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脳卒中座位を完全攻略!〜パーフェクト攻略チャート~

脳卒中片麻痺者において、端座位獲得はめちゃくちゃ大切です。

当たり前ですが、あえて言います。めちゃくちゃ大切です。

脳卒中座位保持獲得フローを検討

理由は、座ることが出来るようになると

  • きちんとした姿勢でむせずに食事がとれる

  • 起き上がりや起立などの基本動作の獲得につながる

  • 車いすに長い時間座っていられる

上記のように脳卒中片麻痺者のリハビリにおいて、座位を獲得することは最重要だと言えます。

また、座位保持の有無は歩行の予後予測にも用いられています。

急性期リハビリの初回で座位保持が自立であれば4週間以内に歩行可能となりやすい

<引用>石神 重信:我々が用いている脳卒中予後予測Ⅴ,Journal of Clinical rehabilitation,10,4:326-330,2001

これは急性期リハビリですが、対象が回復期であっても、

退院時FACと回復期入棟時のTCT(座位含んだ体幹評価)は相関関係にある

<引用>平野 恵健:ロジスティック回帰分析を用いた 重度脳卒中片麻痺患者の歩行可否に及ぼす因子の検討,理学療法科学,29,6:885-890,2014

以上のように、病期をまたいで、座位を要因とした予後予測の文献はたくさんあります。

一方、脳卒中急性期では座位を獲得することは容易ではありません。

例えば、開眼はしているが頸部が屈曲し、胸椎後弯・骨盤後傾位のアライメントを呈しベッド上端坐位を取ると必ず後方へ倒れてしまう患者さんがいるとします。

「問題点は覚醒です。立位練習をして覚醒を上げよう」

「問題点はバランス低下です。座位バランス練習をしよう」

「問題点は体幹機能全般の低下です。寝返り練習をしよう」

脳卒中の座位を獲得するには何からアプローチすれば良いのか

先輩に色々アドバイスされたら悩んでしまいますよね?

難しいのは、どれも間違いではないことです。

それぞれの機能を評価すれば、その問題点は間違いなくあるでしょう。

ただ、その問題点を見つけてアプローチしても座位がよくならないことも事実です。


何故か?


それは、「優先順位」がつけられていないからです。

座位の問題点はたくさんあります。たくさんあるので、一気に良くはできません、治療介入時間も限られています。

そのため、問題点の優先順位を見つけて良くする必要があります。この優先順位を知ることができれば、座位の問題点にたどり着き、ピンポイントにアプローチができるようになるでしょう。

私たちは、座位の問題点に対する優先順位をフローに落とし込みました。

このフローは、脳卒中に携わる全ての療法士が知っておくべき内容です。

あなたの臨床や経験と照らし合わせて、ぜひぜひ明日から使ってみてください。

なお、フローに落とし込む過程で必要となった知識は無料欄に記載しております。ぜひ、ご覧ください。

1.簡単な座位が保持できないのはなぜ?

動作の難易度から見れば、簡単な座位。

なぜ、できないのか?

それは、覚醒や高次脳機能が関わっているからです。

説明していきます。

ヒトが物事を記憶する、計画立てた行動をとる、何かに集中するなどの活動や生活の根底には覚醒が必要です。

覚醒しているからこそ脳の活動が機能します。

これは神経心理ピラミッドから分かります。

神経心理額的諸機能・神経心理ピラミッド

<引用>角田 亘:脳外傷などによる高次脳機能障害の課題 障害の特徴,総合リハビリテーション,35,9:859-864,2007

また、姿勢制御には筋収縮が必要になってきます。

必要な筋についてのお話は後述しますので、ここでは大きな概念での筋収縮と捉えてください。

筋収縮はα運動ニューロンによって随意的な筋収縮が生じ、γ運動ニューロンによって筋収縮の感度を調節しています。

γ運動ニューロンは脳の意識レベルと機能的に密接な関連があり、

睡眠パターンに一致して筋紡錘発射は抑制され、覚醒に応じて発射は増強するといわれています。

<引用>児玉亨:レム睡眠中の筋弛緩の中枢機序,BRAIN MEDICAL,VoL18,No1:42-48 ,2006
覚醒は座位に影響している

つまり覚醒が低下すると脳の活動の低下だけに留まらず、筋収縮の遅延や、筋収縮が生じなくなるということです。


臨床的にも運動麻痺に対して促通してもすぐに変化がみられなくでも、覚醒が上がってくると簡単に座位ができるようになったという経験はないでしょうか?


このことからも覚醒はすべての基盤であるといえます。

 

さらに身体を空間上で保持するために私たちは視覚・体性感覚・前庭感覚の情報を用いています。

これらの情報を統合する機能が障害されると姿勢定位障害という形で表出されます。

姿勢定位障害の代表的な症状である、Pusher現象については、

Pusher現象(以下Pushing)は自覚的垂直定位の偏倚にみられるような自己中心的空間参照枠の異常が関与する

<引用>Karnath HO ,et al:The origin of contraversive pushing:evidence for a second graviceptive system in humans.Neurology.2000 Nov14:55(9):1298-304

と、考えられています。Pushingを認める方はまっすぐと自覚している垂直が傾いているため、座っていられません。

ここまでの話をまとめると、難易度の低い座位ができない大きな理由として、覚醒不良と高次脳機能障害が挙げられます。

これは、座位だけでなく動作全般の障害となることからも説明できます。

2.覚醒や高次脳機能が問題ないのに保持できないのはなぜ?

脳卒中の座位を獲得するために必要な筋

覚醒や高次脳機能は影響していないのに座位保持ができない場合、運動麻痺や異常筋緊張など筋肉が原因の可能性は高いです。

ただ、、全身の麻痺だ!!

と抽象的すぎると問題を絞れないため、まずは座位に必要な筋機能をみていきましょう。

体幹を直立位に保持する筋は下記の通りです。

座位保持に必要な筋

<引用>宮本省三:片麻痺を治療するⅠ体幹,協同医書出版社,P35-36 ,2018

思っている以上に座位に必要な筋肉は少ないと思いませんか?

また、

体幹筋に焦点を当てると腰椎の生理的前彎を保った良肢位での静止座位では力学的には腹筋群はほとんど必要なく腰背筋が主に活動する

<引用>鈴木敏明:体幹と骨盤の評価と運動療法,運動と医学の出版社,P60,2018

といわれています。

上記の報告でもあるように各筋肉だけを切り取っても優先順位をつけることが出来ます。

座位保持は重心の偏移に関わる頭部が垂直位に保持できるか、腰椎の生理的前彎位が保持できるか、腰椎に連鎖する骨盤が垂直位に保持できるかという3つの体節が重要です。つまり、、、

1.頭部を垂直に保持する筋肉は働いているか?

2.体幹を垂直に保持する筋肉は働いているか?

3.骨盤を垂直に保持する筋肉は働いているか?

上記のように見ていくことが重要と考えます。

まとめると覚醒や高次脳機能が問題ないのに保持できないのは

「体幹筋の麻痺が原因だ」ではなく、「○○を垂直にする筋肉の麻痺が原因だ」まで落とし込むと保持できない原因が具体的になってきます。

 3.動作につながる動的座位について

ここまでで、座ることはできました。これで、ゴールでしょうか?

脳卒中の座位を獲得するために必要な全ての要素

 いいえ、違います。

最初に述べたように、動作の基礎となる座位。

それには、静的座位だけでは足りません。

健常者は重心移動に先立つ筋収縮(予測的姿勢制御)によって、静的座位から動的座位へと移ることができるのです。

座位で後ろを向くとき、靴を履くとき、物を取るときなど全てにおいて事前に筋収縮が働くことで支持基底面から重心が大きく外れずに行えるのです。

一方で、

健常者と比較し片麻痺患者は上肢挙上に先行する同側脊柱起立筋と対側・同側広背筋の筋収縮や、下肢屈曲に先行する同側・対側の腹直筋と外腹斜筋の筋収縮が遅延しやすい

<引用> Ruth Dickstein,et al:Anticipatory Postural Adjustment in Selected Trunk Muscles in Poststroke Hemiparetic Patients,Arch Phys Med Rehabil,85(2):261-267,2004

といわれています。

つまり、脳卒中片麻痺を呈した方は動作に先立つ筋収縮が遅いことにより、靴が履けなかったり、物が取れなかったりする可能性があるということです。

静的座位保持・動的座位だけでなく予測的姿勢制御能力も評価する必要があるといえますね。

4.動的座位の筋機能について

神経学的な要素はある程度OKです。でも、もう一歩足りないです。

脳卒中の座位を獲得する上で重要な最後のピース

ここで、再度筋機能に立ち返ります。

神経学的な制御はある程度できているので、生体力学的な要素を把握する必要があります。

具体的には、運動方向に対する筋の活動を意識します。その筋の活動とは、

動的座位に必要となる筋活動

<引用>鈴木敏明:体幹と骨盤の評価と運動療法,運動と医学の出版社,P79-82 P118-151:2018


上記はあくまで基礎となる運動や主動で働く体幹と股関節周囲筋を記載しています。

どの運動も関節運動と重心位置から、必要な筋肉や収縮の種類は把握できます。

従って目的とする関節運動が起こっているのか必ず確認をしましょう。

 

1〜4を読み進めた方は、なんとなく座位の優先順位が見えてきたのではないでしょうか?

神経学・解剖学・運動学をベースに、私たち6人の臨床感を合わせると、おおよそ前述した流れが妥当かと考えました。

これを基盤につくったフローを以下でご紹介いたします。

5.フローチャートで大事なこと

脳卒中座位のフローチャート

私たちが作成したフローは、多くの要素からなる端坐位姿勢制御の問題点を明確にするためのものです。

 端坐位評価フローを作成する上で、重要なことは2つです。

1)次の目標が明確になること

2)簡易的であること

順に解説します。

1)次に行うことが明確になること

脳卒中の座位を評価して次に行うこと

前述した通り、端坐位保持が困難な症例は問題点が多い場合がほとんどです。そのため複数の問題点からどのように優先順位を立てていくか悩むと思います。 

色々な評価を行っても、段階を踏んだ評価を行わないと、問題点が多くなり根本の問題を把握できない可能性があります。

そのため、端坐位フローでは、難易度ごとにスライドを分け、小さいゴールをいくつか設定しています。

2)簡易的であること

脳卒中の座位を簡単に考えられるようになる方法

問題点が明確になっている場合、姿勢制御の練習時間は多いに越したことはないと思います。

そのため、各フローの評価も簡易的ですぐに出来るものばかりです。

実際に臨床で行う動作ばかりだと思うので是非実践してみてください。

6.フローチャート

今回は3つの座位保持に分けフローを3つ作成しました。

順番は①静的座位評価フローチャート②準備座位評価③動的座位評価となっています。

<フローの見方>

フローは、右斜め上からスタートします。

可能な場合は「Good」、不可能な場合は「Poor」の矢印の先に移動します。

青文字に到達したところで、記載の機能障害を問題点として治療します。

練習して、できるようになればフローに戻って、再度チェックを繰り返します。

それでは、フローの特徴を右斜め上から順に説明します。

お待たせしました。

脳卒中の座位の問題点を解決する、3つのフローチャートをご紹介します。

①静的座位評価フローチャート

ここでは、「重心移動の伴わない静的座位保持能力」を評価します。

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