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◆読書日記.《暮沢剛巳/編『現代美術を知るクリティカル・ワーズ』》

※本稿は某SNSに2019年8月26日に投稿したものを加筆修正のうえで掲載しています。

 暮沢剛巳/編『現代美術を知るクリティカル・ワーズ』読了。

『現代美術を知るクリティカル・ワーズ』

 戦後美術の五十年間の動向を50年代、60年代、70年代~と10年ごとにまとめて90年代まで解説した現代美術解説本。

 それぞれの年代を代表する「事項」と「人物」を項目にしてまとめて事典形式でも読め、通読すれば大まかな流れが分かる入門書的一冊。

 先日読んだ『現代美術の流れ』は83年出版という事で80年代までの三十年間の現代美術の流れをまとめていたが、本書は2003年出版と言う事なので戦後から21世紀までの五十年間の現代美術の流れを項目ごとにまとめた事典形式の解説本。

 予算がかかるので仕方ないとは思うが、基礎的な美術解説書にほとんど図版がないというのは如何なものかと思う。
 そのため本書を読みながら結構マメにGoogleで画像検索して該当作品をチェックしながら読まねばならなかったので手間がかかった。

 あと「この作家の解説って必要?」とか「そんな解説でいいの?」という記述も若干だがあったので、もう少々情報の取捨選択の精査をしていただきたかった。
 そんな欠点もなくはなかったが、10年ごとに現代美術の動向をまとめて紹介すると言うコンセプトは非常に良いと思うので今度は是非Update版も作ってほしい所。

『現代美術の流れ』の際も説明したように、戦後美術の動向は「画商-批評家システム」というのがうまく働いたことによって滑り出した面もあるので「思想の流れ」というのがけっこう重要なポイントとなってくる。

 なので60年代はドゥルーズとデリダ、70年代のスーザン・ソンタグ、80年代のボードリヤールという、それぞれの年代に対応した(美術評論家ではない)思想家をも紹介している。

 しかし、それは「美術界の動向」として紹介していい項目なのかな?と思わなくもない。

 他にもブライアン・イーノとかフランク・ザッパも1項目として取り上げているが、他にもっと美術界に重要な影響があった人いるんじゃない?とも思える。

 だが、逆に言えば西洋の戦後現代美術というものがいかに「思想」や「概念」というものを問題にしてきたかが本書を読んで痛感される所でもある。

 本書でも書かれているように、戦後美術は70年代や90年代など、しばしば停滞期が見られる。それまでの美術様式のモードが掘り尽くされ、度々デッドロックに乗り上げるのだ。

 本書の末尾を飾る90年代の状況では多文化主義的視点やデジタル技術の発展による美術界への影響などがトピックとして挙がっているが、その後、2000年代の現代ではもう影響力の強い美術運動や美術様式がほぼ出てきておらず、各作家の個人的な趣味趣向に拡散してしまっているという傾向がある。

 これは、戦後美術があまりに奇をてらったものや頭でっかちすぎるものなど「ひねりすぎ」なもので溢れてしまっていて「"芸術"という概念をいじくり過ぎた」ことの思想疲れが出てきているのではないかとぼくは見ている。
 本書以降の21世紀以後の詳しい動向については『美術手帖』2017年12月号を参照したいと思う。


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