幸せを手に入れる最後の方法 ~2年間のカウンセリング実録~ 10.旅立ち
「良かった。プロコースはまた考えたらいいと思うけど、実は修了パーティーだけは今、出て欲しいなって思ってた。
僕は修了パーティーで気づいた事がたくさんあったから。」
僕は咲笑(さえ)ちゃんが修了パーティーの申し込みをしてくれただけでも充分だった。それだけで嬉しくて、自分と父との話をしたことに安堵していた。
でも咲笑ちゃんが踏み出した一歩はもっと大きく、まだ先があった。
翌日、僕は咲笑ちゃんから思いがけないメッセージを受け取ることになる。
彼女は、自分を見つめるための行動を起こしていた。
「昨日はお父さんの話をありがとう。夜中、母に電話しました。
泣きながらでしたが、傷ついた旨を伝えました。
いま、ひとりで長崎にきています。」
「咲笑ちゃん、踏み出したんですね。頑張ったね。
一人旅?環境を変えると、いろんな事を見つめ直す機会になるかもしれませんね。
気を付けて。素敵な事を見つけたらまた教えてください。」
「自分を追い詰めています。
以前ホームステイした時と一緒。追い詰める?追い込むかな?」
「追い詰めると、どんな咲笑ちゃんが出てくるんだろう?
動く事で変わることも多いもんね。
でも環境が変わると自分でも気付かないうちに心に負荷がかかってるから、きちんと自分を見つめて、体を労わるセルフラブも忘れずにね。」
「咲笑はいつも頑張るんだよ。」
「そうだね。咲笑ちゃんはいつも頑張ってるよね。
じゃあ今は頑張って!頑張って素敵な旅にしてください。
そして帰ったらゆっくり身体を休めてね。」
「頑張ると無理するの区別がつかないの。
今回は『ひとりでできる』ことを知る旅にする。」
「頑張ると無理するって似てるよね。
それが自分で分からない位に今まで頑張ってきたんだね…。
でも今回は旅の目的がしっかりしてるから、きっと大丈夫。
答を見つけて帰ってきてね。
そして新しく迎える一週間も、笑顔でいいことを探しましょう。」
遥か彼方への一人旅。この旅で咲笑ちゃんは何を見るんだろう。そして何を見つけるんだろう。
僕は自分のことの様にドキドキしながら、でも咲笑ちゃんが見つけるであろう新しい世界が目の前に広がっている様な気がして、幸せな気持ちに浸っていた。
咲笑ちゃんからは数日後、幸せな気持ちで無事に帰ったとの報告をもらったが、僕この間、ずっと考えていたことがあった。
それは、僕が咲笑ちゃんから離れるタイミング。
カウンセリングの終結時期についてのことだった。
そもそも毎日プラスの言葉を伝えることも、カウンセラーとしては前面に出過ぎだと思っていた。
いつまでも続けるものでは無いと。
そして、咲笑ちゃんの口から「もう大丈夫」という言葉が出た時には自分はしがみつかず、すっと姿を消すことにしようということも、僕は早くから決めていた。
今はまだ彼女からその言葉は出ていない。
でも彼女は自分で動き出した。
だから彼女が自立するための、僕の役割は終わったのかもしれない。
彼女の心の強さを信じるのがカウンセラーとしての最後の役割。そう考え、僕は思い切って伝えることにした。
「咲笑ちゃん、こんばんは。今日も素敵な一日が過ごせましたか?
ちょっと考えてた事があるので聞いてください。
人には恒常性っていうものがあって、たとえそれが良い方向だったとしても、それまでと違う環境になるのを心が無意識に拒絶する事があるんだって。
でも自分を見つめて変えようとする動きができたってことは、きっと咲笑ちゃんは僕に話をしなくても自分で歩いていける力がついたって事なんだと思う。
だからきっと自分で幸せになる努力ができるよね。
そう思ったので、しばらく咲笑ちゃんの前から姿を消してみようと思います。きっと大丈夫。
それでも本当に辛いとき、僕はいつもここにいるからね。
今日もお疲れさま。おやすみなさい。」
幸せを手に入れる最後の方法
~2年間のカウンセリング実録~
ここまでの内容は、日本メンタルヘルス協会プロコースの卒業式でレポート発表をさせていただきました。
でも卒業式の時点ではまだカウンセリングは続いていました。
最初から読んでくださっている方は、回想シーンのやりとりがまだ出てきていないので、このまま終わりではないとお気づきだと思いますが、このあともカウンセリングは続きます。
途中、かなり重たい話も出てきますが、ハッピーエンドまでの道程を、もうしばらく一緒に辿っていただければ幸いです。
次回はまた明日更新します。
よろしくお願いいたします。
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