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こっちまで楽しい気分にさせてくれる仕事ぶり

今日は、あるアナウンサーの話をしたいと思う。

倉敷保雄さんという方をご存知だろうか。
今はサッカーファン以外にはあまり馴染みがないかもしれない。

倉敷さんはフリーアナウンサーで、今は主にサッカーの実況アナウンサーとして知られている人だ。

僕はサッカーファンではあるが、それを抜きにしても、仕事への向き合い方には見習うところがたくさんある。
最近、サッカー関係のYouTube番組で倉敷さんの話を聞くことが多く、こんな人になりたいな……とここ強く思わされているので、noteで取り上げてみることにした。

この20年くらい、とくにスペインサッカーを見ているような人にはお馴染みのアナウンサーだろう。

僕自身は、サッカーを見るようになってからしばらく、倉敷さんが出ている局ではサッカーを見ていなかったので、倉敷さんの実況を聞くようになったのはDAZNを見るようになったここ2~3年。

それでも、特にバルサ関連のサッカーの話題の際には名物アナウンサーとしてその名前を目にする機会は多かった。
実際に実況を頻繁に聞くようになってからの印象は、「なるほど、面白い」だった。

まず大前提として、実況そのもののうまさは折り紙付きだ。
良い実況アナの大きな条件のひとつが「耳触りの良さ」だと思うが、落ち着いたトーンと流れるようにリズムを刻むしゃべりは非常に心地よく、身体を委ねたくなるような安心感がある。

古舘さんにイメージされるあの勢いのある実況が「試合の世界に引きずり込む実況」とするなら、倉敷さんは「その世界に浸らせてくれる実況」とでも言えるかもしれない。

そのしゃべりの心地よさと話を切り替えるタイミングの良さで、ゲームの内容に関係のない話をしていても邪魔になることなく、スッと入ってくるのだ。

さらりと書いたが、ここが倉敷さんの最大の特徴のひとつで、実況中、とにかくそのゲームや、時にはサッカーに関係のない話題をたくさん放ってくる。

「何年前のあの大会のあの試合でこんなことがあった」とサッカーの歴史の話をすることもあれば、実況中のチームのホームタウンの文化や歴史の話やエピソードを放り込んでくることもある。

先ほど書いた「浸らせてくれる」というのがここにも出ていて、例えば「このスタジアムの周辺にはこんな街並みが広がっていて、住んでいるのはこんな人たちでとても楽しい」という話をされると、実際にその街を疑似体験するようなワクワク感を抱かせてくれるのだ。

そんな話が本当に湯水のように出てくるので、試合だけに集中したい人には好みの分かれる実況アナかもしれない(実際、関係ないことをしゃべるなと昔よく怒られた、と本人が語っていた)が、上にも書いたとおり、僕としてはまったく邪魔には感じない。

スポーツ、特にスペインにおけるサッカーはまさに「文化」そのものであり、その街・国の特色や歴史が色濃く出る。

倉敷さんはそういう部分にも基づいて実況をするので、試合の話をしていようが、街の話をしていようが違和感がないのだ。

こういうことができるのは、当然ながら圧倒的な知識と経験があるからだ。
どんなにサッカー経験があって実況のうまいアナウンサーでも、倉敷さんの実況を超えることはできない。

そして、倉敷さんのすごいところ、憧れるところは、その知識を得たのが「仕事だから」という感じが全くしないところである。

25年ちょっと前にスペインサッカーの実況を担当するようになると、その魅力に取りつかれ、本人自身がのめり込んでいった。
そのままの勢いで、実況を続けながら色々なことを学んだり、現地を訪れてたくさんの人と接したりして知識の源泉を身に着けていったようだ。

もちろん、仕事ゆえの努力もたくさんあったとは思うけれど、倉敷さんから感じられるのはサッカーや、その舞台となる国や土地、地元の人たちへの純粋な興味と愛である。
それが根底にあるからこそ、これだけの知識を得ることができたのだろうし、聞いている人をグッと引き込み、心地の良いワクワク感をもたらすことができるのだろう。

ご本人が話していた「そういう(サッカーに直接関係のない)ところからも興味を持ってもらいたい」という姿勢にも、サッカーを愛する表現者としての矜持が感じられた。

アナウンサーという仕事は、「しゃべる」という手段・スキルを専門にするタイプの仕事であり、それだけでは特定のジャンルに特化するタイプの職ではない。
弁護士だったた法律、農家だったら野菜、銀行員だったらお金と、コンテンツとなる専門分野を持つわけではないのだ。

その点においては、ディレクターあるいはライターという僕の立場にも共通している。

だからこそ参考になると思っていて、今よりも一歩、二歩と踏み込んでお客さんを喜ばせるには、単純にディレクションとかライティングのスキルをアップさせるのではなくて、取り扱う分野への知識がどれだけあるか、ということが非常に重要になるのだ。

そのためには、結局は月並みな結論に落ち着くのだけれど、色々なことに興味を持って、首を突っ込んでいくことが必要だ。

もちろん、自分の興味の幅はあるけれど、ある程度のめり込めばどの分野でもそれなりに楽しめるものだ。
そして、そういう姿勢で活動をしているうちに、本当に自分の興味のある仕事も舞い込んでくるようになるだろう。

倉敷さんはなんともう59歳だが(まじでそんなふうに思えない)、きっと今なお色々な知識を吸収しているし、ファンも増やし続けている。

そして、そんな仕事ぶりを支えている土台は、仕事(と、その周りの活動)を楽しむというところにあるのだろう。
(少なくとも、あの実況や配信の様子で楽しんでいないのだとしたらとんでもない演技力だと言える)

これからも、その語りでたくさん僕たちを楽しませてくれることを期待しつつ、あんなふうになれるように、僕も今の環境を上手に活かしながら楽しんでいこうと思う。

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