【女子高生エッセイ】『異国に恋は置いてきた🗺️』#シンガポール
学校主催のシンガポール研修に行った際、USS(ユニバーサル・スタジオ・シンガポール)に行った。
日本で言うところのUSJってやつ。
7日間の研修の最終日。
私は同室の仲の良い女の子と回ることになった。
マップを調べて出てきた絶叫アトラクションから行くことになった。
荷物を並ぶ前に全てロッカーの中に預けないといけなかった。
ロッカーが見つからず二人でうろうろしていると仲のいい男の子二人組を見つけた。
片方は中学からの知り合いで片方は親友と呼べるほど仲が良い子。
向こうが気付いて近づいてくる。
「あれ、二人もロッカー探してる?」
「え、そうそう。見つからんよなぁ」
「俺、スタッフに聞いてくるわ」
英語のできる親友はすぐにスタッフを捕まえて道を教えてもらっていた。
指の差す方向は私たちがいた場所と真逆だった。
「そりゃいくら探してもないわ」
日本語でぼやきながらスタッフさんの後ろを行く。
異国のロッカーのシステムに苦労しながらもなんとか荷物を預けることができた。
「今気づいたけど待ち時間スマホも使えへんのか」
「ほんまや、やばくない?」
「話しとったらすぐやろ」
そんなことを話しながら列に並ぶ。
会話が途切れることはなかった。
腹がよじれるくらいにたくさん笑った。
お互いのことをずっと前から知っていたんじゃないかと錯覚するほど話していて心地よかった。
そのうち恋愛の話題になった。
「そういえば、最近恋愛とかしてるん?」
中学から知っている彼だがそういう類の話はあまりしてこなかった。
「うーん、なんもないかな?」
親友の顔をちらっと見た後に言った。
「俺も……あんまりかな」
親友も私の顔を見て言い放った。
「ふーん、そういう感じね」
そいつは含みのある笑いをして私の耳に頑張れよ?とつぶやいた。
私はなんもないんだって。
嫌な奴だ、嫌いじゃないけど。
そんな会話をしていた時だった。
そいつは驚いた顔をして言う。
「え、今肩触った?」
三人一斉に首を振る。
「怖いこと言うん、やめてや」
「いやほんまやって」
そこからまた会話が戻った時だった。
「わっ」
またそいつは驚いた顔をして間抜けな声を出した。
親友は呆れて言った。
「え、ほんまに何?」
「いや、私も今見えたよ」
「えっ?」
「横のレーンに並んでる金髪のお兄さんちょっと見てて」
そのまましばらく経つとお兄さんは今度は親友の肩をとんとんと叩くのだった。
そいつは安心して言う。
「怪奇現象かと思ってびっくりしたわ」
「じゃあ次はこっちの番やな」
親友はお兄さんの肩を後ろからちょんちょんと触った。
お兄さんは驚いて振り返り高ぶった様子で言った。
「Awesome,broooooo!!!!!!!!!!!!!!!!」
そう言って私たち四人全員の肩にタッチしていった。
周りの地元民とも旅行者ともつかない人たちも盛り上がった。
陽キャって世界中にいるんだ。
お兄さんと目が合った。
イケメンだな~とぼんやり見ているとイケメンはニコッと笑って小さく手を振ってくれた。
あぁ、私シンガポールに来てよかったと思った。
ご飯は美味しくないし虫が多すぎるしシャワー壊れてたし部屋のドアは朝起きたら開いてるし。
それでも来てよかったと思った。
絶叫は予想よりも十倍は怖かったけどそれどころじゃなかった。
死を感じたジェットコースターより心臓はお兄さんに鼓動を鳴らした。
アトラクションの感想を言い合っているのを聞きながら一人ぽけーっとしていた。
せっかくなんだしインスタくらい聞けばよかったなって。
そんな勇気があったことは一度もないけど。
お昼ご飯はハンバーガーにすぐ決まった。
6日間ろくな食事を食べていないせいで体がジャンキーなものを欲していた。
男子二人が買いに行ってくれるというから席に座って待っていた。
一応女子高生だし写真を撮っておこうという話になって写真や動画をたくさん撮った。
どこに投稿するでもないけど思い出が形になって増えることは嬉しいことだった。
今どきの加工ってすごいわ。
ぼんやり撮った写真を見返していると一件の通知が来た。
親友からだった。
「斜め後ろにさっきのお兄さんいる」
「?」
「インスタ交換した」
「???」
食事を持って私の隣の席に座った親友にお礼を告げた。
すかさず尋ねた。
「さっきのどういうことなん?」
「金髪のお兄さんおって、ぺこってしたらインスタ聞かれた。」
「え~うらやましいわ」
「え、教えようか?」
ちょっとひきつった笑いをした親友にうんとは言えなかった。
不思議な縁もあるものだなぁ、やっぱり世界は壮大だなぁと意味のわからないことを思いながらポテトにケチャップをつけた。
それで自分はちっぽけなんだしなんでもいいやという馬鹿な発想をした。
シンガポールでは満足に睡眠をとらず食事もとっていなかったので頭が疲れきっていた。
私が親友のコーラを一口もらうくらいには。
私は初めて愛情のない間接キスをした。
親友は目を大きく開けた。
「え、飲んで大丈夫なん?」
親友は私のことをよく知っている。
炭酸が大の苦手で人の口がついたものに触れないことも。
「あー、大丈夫だよ、親友じゃん」
首を傾けて上目遣いをしてみた。
親友の顔が少し赤く見えたのはシンガポールの気温が高すぎるせいということにしておく。
「それとも嫌だった?」
「いや、そういうわけじゃないけど……間接キスやし……?」
親友は私とコーラを交互に見た。
そしてコーラをごくりと飲んだ。
ただの一口が彼の鼓動速めたことは顔を見ていたらすぐに分かった。
これも、間接キスかぁ。
自分の唇をペロッと舐める。
しょっぱい。
甘酸っぱくない恋は偽物か、本物か。
受け身な恋愛は幸せになれないって誰か言ってたなぁ。
「このコーラ、おいしくない?」
彼の熱のこもった眼差しを受けて気づいた。
私は彼と異なる温度で違う感情を抱いているのだという痛みを知った。
「うーん、そんなことないよ」
私は自分の心にも彼にも嘘をついた。
ぐーーっと大きく背伸びをして立ち上がる。
さて、そろそろ私も蹴りつけないと。
「じゃあ、次いこうか」
最後までこの想いは偽物じゃないって信じていたかった。
シンガポールの熱に浮かれて好きになってしまえたらいいのに。
そんな願いは叶わぬまま、シンガポールの旅は幕を閉じた。
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