見出し画像

聞こえてはいたんだ。




「どうせ聞こえてないだろう」って
確かに聞こえていたんだよ

毛布で耳を塞ぐのは
むしろ人間の声が頭の中を延々反響して
うるさくて
ひとつひとつ意味としてとらえてたら
単純に心がもたなかったから

「どうせ聞こえてもわからない」って
そういうの確かに聞こえていたんだ



子供の頃は
「苦しい、苦しい」とよく鳴いた

僕が鳴くと
人間は優しさでなく不機嫌さから
長い長い説教をはじめた

「鳴かないで聞きなさい」
「こっちを向いて聞きなさい」

聖書くらいパターンの決まった話

聞いてたよ
聞いてた

相手が聞いてるかどうか気にしてないのは
語る人間のほうでしょう

好きに喋り続けて
最後には勝手な結論を見つけて

「おとなしいなぁお前は」
「優秀な子だなぁお前は」

上機嫌で決めつける

そういう気まぐれな褒め言葉を
かけられたり撤回されたりするたび
自分を肯定する定かなイメージは
ぼろぼろと崩れていったんだと思う



狭くて苦しい家

人間の部屋の灯りに
背を向けがちになって
夕空ばかり眺めるようになった

ベランダに出るとき
古い網戸がギシギシ鳴った

人間は神経質だからそれを嫌って
またしつこく小言を言いにきた
それもいつからか気にしなくなった



どうして僕だけ
家族の中で
四つ足で床を這わされて

ただ漠然と
途方もない人間都合のお願い事だけを
背負わされているような
無力でべちゃっとした従順な体で
生きているのだろうって

考えると虚しいでしょう



鋭い爪で
傷つけようと思えば
弱い人間なんか
いくらでも傷つけられるのに

  そう
  そいつは人間の中でも弱いほうなのだと
  僕はいつからか気づいてしまっていた

鋭い爪で
傷つけようと思えば
弱い人間なんか
いくらでも傷つけられるのに

結局 僕は
命を握られて
鳴くに鳴けず

赤く鋭い夕焼けの線
空の裂けた傷口をいとおしく舐め続ける



「どうせ何もわからないんだから」って
決めつけられながら

僕は僕なりに
足りない頭で一生懸命考えててさ

ほんとうに
大事な伝え忘れが
ずっと残っているんだよ

ずっと聞いていた ってこと

わかってなかったかもしれないけど

聞こえてはいたんだ



#詩 #現代詩 #のようなもの