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『カイラスへの旅』

お掃除していたら、二十代で俺が狂ったように旅をしていた頃の詩集や写真が出て来て驚いた。片言の中国語と人民服で変装し、ヒッチハイクを繰り返し、人民解放軍の基地に連れ込まれた時、難聴のふりをして、困難を切り抜け、このヒンズー、ボン、ジャイナ、仏教徒の聖地、カイラスに辿り着いた事を思い出した。

ある時俺に、売人が言った。人を刑務所に入れる事が何故刑になる。人の自由を奪う事は、刑になる。その対極にあるのが、旅だ。

人は生きている間に一度は小説を書きたくなる、という大江健三郎の言葉を借りると、例えば引きこもりの子供も冒険をしている。扉を開けて、外に飛び出そうとする冒険を。その勇気は、エベレストを見上げる登山家の勇気と、何も変わらない。

お掃除したり、猫の餌やりをしながら、つくづく子供のままでいいや!って思う。

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