[short story]ふんドしマガジン社
その閑静な住宅街にある閑静なトレンドマークビル…、テナントオフィスにふんドしマガジン社編集部室は存在していた。看板雑誌「ふんドしマガジン」を刊行する、ふんドしマガジン社だ。ただし社の発行はただそれのみである。
「編集長!『今年のふんドし大賞』書っきあがりましたぁッ!」
「遅い!フンドシ締めてかかれ!」
「はいぃあっさぁァァァァ~!」
早くしなさいヨッ!と、モデル(のはずだ、見た目相応に霊長類だ。)役の加藤和子さんが現場にはっぱをかけていた。撮影スタジオはオフィスのソファの所だ。
彼女の下半身はふんどし…であれば多少はやる気は出るかもしれないが…役目は上半身で終わり。下半分もふんどしとするお金は社には
「無いィッ!!!!」
のであった。正直言ってそれをいつか実現するのが社是の如き有様だった。何ともチンプイである。ともかくカメラマン兼ライターの加藤権蔵は、モデル(なのだ、見た目は霊長類だ)役の加藤権十郎の毛毛毛綺麗に剃られた下半身のふんどし男を丁寧に撮影していくのである。
この手法…きっと読者にはまだばれていない。最終調整は編集長の役割だ、
「多額の予算ンッー!!」
を消費して社のITO、IOT?ITA?の集積として何と写真編集ソフトの有料版の最も高いものをアップグレードしている。そのランニングコスト回収…
とはいえモデル役の加藤和子さんは面は晒すのであり、架空とはいえ上半身の体型にピッタリフィットする形で、ヴァーチャルリアリティの下半身がつくのである。ちなみにかれら加藤姓だが血縁関係等々無い。そこは無修正だ。
「あの…かずこさん…、もしよろしければ、ほんのすこしだけ…おこったような…感じに…」
うるさいわね!とモデル役上半身の加藤和子さんが不機嫌になった。リクエストに応えたのかナチュラルにキレたアーモンドクラッシュ・ザ・ヘヴィーメタルコーポレーションであるか、いずれにせよ不明であるが、私たちのやることはただ一つ。
「編集長!お願いします!リスク取りましょう!リスク!」
「だぁあぁぁぁっぁぁめダッ!投下資本の回収ダッ!」
「回収できます!どう考えても彼女『当たり』ですしかも無名の実質素人ですよ!爆当たりで一気にハイリターンの資本路線に乗れるんです!そしたらこんなインチキ臭いグラビア雑誌やめれるじゃないですか!!」
カメラマン兼ライターの加藤権蔵が社運を託せと言っている「彼女」とは「加藤の法則」を覆す新進気鋭の…?いや、遅咲きにも遅咲きな無名のグラヴィアアイドゥルであった。だが確かに、
「咲いちゃいるでしょ!読者だって薄々感づいてるんですよ、こんなやっすいやっすい雑誌にかずこさんみたいな人がそうやっすいギャラで毎号毎号そんな綺麗なフンドシお尻と顔を晒すだろうか…?これはしょせんファンタジックなものだ、そう、時間なんて止まらない…でも時間は止まるんだ…ね?リアリティが出た途端に我々のクリエイターとしての次元は数ランク上がるんです!」
「うるさい!ものをいうなら1行以内だ!お前はビジネス書も読まんのか!」
加藤権蔵は暴走した。編集長を無視してその遅咲きの遅咲きだが咲いているという無名のグラヴィアアイドゥルーを既に呼んでいたのである。
「こんにちは…。」
その遅咲きの遅咲きだが咲いているという無名のグラヴィアアイドゥルーが到着した瞬間、顔と体型とリアル褌との最終調整に入っていた編集長は思わずファイル保存を忘れて現実時間が架空時間を超えて止まってしまうのである。
「…うつくしい…。君は…、何て…美しいんだ…。小川のせせらぎ…」
「小川セセラじゃないです…。」
「撮っちまえ!!!撮っちまえ!!!撮れっとれっとれェ!!」
編集長の時が動き出すと一転バックアップファイルの保存はなくゴーサインが出た。社運は彼女に託されたのである。
「まじですか…うお…リアルな…うお…」
下半身モデル役の加藤権十郎が湧きたつ一方で、私はどうなるんですかと上半身モデル役の加藤和子さんが編集長に詰め寄る。
「加藤かずこさん…、あなたは本当に…よくやってくれましたね。」
「かずこさん!卒業おめでとうございますっ!」
何それ!冗談ッじゃないわと、加藤和子さんが徐にデニム・ヴァンツを脱ぎ落した。きっとこんな戦が待っていると、彼女は既に準備を行っているのである。つまり、倍以上のギャラを請求するチャンスが到来したのだ。
編集部が
「オオオオオオオっ!」
とうねりを揚げて色めき立つ。
―続きは有料版でお読みいただけます―
「編集長!袋とじにしましょう!一方はオープンに、もう一方はクローズにするのです。どちらがよくてもどちらか一方は隠すのです!それこそが…それこそが…ハイリスク・ハイリターンな我々の社是を…」
「待て!ものを申すのは一行以内だッ!!お前はビジネス書すらまともに読んだことがないのか!!」
盛り上がる編集長とカメラマン兼ライター、おどおどする新人モデルをギラギラと睨みつけるベテランモデル、各々が各々の役割を果たそうと盛り上がり、ベテラン下半身モデルだった加藤権十郎はこれから何が見られるのかな?と楽しみに待っていた。
「よくわかんないッけど編集ソフト?も使ったらいんじゃないスか?」
「…は?」
加藤権十郎は思い付きで提案する。今まで巧妙にやってきた技術も同時に応用したらいいではないかと言うのだ。
「だってモデルが二人でしょ?これまで二分の一だったんだから、四倍じゃないスか?理論上?四人出せるでしょ?」
「…な…んだと…?」
その提案、カメラマン兼ライターは乗り気でないが、編集長は乗りに乗った。
「貴様は天才だ!今日から正社員に採用するぞ!四人どころではない!総て分解すれば賦課級数的に人数は増えていく…!オールスターになるぞ!モデル全員の設定を考えるのだ!」
「編集長!!そしたら結局ファンタジーじゃないですか!リアリティを追及するコンセプトだったでしょ!」
「勝手にコンセプトを作るな!あと話は一行以内だ!貴様もクビになりたくなければ明日までに10人以上のモデルを考えろ!」
結局どうなるのとすごむヴァンツ・アウト姿の加藤和子さん…元ベテラン上半身モデル役…に加藤権蔵はしぶしぶ説明する。
「これまでは上半身はまとまってましたけど、とりあえず各パーツごとに分けて、モデルさんを沢山つくるのです。撮影はこれから…」
冗談じゃないワッ!と加藤和子さんは編集部室から出ていってしまった。しかも気がつくと遅咲きの遅咲きだが咲いている、編集長の時を止めたグラヴィア・アイドゥルも姿が消えていた。
編集部が静寂する…。長い長い、沈黙…。蜘蛛の糸が切れた今、編集長はやはりバックアップファイルを探し、さもなくば削除データを復元する必要がある。
「かずこさん、下はいてないけどいいのかな…?」
「そこは、イんじゃないすかね…?よくわかんないスけど…」
加藤権蔵はカメラを持って飛び出した。本当のリアルは外にあるのだ!
(おわり)
近代文学こと文学先生は圧倒的な不人気に定評があります。本人は認めませんが、非常に嫌われています。あと、髪の毛がぼさぼさで見ていると嫌になります。何より骸骨と並ぶと見分けがつきません。貴方がコインを落とそうとするその箱はつまり、そういう方にお金を渡すことになります。後悔しませんか?