしながら購入ボタンを押していました。

届いて実際手に取ってもイマイチ実感が湧きません。思ったより重いな、ファインダーはメガネ掛けててもなんとか35mm枠見えるな、ぐらいのもんでした。

レンズをつけてファインダーを覗いてシャッターを切る。緩く張ったスプリング機構が外れるような「カタン」という小さい音を聞いた時、上手く言葉には出来ないのですが、そのフィードバックのそっけなさに「このカメラは私に何も与えてくれないのだな」という発見(もしくは再発見)がありました。

結局カメラというのは光を収めるだけの箱に過ぎないのであって、じゃあその道具を使ってどういう景色や瞬間を眼で捉え、何を美しいと定義するのか。自分を肯定するのは自分しかおらず、今までの脆弱な価値観・ストラテジーを剝ぎ取って丸裸にされ、写真というものに向き合う姿勢を再び厳しく問われているような気さえします。

また、カメラは自分と情景の間に挟まる遮蔽物のようなものだと思っています。ヴァルターベンヤミンが言うところのアウラ、つまり「今、ここの一回性」と向き合うことをできるだけ邪魔をしないカメラが望ましいと昔書いた記事でも述べています。(この記事で思いっきりMPの事オーバースペックって言ってますね…まあ2年半も経てば考えも変わります)MPは今のところそれを叶えてくれるかもしれない、と思います。まだ半信半疑ですが。

4本ほどネガを撮りましたが、「ライカを使うと写真が下手になる」という通説はなるほど信憑性があると思いました。重さのせいで水平はズレて写真はブレるし露出を合わせているうちにタイミングを逃したり。SNSで載せているフィルム写真は5月14日の投稿からMPで撮ったものになっていますが、まあグズグズになっているとは思いませんが決して上手くなっているとも言えません。正直軽くて絞り優先AE付きのIKON ZMのほうが「邪魔をしないカメラ」なんじゃないか?とも思えますが、結局これは慣れの問題でそのうち使い勝手が良くなり「快適閾値」みたいなものが変動するだろうな~と期待しています。変動するかな…?
まだ少しの間しか使っていませんが、MPの方が優れている!と声を大にして言えるのはその堅牢性とシャッター音の静粛性です。あれだけ静かだと思っていたIKONの音がちょっと耳触りに聞こえる。写真撮ったぜ!という音で嫌いではないですが。IKONやBESSAの金属シャッターはその甲高い音で「連続する今」を区切る・切り取るという感じがするのですが、ライカの布幕シャッターはその静粛性が撮影シークエンスと目の前の光景をシームレスに繋いでいるように思えます。伝わるだろうかこの感じ…
あと、絞り優先AEが使えなくなって前よりもずっと光を見るようになりました。露出計を見る前にこの場面は大体絞り●●でシャッタースピード●●だな、というようにある程度推測してからファインダーを覗きます。合ってると嬉しいし楽しい。かなり身になる練習だなあと感じます。困るのは屋内の照明。天井の高さとかLEDの色味で全然変わってくるので難しい。でも楽しい。

繰り返しになりますが、カメラはただの箱であり、それを変えても撮る写真の本質は変わることはないと思っています。変わるのはユーザーエクスペリエンスだけ。芯がブレないようにありたいです。

ほぼフィルムメインで写真を撮っていますが、デジタルメインの人は大変だなと思います。SNSで日々メーカーブランドについて論争があったり、どんどん新機種が発表されて最新だと思っていたものが過去のものとなっていったり。高画素、多機能、AI搭載。もの凄い勢いで「答え」だけが積みあがっていく一方、いまだ「問い」の数は少なくじわじわ渇いていくばかりのように思います。自分で「問い」を見つけさえすれば、自ずとそれに呼応する「答え」としての箱が手に入るかもしれません。MPはその箱になり得るでしょうか。

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余談。
MPを買ってもテンションがほぼ無風だというようなことを述べましたが、一度だけ全身の毛穴が泡立った瞬間がありました。

結果的に衝動買いのような流れでMPを購入しましたが、妻に新しいカメラを購入したこと、ましてや5年ローンなんぞを組んだことがバレるわけにはいきません。妻が不在の時にカメラを受け取り、「いや、これはずっと昔に買ったやつですけど?」みたいな顔をしていればカメラに疎い妻にバレることはないでしょう。私が黒くて小さいカメラを使い続ける理由はここにあります。

カメラ自体は配達時間指定可能なので、妻のスケジュールと擦り合わせてこっそり受け取ることが可能です。余裕でクリアしました。

問題はローン申し込み用書類の封筒です。
これは時間指定ができずポスト投函なので、もし妻がそれを見た場合世間一般に疎い彼女でも流石に気付く可能性があります。幸い私はほぼ常に在宅なので、届きそうな数日間を絞って窓の外から聞こえる郵便局のスーパーカブの駆動音に全神経を集中していました。その甲斐あって、ポストに投函させることすら阻止して配達員の方を困惑させることに成功しました。
書類に記入し、返送用封筒をポストに投函する瞬間は流石に「地獄で会おうぜアスタ・ラ・ビスタ、ベイビー…」と呟かざるを得ませんでしたが、何はともあれミッションコンプリートです。

そして数日後、仕事場のドアがノックされ妻の声。

「何か届いてるよ。ジャックス?て書いてある」

瞬間全身の血流が沸騰し、ケツの毛まで逆立っていくのがわかりました。

申し込み完了のお知らせアイルビーバックの存在を忘れていた。

しかしそこは頭脳明晰・冷静沈着な私。今までこういった修羅場を何度も(何度も?)乗り越えてきたので200万通りある切り返しパターンの中から最適解を最速で抽出します。デデンデンデデン。

「ンマ~~~~!(裏声)アノー!アレカナ!?!?カードノ!キリカエノヤツカナ!?ン-!!キゲンキレソウヤッタカラ!!!!タブン!!チョウダイ!!!チョウダイチョウダイ!!ダイジナヤツヤカラ!!!ホレ!!!!」

「???」となっている妻から封筒を半ば奪い取るようにして引き出しに叩き込みトゥルーエンド。こういう時、どんな顔をすればいいか分らないの。

その後何も言ってこないので多分バレてないと思います。多分。笑って誤魔化せばいいと思うよ。

何となく妻に新しい靴と服、息子にSwitchのソフトを買ってあげました。逆にこの行動で察される可能性もある。完。

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