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「からだの取扱説明書あります」/【文章のきほんコース受講生作品 Vol.5】

この文章は、大阪編集教室の「文章のきほんコース」受講生作品です。
課題原稿に添削が入って書き直したものを、一部編集した文章になります。
詳しい授業の内容はこちらからご確認ください。

今回の課題のテーマは「自分の好きなコト・モノ」でした。

「からだの取扱説明書あります」

おがた鍼灸整骨院は、野江内代駅のすぐ近く、5階建てマンションの1階にある。店を構えてから今年で10周年。ていねいな治療と清潔な設備で評判が良い。

私がお世話になってから8年が過ぎた。通院のきっかけは、ぎっくり腰。整形外科で痛み止め注射を打ち、通院を勧められたが、ずっと通わせたいのかと疑問が湧いた時、近所の評判を思い出して行ってみた。

電気と施術の一般的な治療を終えると、腰痛の予防法を説明される。「しゃがむ時、膝を曲げるのではなく、お尻を突き出す感じで。洋式便座に腰掛けるように」。このアドバイスが他にはなかった。からだの使い方のくせが直され、症状が出にくくなり、体調も安定した。

それだけ信頼できる整骨院だけに、一日に様々なお客さんが来る。

高齢の患者は、転倒して寝たきりになるのを避けたい。年を重ねるとお肉をたくさん食べられなくなるので、植物性プロテインを勧める。これで筋肉が付き、寝たきり予防になる。「地域の高齢者に元気になってほしい」という院長の想いが詰まった具体的なアドバイスだ。

さらに、自らの社会人野球経験を活かし、野球部員の治療も行う。施術が終わると肩・肘だけでなく、下半身の使い方も指導する。「今はがんばる時ではない」と少年の焦る気持ちを抑えつつ、将来を見すえる。

働く女性の患者も多い。首・肩の凝りだけでなく、出産や育児で骨盤がゆがむことが多いのでケアを忘れない。仕事のグチもたまには聞く。

患者に応じてカルテを暗記しているかのように対応するその姿は、技術だけに頼らない、日々の地道な積み重ねがなせる業だ。

これだけの実績がある院長。有名人が来たことはあるのかを聞いてみると、「世界レベルのプロスポーツ選手から電話がかかってきたことはある」との返答。来院させるから宣伝に使えばいいと所属事務所に言われたという。しかし、お断りした。

「フォローできる患者だけに向き合いたい」。その思いが伝わってくる。

さらに私は、すぐ良くならない整体をどう思うか質問した。治療は症状が治まった後が大切。ただ痛みがとれればいいのではなく、間違ったからだの使い方やくせを直さないとまた繰り返すから。

「からだの取扱説明書みたいな存在になりたい」

その言葉が出た瞬間。治療中にもかかわらず、院長と私は「いいねえ」と声を合わせてしまった。

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