サマリアは、特許公報等の特許文書の読解支援アシスタントサービスです。
サマリアを利用することにより、特許文書の要約(サマリ)を作成したり、用語の意味をわかりやすく説明させるなど特許文書の読解負荷を低減させることができます。
企業内の知財業務において、自社の製品仕様に抵触(該当)する他社特許を調査する侵害予防調査(クリアランス調査)、また、自社特許を侵害する他社製品を調査する被侵害品調査などの業務を行うことがありました。どちらも、対象製品が特許請求の範囲に該当するか否かを検討するものであるため、この記事では「侵害予防調査」としてまとめて説明します。
侵害予防調査においては特許文書を読む必要があるため、サマリアを読解支援ツールとして利用するだけでも作業の効率化、作業負荷を低減させることができますが、サマリアはさらに侵害予防調査に特化したいくつかの機能を備えています。
この記事では、サマリアを利用した侵害予防調査について実例を交えて紹介します。
なお、サマリアは工程ごとに作業を支援するための機能を備えているため、すべての工程についてサマリアを適用する必要はなく、自身の業務プロセスに応じて適宜サマリアを適用することで業務効率を向上させたり業務負荷の低減にご活用いただくことができます。
侵害予防調査の作業工程について
侵害予防調査は、概ね、以下のような工程により行われます。
STEP1. 特許調査(調査対象の明確化、検索式作成、検索集合作成)
STEP2. ノイズスクリーニング
STEP3. 重要特許の抽出とランク付け
STEP4. 重要特許の詳細検討
STEP5. 調査報告書の作成
各工程の詳しい説明
STEP1. 特許調査(調査対象の明確化、検索式作成、検索集合作成)
STEP1では、調査対象(対象製品の製品仕様)の明確化、調査対象を検索するための特許検索式の作成(キーワード、類義語、特許分類等の特定を含む)、検索結果に基づく検索集合(母集団)の作成などの作業が含まれます。
なお、サマリアは特許文書の読解支援アシスタントサービスであるため、特許検索機能は備えていません。JPlatPatなどの特許庁の特許検索サービスや、他の商用データベース等を利用しましょう。
通常は、検索集合に含まれる特許文献の一覧をExcel等の表計算ソフトで利用可能な形式でダウンロードします。このダウンロードしたExcelファイルに対して検討作業を行うことが一般的です。
STEP2. ノイズスクリーニング
STEP2では、検索集合に含まれる特許文献の内容を確認し、調査対象と関連性が低い特許を取り除きます。一般に、ノイズスクリーニング作業と呼ばれます。通常、ノイズスクリーニング作業は一度で完結することは少なく、例えば、要約レベルで関連性が低いものを除外するレベルから、特許請求の範囲まで確認して除外することもあります。
何段階かのレベルに分けて、調査対象に関連性が高い重要特許を抽出していきます。
STEP3. 重要特許の抽出とランク付け
STEP3では、STEP2において抽出した関連性が高い重要特許に対して、A、B、Cなど関連度に応じたランク付けを行います。ランク付けの内容に応じて、より詳細な検討や、外部の弁理士へ内容検討を依頼することがあります。
STEP4. 重要特許の詳細検討
STEP4では、重要特許の詳細検討を行います。具体的に、重要特許の特許請求の範囲に含まれる請求項1、独立請求項、従属請求項の順番に、対象製品の製品仕様を権利範囲に含み得るかの検討を行います。具体的には、各請求項と対象製品のそれぞれの構成について、一致点、相違点を検討します。また、場合によっては均等の範囲に含まれるか否かなどより詳細な検討を行います。
特許請求の範囲の内容を検討する際に、発明の詳細な説明など明細書等の確認が必要になることもあります。また、併せて設計回避、被侵害ロジック、無効ロジックなどの検討を併せて行うこともあります。
STEP5. 調査報告書の作成
STEP5では、調査報告書を作成します。これは、企業内であれば社内で文書として蓄積したり、特許事務所や特許調査会社であればクライアントへ納品する資料になります。後日、他社との特許係争時に裁判所等の命令により開示対象となる可能性があります。
調査報告書は、STEP1における調査対象、検索式、検索集合の範囲(調査範囲)と、STEP4において特定した特に重要な特許の概要および対象製品との対比結果などを含みます。
侵害予防調査におけるサマリアの活用
活用できるサマリアの機能
各工程ごとに活用することができるサマリアの機能を以下の通り紹介します。
なお、現時点ではスクリーニング支援機能の実行コストが比較的高コストであり時間がかかるため、人手によりノイズスクリーニングをした後のSTEP4, 5の重要特許の検討に適用することが特に向いています。
STEP2, 3. スクリーニング支援機能により、特許文献(要約、請求項)と対象製品との関連度を出力させることができます。関連度により、関連性が低い特許を除外することができます。
また、簡易質問(クイックアシスト)機能により、特許文書のサマリ作成を自動的に行うことができます。このサマリを参考に関連性が低い特許を除外しても良いでしょう。
STEP4. スクリーニング支援機能により、特許請求の範囲に含まれる請求項1、独立請求項、従属請求項と対象製品のそれぞれの構成の相違点、関連する理由を出力させることができます。
STEP5. スクリーニング支援機能により、特許文書のサマリ作成を自動的に行うことができます。具体的に、発明の概要を調査報告書に記載する場合には「わかりやすく説明」、請求項1をわかりやすく説明したい場合には「請求項1を説明」などの機能を利用することができます。
各工程の詳しい説明(事例1)
この記事では、具体的に以下の事例を対象として、侵害予防調査の具体的な業務事例を説明します。なお、既に説明した通り、すべての工程にサマリアを適用する必要はありません。現在の業務プロセスのまま、調査報告書のサマリア作成のみに活用するなど柔軟に活用することができます。
事例1の説明
仮想事例として、弁理士の角渕由英先生が知財塾において提供する侵害予防調査の一事例(セルフオーダーシステム)を紹介します。具体的には、飲食店などの店舗においてQRコードを用いた飲食などの注文システムに関する侵害予防調査を一例として紹介します。
STEP1. 特許調査(調査対象の明確化、検索式作成、検索集合作成)
STEP1の特許調査機能をサマリアは提供していません。
特許調査は、JPlatPatなどの特許庁の特許検索サービスや、他の商用データベース等をり要することもできますし、外部の調査会社等に有償で依頼することも一般的に行われています。
STEP2. ノイズスクリーニング
STEP2では、検索集合に含まれる特許文献の内容を確認し、調査対象と関連性が低い特許を取り除きます。
今回は、ダウンロードした特許に対してまとめてクイックアシスト機能を適用するため「一括処理ツール(バッチ処理)」を利用します。一括処理機能は、サマリアのメイン画面右上のプルダウンメニューから「一括処理ツール」を選択することにより開くことができます。
一括処理ツール画面では、「スクリーニング支援」タブから、「クリアランス・被侵害調査」を選択します。これにより、侵害予防調査を複数の特許文書に対して適用することができます。
「製品仕様」の入力欄に、今回の調査対象である「セルフオーダーシステム」の製品仕様を入力します。
また、解析対象として「独立請求項」を選択します。通常、ノイズスクリーニングの際には、従属請求項は検討対象とせずに、まずは独立請求項のみを検討することが一般的に行われています。
次に、「適用対象の特許文書」の「公報番号の入力」タブに、STEP1でダウンロードした特許リストの公報番号をコピー&ペーストします。なお、STEP1でダウンロードした特許リストを直接アップロードすることもできます。この場合、ダウンロードした特許リストに含まれる文書内容を解析対象とすることができます(例えば、サマリア未収録国の公報や、未公開の特許なども解析対象とすることができます)。
リストの入力が完了したら「読み込み確認」ボタンを選択します。「読み込み結果」の確認が行われ特許文献が一覧表示されます。処理対象の特許文献が適切に指定されていることを確認します。
なお、「サンプル」ボタンを選択すると解析結果をプレビューすることができるので、イメージ通りのサマリが作成できているか確認します。サマリ作成条件などが適切ではない場合は、改めて「適用する質問文」「解析対象・解析処理」などの指定内容を見直します。
サンプルの内容に問題がなければ「一括処理開始」ボタンを選択すると一括処理が開始します。しばらく待つと、ダウンロードが完了し処理結果が一覧表示されます。
ダウンロードボタンから処理結果をダウンロードすることができます。ダウンロード形式は、クリップボードへコピー、Excel形式、CSV形式から選択することができます。
ダウンロードしたExcelファイルの「内容」の列を確認することで、作成したサマリの内容を確認することができます。
このように、サマリアを活用することにより特許文書の読解作業を効率的に進めることができます。
STEP3. 重要特許の抽出とランク付け
STEP3では、STEP2において抽出した関連性が高い重要特許に対してA、B、Cなど関連度に応じたランク付けを行います。
STEP2でダウンロードしたリストは、独立請求項ごとに「関連度」「理由」「相違点」が出力されています。ひとまず、関連度が0以外の特許を重要特許として抽出してみましょう。
また、関連度、理由、相違点の内容を確認するとともに、原文の特許請求の範囲を確認して、手作業でA、B、Cなどのランク付けを行うこともできます。
STEP4. 重要特許の詳細検討
STEP4では、重要特許の詳細検討を行います。具体的に、重要特許の特許請求の範囲に含まれる請求項1、独立請求項、従属請求項の順番に、対象製品の製品仕様を権利範囲に含み得るかの検討を行います。
今回は、サマリアの対話形式の「文書読解パネル」を利用します。文書読解パネルでは、スクリーニング支援、クイックアシスト以外にも、特許文書の内容を理解するために必要となる用語に関する質問や、内容に関して自由に質問することができます。
また、今回は重要特許の詳細検討においてもスクリーニング支援機能について解説します。例えば、外部の調査会社などから納品されたノイズスクリーニング済の特許を検討する際などの作業工程が想定される作業内容となります。
画面左上の「文書読込」ボタンを選択し、文書情報を読み込むためのダイアログを表示させます。文書番号の入力欄に重要特許の公報番号を入力します。なお、詳細は「特許文書のアップロード」を参照してください。アップロードボタンを選択すると、特許公報を読み込ませることができます。
次に、「AIアシスタントに質問するボタン」を選択します。
AIアシスタント・ウィザードが開くので、「スクリーニング支援」タブから、「クリアランス・被侵害調査」を選択します。製品仕様の入力欄に、今回の対象製品の「製品仕様」を入力します。解析対象としては、「独立請求項」を選択します。次に、「スクリーニング支援を実行する」ボタンを選択します。
これにより、独立請求項と対象製品の製品使用とを構成ごとに対比させることができます。今回の事例における出力例を以下のように例示します。また、テキストとして出力したものも併せて記載します。
特許7093577号(B)
特許6389343号(B)
特開2020-119450号(A)
特開2020-126324号(C)
STEP5. 調査報告書の作成
調査報告書は、特許ごとにSTEP4で検討した内容を記載します。
このとき、調査報告書の目的(例えば、上司や社内報告などでの発明紹介の必要がある場合など)に応じて、発明概要のサマリなどを添付することも一般的に行われています。
サマリアでは、「クイックアシスト(簡易質問)」の「わかりやすく説明」「請求項1を説明」などを用いることにより、報告書にそのまま用いることも可能な高品質なサマリを作成することができます。
・わかりやすく説明 のサンプル
・請求項1を説明 のサンプル
また、発明を紹介する際に、特許請求の範囲に記載された用語や用語同士の関連性なども添えて説明することも一般的に行われています。そのような場合は、「AIアシスタントに質問する」から、用語の説明や用語同士の説明により出力された、「用語解説」なども発明サマリに含めると良いでしょう。
・用語の説明
・用語同士の関係性の説明
事例2の説明
仮想事例として、弁理士の角渕由英先生が知財塾において提供する侵害予防調査の一事例(透明なミルクティー)を一例として。具体的には、高濃度アロマ抽出製法、アッサム茶葉、透明な牛乳由来の素材を用いて作られた透明なミルクティーの製造方法に関する侵害予防調査を一例として紹介します。
この事例では、STEP4の「重要特許の詳細検討」についていくつかの事例を紹介します。
特許6917404(A)
特許6655213(B)
特許4559942(B)
特許6128562(C)