Kindle unlimtedのおすすめ:『ロシアから来たエース』

 野球の話をすると、野球に興味の無い人から嫌われるというのはもはや一般常識だが、嫌われる程の知名度もないだろうから気にせずに進めようと思う。悪名は無名に勝るとも言うし。

 しかしこれは何も野球だけの話にはならない。『ロシアから来たエース』というタイトルの通り、ロシア出身の選手、ひいては一人の人間の話だ。スポーツの世界における、いわゆる外国人選手というのは決して珍しい存在ではないが、親しみのある存在でもない。親しみのある存在でないとは要するに、あいつは「外人」だから、という扱いや心理だ。これは今でも根強く残っているらしい。見た目が「外人」らしければ、とりあえず「外人」にカテゴライズされる。この際に内面は考慮されない。確かに「外人」な見た目であるとしても、生まれはともかく、小学生くらいからずっと日本で育てっていればまあ中身は他の日本人と同じと考えて良いだろう。そもそも日本人とは何か?という問いが本書の軸の一つだ。
 
 中国出身で日本国籍を取得し、その理由がパスポートが便利になるから、などという人が居るだろう。昔そのような人物がテレビに出ているのを見た事があるから、確実に一定数は存在するだろう。別にこれが中国でなくとも、「アジア人的な」見た目をしている国外の出身者であればどの国でも良いのだが、そうした人の国籍が確かに日本人だからとはいえ、そうした存在は本当に日本人なのだろうか?じゃあそもそも日本人って何よ、みたいな話になると思うのだが、『若い有権者のための政治入門: 18歳から考える日本の未来』にはこうある。

だけど、 文化的な価値観を共有するものとしての「 国家=心の共同体」では、国民はみんな、いつも一緒です。
藤井厳喜. 若い有権者のための政治入門: 18歳から考える日本の未来 (Kindle の位置No.759-760). BENSEI. Kindle 版. 

 これは前の文脈で、国を運営する官僚との対比で現れている物だが、国民とは何ぞや。それは心の共同体だ、という事になる。『ロシアから来たエース』スタルヒンの生い立ちについても簡単に紹介されているが、日本の生まれではない。当時のロシアの状況の補足が必要だと感じるならば、教科書を引っ張り出したり検索するなり、『ロシア内戦』などが参考になると思う。

 本書でも繰り返し述べられているが、スタルヒンの内面、つまり心は、いわく「日本人よりも日本人」らしい。つまりは日本人的な価値観が備わっている事が明らかなのだ。なのに、日本人では―国籍という問題に関わらず―ない。それは、日本人らしい見た目、というのが日本人であるために必要な条件であるためだ。この必要性がざるなのは理解できるだろう。先に挙げた、パスポートの有利さのためだけに日本国籍を選択するという事が可能であるためだ。人種と国籍は全くの別物だ。だから我々は、相手が明らかに火星人にしか見えないタコであっても、彼/彼女の内面が十分に日本的であり、本人がそれを望むのであれば、日本人であるという事に驚いてはならないし、拒んでもいけない。

 直接関係のある話ではないのだが、ラミレスが日本国籍を習得できたと聞いた時、スタルヒンが生きてたらどう思ったのだろうか、あるいはスタルヒンが国籍を与えられていたらどうなっていたらどうだったのだろうか、などと事を考えると、どうにもならないような気分になったのを覚えている。
 ところで、『ササキ様に願いを』もkindle unlimited登録作品であるから、興味や知識がある人には楽しめると思う。良い悪いとかではなく、一部の人にしか通じないだろうけども、わかる人にはわかる。

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