キャッチボールはいやなこと。

 

 ボールを投げるのは好きなくせに「投げ返してください」と言うことはしませんでした。
 まして「キャッチボールをしましょう」なんてとてもじゃないけど言えませんでした。
 ただただ好きに放り投げて、時たま誰かが気まぐれに投げ返してくれるのを、馬鹿みたいに口を開けてただ待っているのです。

 キャッチボールがうまくなりませんでした。
 ちゃんとやったことがないのですから当然ですけど、捕り方が変だとか投げ方がショボいとか言って、よく笑われてきました。

 そのグラウンドには、似たような冴えない制服の帰宅部員が群れていて、きっと同じ理由で適当に転がされたのであろうボールもそこここにありました。

 というか溢れてしまっていました。

 いろんな色をしていました。
 いろんな形をしていました。

 掴みやすそうなもの、掴みにくそうなもの。
 重そうなもの、軽そうなもの。
 汚いだけの何か、綺麗なだけの何か。

 拾ってあげればいい、と思いはしました。
 それらはきっとみんな誰かしらに投げ返されるのを待っているのだから、拾ってあげればいいのに、と思いはしたのですが。

 拾ったら拾ったでまた「それあなたのではないから」なんて叱られたりもして正直面倒でした。

 後ろで野球部が笑っていました。

  ボールがあったら普通拾うだろ
  ボールを投げられたら普通投げ返すだろ
  ボールを投げたら普通取ってもらえるだろ
  なんでそれができないのかなぁ
  なんで普通のことができないんだろう

 クスクス、クスクスってうるさかったです。

 とても悲しい思いをしました。
 悲しいと、もやもやとした毛玉みたいなのが口から出てきてしまいます。

 その要らない毛玉の、抱えきれない分は、投げるしかない。
 投げれば人に笑われる。

 キャッチボールはいやなこと。


● 朗読・音声作品用台本としてご利用いただけます。

● 詳しくは以下リンク先の「利用規約」をご一読ください。https://note.mu/oshikado_9/n/nd0eedc01e6b6