見出し画像

#08 農業分野での産業財産権登録の是非

さて、今回はこれまでのデータ分析から一風変わり、農業分野での知的財産について、考えてみます。
(大阪農業ではなく、農業全体的な話になります。)

今の仕事に転職した当時、「なぜ農家は栽培技術を特許化して独占しないのか(守らないのか)?」と非常に疑問に感じていました。

前職が食品メーカーであり、「食品加工技術やノウハウは特許化して自社で独占することが企業活動として当たり前」と思っており、農業分野でも農家独自の栽培方法は特許化しているものだと考えていました。

今の仕事に携わり、農業界を少しずつ知る中で少しずつこの疑問が解消されてきたので、自分なりに整理することにしました。

そもそも産業財産権とは?

本題に入る前に、そもそもの産業財産権について、整理します。
特許庁のHPより、知的財産権は次図のように分類されます。

知的財産権とは(特許庁のHP)

知的財産権は産業財産権か否かで分けられ、今回トピックとしている産業財産権の詳細は次の通りです。

4つの産業財産権

もう少し、この4つの権利について深堀してみます。

特許権

特許権について、農業分野では主に企業(資材メーカーや肥料メーカー)が出願しています。農家の出願は中々なく数件だけ見つけられました。(特許第4654223号

イニシャルコストはざっくり見積もっても30万円程度、加えてランニングコストが5万円程度はかかります。なかなか個人農家には厳しいですね。

特許権


実用新案権

物品の構造などに関する考案を保護する実用新案権ですが、初期登録は7万円程度と特許に比べればかなり安いです!!
ただ、そもそも農業分野で構造を保護する事例があまり思いつかず、、、
実例としては肥料の形態を登録しているものはありました(実用新登録第3105016号

実用新案権1


意匠権

デザインを保護する意匠権ですが、こちらはさらに安く、2万円程度で登録できます。

ただ、これも農家が登録するとすればどういうシチュエーションなのか、、、??

意匠権


商標権

最後に商標権ですが、これは自社のロゴマークなどを登録して他社に模倣のマークを使われないように保護します。登録は3万円程度です。

農園のロゴマークや、商品にオリジナルマークをつけて差別化する際には活用できるのではと思います。

商標権


登録しない理由の考察

以上、4つの権利についてまとめてみると、登録しない理由が何となくわかってきました。

単純に言うと「登録しても費用対効果がない」に尽きるのですが、具体的には下記の通りかと思います。

①登録のコストが高い上に、申請の手間(書類作成など)が非常にかかる
→特に特許の場合、弁理士を挟むなど、費用がかかる上に、登録まで1年以上かかります。うーん、個々の農家がやるには荷が重い。
※個人事業主の場合、本来の登録料から減免措置が一定あるようです。

②登録したところで恩恵が少ない
→そもそも農家が特許登録をしたところで、他社に特許侵害されているか否かをチェックするところまでは手が回らないと思います。加えて、仮に侵害されていても、自社にとって致命的になるケースがほとんどないと思いますし、申し立てや裁判までするケースはかなり稀だと思います。

特許などの本来の意味は、自社の技術が独占されることを防ぎ、経営を守ることです。となると、登録したところで他社を牽制することができず、あまりメリットがないと思われます。
「特許を取った栽培方法で育てました」というと、宣伝文句にはなるかもしれませんが、、、

③知らない
→そもそも言葉を聞いたことはあっても、農業分野で取得できる可能性があることまでは知らない方も多くいると思います。(私も特許以外は今回調べてみて初めてちゃんと内容を知りました。。。)

④技術に対してオープンな考え
これが大きいと個人的には思っています。本当の真髄は秘密にしているかもしれませんが、農家さんは栽培技術を周りの農家に伝えることに関しては結構オープンな印象があります。
それは、農家同士で協力して、地域の農業を活性化しようという意思が強くあるのだと思います。

信頼関係は大前提ですが、よく新規就農者がその地域の農家に、育て方のコツを聞いていたり、先輩農家が自分がしている工夫を伝えている風景を私はよく見ます。そこは「企業 対 企業」のようなバチバチの関係というよりは「共助」の考えなのだと感じました。


まとめ(自分の考え)

以上から、4つの産業財産権についての私の考え方は
「特許権、実用新案権」については「技術を独占される(パクられる)と経営に致命的なダメージが生じる農業法人のみ登録するのがよい」と考えます。

※ただ、特許化する段階で技術は公開されてしまうので、パクられた時に相手の違反を主張できる体力のある経営体でないとあまりメリットがないかもしれません。。。

意匠権はあまり登録するケースがわかりません。

商標権については「ある程度経営が拡大した際に、ロゴを真似されないように独占することは必要」と思います。そんな悪い人、あまりいないと信じたいですが、あくまでリスクヘッジとしてです。特許権ほど登録にコストがかからないので、「自社のロゴはこれでいく」と確定したら登録するとよいのではと思います。

まとめ


農林水産省の動き

国でも「農林水産省知的財産戦略」として、農業分野での知的財産がトピックとして掲げられています。

内容を見ていると、「優良品種、遺伝資源の海外流出、模倣品の市場流通」「AI等に蓄積する栽培ノウハウの流出」を大きなリスクと考えているようです。
特に前者は「育成者権」や「地理的表示制度(GI)」が関係しており、農業分野での知的財産の本質は特許などの産業財産権よりも、「育成者権」「地理的表示(GI)」にあるのだと感じます。

これについてはまた勉強します!!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?