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映画鑑賞記録003 「哀れなるものたち」

天才外科医によって蘇ったベラが、偏見の多かったであろう時代に、平等と解放を自身も学び、周囲にも影響を与えながら冒険する様を、豪華な映像美で描いたヨルゴス・ランティモス監督の最新作。

一文無しになったベラが選んだ職業が娼婦、というシーンに、やっぱり話はそっちにいくのか…と正直、思ってしまったが、当時女性が自立するとしたらこの方法しかなかったのかな、とも考え直したり。
映画という映像の表現に於いて、男女間のパワーバランスを描く方法として、“娼婦と客”という方法を用いられることに個人的には少々うんざり。

ベラが自分を蘇らせた外科医を「ゴッド」と呼び、父親のように慕う様子に、5年前に受けた側弯症手術の時の自分を思い出し、少し涙が出た。
大きな手術、医師に命を預ける気持ちで臨む治療の時、患者にとって医師へは「ゴッド」だ。
言葉で説明するのは難しい感覚なのだが、眠る時にそばにいて欲しいとゴッドにせがむベラの姿に、5年前、手術や受けた後の自分の身体、将来の生活などあらゆる不安の中にさす一点の光が主治医の存在、(もしくはそこに希望を投影していたのかも)だった当時の心境を思い出した。
現金なものですっかり忘れていたのだが。

今までの監督の作品から、今回も!と楽しみにしていた通り、怖い絵本を捲るように、隅々まで美しさで満たされ、ずいぶん長い上映時間、いっときも飽きることなく鑑賞できた。
ただの美と狂気の物語ではなく、狂気の中に、この時代から解決することなく現代社会にも蔓延る問題が一本の線としていつも描かれており、多くの視点から伸ばされた線が交わる点が芸術的に描かれていると感じた。

イラストは、パリの娼館のマダムがベラの耳を齧り、話をするところ。
ベラの“自由意志”を巧妙に利用しビジネスを回していくマダムの切なさと強さがとても印象に残ったのだ。

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