火を飼う

立春も過ぎて、春独特のあの強い風が吹く日もあるけれど、まだ寒いなと感じる日は多い。いまもこたつでぬくぬくごろごろとしている。

うちのこたつは掘りごたつで、熱源は電気じゃなくて火。寒くなってくると豆炭(まめたん、音だけ聴くとゆるキャラのよう)という炭を大量に買ってきて、これに火をつけてこたつのなかに入れることで暖をとる。

朝起きてこたつに入ったときに火がないとがっくりくる。電気じゃないから、スイッチひとつで暖かくなるものじゃない。しょうがなくこたつから出て台所に行き、豆炭を6つ7つ火起こしという小さな鍋のような形をした道具に入れて、カセットコンロで火をつける。火がつくのを待ってるあいだ、足は冷えたまま。ようやく火がついた豆炭をこたつに入れて、はじめてぬくぬくできる。『枕草子』の冬の箇所みたい。

もうひとつ電気のこたつとの違いは、時間の経過とともに豆炭が灰になり、こたつが徐々に冷えていくということ。この問題は、先に火のついてない豆炭をこたつの中に入れておき、その上に火のついた豆炭を乗せることで解決できる。こうすると上の豆炭が燃え尽きた頃には、下の豆炭に火が移っていて、これを掘り出せばぬくぬくが維持される。

そうやって火の世話をしていると、火が生き物のように思えることがある。豆炭を火にかけて、満遍なく火がつくように向きを変えたり、こたつに入れたあとも新しい火を掘り起こしたり。たまに掘り起こすのを忘れて、またいちから火をつけるなんてこともある。キャンプをするひとが焚き火をするときに「火を育てる」という表現を使うけれど、似たものがあるかもしれない。そういえば、『ハウルの動く城』に出てくる火の悪魔カルシファーも生あるものとして描かれていた。

完全に冬を抜け出すにはまだもうしばらくかかるだろう。灰になりながら明滅する豆炭。呼吸のようにも、鼓動のようにも見えるそのオレンジを気にかけながら、明日もまた足元で火を飼う。

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