Kindle unlimtedのおすすめ:『そしてドイツは理想を見失った』

 出羽守撃退といえば、本書も役に立つだろう。ドイツに対しては不可解な愛着を持っている人が多いというのは個人的な印象だが、そのようなドイツも完全ではない。いいところだけを切り取って評価するのであれば、恐らく日本も我々が見聞きする想像上のドイツと負けず劣らない理想郷になるであろう。そうした一部を切り取って、自己満足にほぼ等しいマウントや、なんとなく相手をけなしたいだけの人は存在する。Twitterを利用しているのであれば、そうした人々をTwitterで目にする機会は少なくないだろう。

 では、本のタイトルにもなっているドイツの問題点とは何か。それを現実を無視した理想主義の暴走の結果であるとしている。ドイツ、あるいはドイツ人にはある理想がある。

  ドイツ には、「ドイツ 観念論」という哲学の系譜が存在する。ドイツ語 では、Deutscher Idealismus(ドイツ・イデアリズム)で、直訳すれば「ドイツ理想主義」である。明治時代の先人が、イデアリズムを観念論と訳し たのはそれなりに素晴らしい感性ではあるが、ドイツ理想主義論としたほう が、いまではわかりやすいかもしれない。

川口マーン惠美. そしてドイツは理想を見失った (角川新書) (Kindle の位置No.258-261). KADOKAWA / 中経出版. Kindle 版. 

 こうした理想とそこに向かっていく力、というのがドイツ、あるいはドイツ人の力の源泉であり、ダイナミズムの源泉だ。問題なのは、この過程において、現実が考慮されないという事と、言葉と実際の行動が乖離する傾向にあるという事だ。この理想、あるいはその理想を構成すると信じるにたるルールの外側にあると認識される存在、あるいは外側を示唆するような言説や存在は、少なくとも現在のドイツにおいては、いくら馬鹿にしても許される。いわば、正当に暴力を振るっても許される存在を生み出す。このようなドイツ的規律は変化していないように思える。本書ではここまでは踏み込んでいないが、外側に置かれる対象が違うに過ぎない。つまり、それは70年前においてはユダヤ人であり、現在ではナチ、あるいは政党であるAfD(ドイツのための選択肢)とその構成員や支持者、あるいは彼らの主張であるという違いがあるのみだ。


 書籍ではこうした傾向を具体的に、EUや地球環境、難民問題、経済政策あるいは中国との関係を例に挙げて、具体的に説明している。EUとユーロとドイツの関係とそこから現れる問題を知るには、『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる 日本人への警告』が手頃でないだろうか。kindle unlimitedの登録作品ではないが、kindle unlimitedも万能ではない。入り口としては手軽に使えるのは確かだが、万能ではない。
  ドイツ的気質というのは、理想的な言葉をならべ、理想的な行動をし、その事が現実に深刻な悪影響を及ぼしているとしても、それを無視できる性質の事だ。それに対する批判や、現実的なツッコミは意識の外側に何の迷いもなく切り捨てられる。そうした行動によって切り捨てられてきた「ツケ」が、今のドイツに現れている問題の原因であり、それに対する「現実的な」反応は、もはや意識の外側に留まっている存在ではない。
  これらから言える事として、国家は万能ではないし、ボロが多い。それは程度問題でしかなく、北欧だろうがドイツだろうが日本だろうが、五十歩百歩に過ぎない。国家のこうした面を知るには、『官僚階級論 霞が関(リヴァイアサン)といかに闘うか』がおすすめだ。これを買えば、さらに関連書籍の推薦もあるから、最低でも半年くらいは読むものを選ぶのには困らないと思う。

この記事が参加している募集

https://twitter.com/osadas5 まで、質問などお気軽に。