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推しを祝うイベント開催してみたら起業がしたくなった話 2

「それってやる意味あるんですか?」


「それってやる意味あるんですか?」
玄関先で突然かかってきた電話。
事業計画について相談していた相手からの折り返し電話だ。
熱い想いを込めて事業内容を語った末に投げ掛けられたこの素朴な疑問に、思わず電話を持つ手が震えた。

こうゆう質問、どこかでも聞いた覚えがある。
そうそう、論文講評会で「素人質問で大変恐縮ですが…」
から始まるお決まりの投げ掛けで、わたしも学生時代には大変お世話になった素朴で貴重な、そして何よりも残酷なご意見。

「えっと、推し活の市場規模は大きく、弊社の優位性は、顧客のタムパとコスパを向上させる事にあり…」
水分を失った喉から、吐息混じりにしゃがれた声を振り絞る。

「実績も前例も少ないのに、収益を上げる事業としてこの計画は上手く行くのでしょうか?」
追い討ちをかけるように投げかけられた疑問。
そんなのはわたしが聞きたい。
そう、何も上手く行く保証なんてない。
実績もない。
だからどれだけ言葉を尽くしてもわたしの言葉は軽くて、届かない。
電話口の相手を説得しようとすればするほど、わたしの口からこぼれた言葉は上部だけを滑っていき、ふわふわと風船のように玄関先の天井へと消えていったのであった。


わたしは今、「推し活女子を応援する事業」の立ち上げを目指している。
そう言うと「なにそれ?」という顔をされる事がほとんど。
このノートでは、推し活をきっかけにそんな新規事業の立ち上げを目指し始めたわたしが、右も左も分からず迷い失敗しながら前に進もうとした
素人起業のリアルをお届けしていきたいと思ってます。

前回の記事はこちら⇩


よっし、起業するぞー…するぞー?


推し活を始めたのが去年の4月で、事業案を思いついたのが去年の12月。
「ねえみんな聞いて!わたし起業するから!!」

1月になり意気揚々と推し活仲間にも宣言して色々本を読んだりネットで調べたり
市の起業家セミナー受講してお世話になっている銀行さんに事業計画書の書き方教えてもらってふむふむ起業起業起業…‥

…あれ?
もしかしてわたし、具体的な起業準備ぜんぜん進んでない?

そういえばわたし、勉強したり夢を語るばかりでぜんぜん商品注文出来てないし、売る方法もないし、宣伝する為のSNSアカウントだって開設出来てないしこれじゃあいつまでたっても何も始まらないじゃん!
そうしている間に行動力モンスターの推し活友達は
お店開いたり情報発信始めたり新商品を発表したりと次々と起業していき

「怖くて、動けない…」

なんて青ざめながらつぶやくわたしに

「えなんで?とりあえずなんでもいいからやってみればよくない?」


なんて事もなげにこれまた貴重なご意見をくださる。 


そして迎えた恐怖のG・W明け


そんな感じで迎えたゴールデン・ウィーク明け。
「G・W中こそ絶対に絶対に起業準備するんだ!」
と漠然と考えていたはずなのに特に何もしないままに長期休みが終わってしまったそう、恐怖のG・W明け。

そもそも起業準備とは自分との約束事であり、時間制限もゴールもないマラソンを走っているようなものだ。
だから道草食ったって疲れて道に座り込んでたって誰も何も文句言わないし、開業日なんていくらでも先送りする事が出来る。
そうして「そのうち、そのうち…」と先送りする日が一日、いちにちと過ぎていき、次第に情熱を失い去っていった起業家志望の同志たちが一体この世にどれだけいるのだろう?
わたしもそんなドツボにすっぽりとハマってしまったようだ。

動けない


起業を思い立ってから半年、未だ具体的な準備が何一つ進んでいない現状…
ふと我に返り、わたしは強烈な焦燥感と共にかつての苦い経験を思い出した。

あれはわたしが自分たちの結婚式の準備をしていた時のこと。
わたしたちの開いた結婚式はちょっと複雑で、
わたしは京都の、夫は東京の大学出身でその時の住まいは兵庫なのに夫の
「俺前から結婚式は鶴岡八幡宮で挙げたいと思ってたんだよね!」
の一言で会場はなんとどちらの出身地でもない鎌倉。
しかも神社→披露宴会場→二次会会場とそれぞれ別々の場所を梯子しなければいけなかったり、
それとは別で衣裳屋さん、宿泊ホテル、お花屋さんから引き出物、車の手配まで
全部一つ一つ自分たちで業者を選定して行かなければいけないというかなりのハードモード(その当時は初めての結婚式準備で舞い上がっていたのでその大変さに気づいていなかったが、今考えても無謀、死ぬ)。

そうでなくても決める事の多い結婚式準備。
仕事の遅い私は次第にタスクを溜め込み、プランナーさんから送られてくる返答を催促するメールが何十件も溜まってニッチもサッチもいかなくなった頃突然わたしは

逃げた。

その事で、多くの関係者に多大な迷惑を掛けた。
あの時の光景がまざまざと浮かび上がり、同じ恐怖がわたしの脳裏を過ぎった。

”追い詰められたわたし(実際には自分で自分を追い詰めてしまう癖がある)がまたあの時と同じ状態になるのが怖い”

果たしてこんなわたしに起業なんて出来るのだろうか?

出会い

そして冒頭の、事業計画書について相談していた相手から頂いた電話に戻る。

「この事業はやる意味ありますかね?このままじゃ厳しいかもしれませんよ」

新しい事業を始めようとした時、「面白い!」と応援される事もあれば
「それって成功するのかな?」なんて首を捻られる事もあるだろう。
頭では分かっていても、「ここに欠陥があるけど、その点ちゃんと考え抜けてる?」なんて正鵠を射るようなご指摘頂いちゃうと、「おっしゃる通りです…」としばらく落ち込んじゃう。
やっぱりこの事業計画にもわたしにも無理があるのかな。
こんな怖がりなわたしには起業なんて出来ないのかもしれない…
そんな事考えながらぼーっとテレビを見ていたある日の夕方、ある気になるニュースが目に飛び込んできた。

「長野市で起業家のスタートアップを応援する為の事業所が新たに開設し、今日はそのオープニングセレモニーが行われています」


飛び込んだ先に


ここへ行けば何か起こるかもしれない。
今わたしに足り
ないものが得られるかもしれない。

直感的にそう思ったわたしは、急いでHPを検索し、そこに載っていた番号にすぐさま電話した。

「さっきニュースを見ました。今からでも間に合いますか?」


着いたそこは改装途中の倉庫で未だは完成されておらず、わたしは身をかがめるようにして入り口のビニールシートをくぐり中へと入っていった。
一階で受け取った入館証を首にぶら下げ階段を登ったその先に広がるワンフロアはすでに多くの人たちで埋まっており、その視線はスクリーンを背に事業内容について熱く語る一人の人物へと注がれていた。

話を聞くと、ここ長野スタートアップスタジオ(NSS)で事業内容を発表し採択されると「スタートアップ会員」というものになれて、今後事業化に向けて手厚いサポートが受けられるらしい。
その発表チャンスは全部で6回。
わたしが見たそれは、第一回目の発表だった。

(わたしもこれに出たい。)

少しの選考時間を経て、受賞者が決まった。
会場中から拍手が巻き起こる。
その中心で本当に嬉しそうにガッツポーズをしている受賞者。

(わたしもこれに出よう)

次回開催はその2週間後。
例え採択されなかったとしても、わたしに失うものなんて何もない。
「やる気」や「熱い想い」なんて、儚い衝動ではなく「自分が動き続けられる仕組み」が今のわたしにはどうしても必要なんだ。

会場の熱も冷めやらぬまま帰宅したわたしはすぐさまパソコンを開き、震える指で「エントリーフォーム」を送った。


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