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◆レビュー.《映画『ルート・アイリッシュ』》

※本稿は某SNSに2018年8月31日に投稿したものを加筆修正のうえで掲載しています。


 ケン・ローチ監督の映画『ルート・アイリッシュ』見ましたよ♪

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《あらすじ》

 主人公ファーガスは民間軍事会社に雇われた民間兵としてイラク戦争に参加し、戦争の酷さに嫌気がさしてイギリスに帰国していた。

 彼は兄弟同然に育った友人のフランキーの葬儀に出席する。フランキーはファーガスと共に参加したイラク戦争で戦死していた。
 ファーガスは友人を同じ民間兵としてイラクに誘ったことに責任を感じる。

 葬儀の場でファーガスは知人の女性からフランキーが遺した携帯電話を受け取る。そこにはフランキーと同じ部隊の兵士が民間人を殺害した画像残っていて……。というお話。


《感想》

 さすが社会派ケン・ローチだけある重い重いテーマの映画だ。

 物語はフランキーの死の謎を主人公が追っていく推理小説的なストーリー展開で進んでいき、調査が進んでいくごとにイラク戦争における民間軍事会社の非情な姿が浮き彫りになってくる社会派ミステリ的な構造になっている。

 だが、ラストの辺りはミステリ的な枠をはみ出して、主人公が破滅していくこととなる。

 米軍がイラクで民間人を無慈悲に殺害していたことが元CIAのスノーデンによって暴露されたのは有名な話だが、民間軍事会社という形でイラクに介入していたイギリスの民兵の実態も同じようなものだったことが本作で暴露される。

 イラクに派遣された民間兵は「イラク戦争に不可欠な存在である」として、いかなる犯罪を行っても一切不問に付される「オーダー17」という法令で守られている。

 そのような法令があるから兵士による過剰防衛がエスカレートしたり、戦友を失った腹いせに民間人を殺戮するという横暴がまかり通っていたのだ。

 ぼくの印象では、ケン・ローチは驚きの展開やどんでん返しやサプライズエンディングなどの意表を突かれるような物語は書かない人だと思う。テーマに対していつも、真正面から地味な正攻法で物語を作っていく。
 だから本作は、ミステリとして見てしまうと少々平凡すぎると感じてしまうかもしれない。

 だが、ケン・ローチが描きたいのはいつも、社会問題的なテーマと、その問題に対面して苦悩しながらも生きていくしかない人間たちのドラマなのではないかと思う。

◆◆◆《以下ネタバレ感想》◆◆◆

 主人公ファーガスが最後にたどり着いたのは、多くのテロリストを悩ませてきた難問だ。

「善なる目的は、悪なる手段を浄化するか?」である。

 親友を殺した容疑者ネルソンを拷問して罪状を自白させた上で殺し、復讐を遂げたと思ったファーガスは、帰国したかつての部下ジェイミーからネルソンが無実だと知らされる。

 ネルソンは無実の民間人を殺したが、ネルソンを殺したファーガスも同様に、ネルソンという無実の民間人を殺した卑劣な男に他ならない。

 その事実をファーガスはおのれの喉元に突き付けられたのだ。
 その後、真犯人が分かってももう遅い。改めて真犯人に天誅を下しても、ファーガスが卑劣な殺人鬼であることに変わりはない。

 これは本作を見ている観客も他人事ではないと思うべきだろう。

 民間人を殺害して反省することなく、それを録画した携帯電話という証拠を隠滅するために実力行使する卑劣な悪人・ネルソンを、親友の仇討ちとして殺害し復讐を遂げたファーガスに感情移入して共感し、胸のすくような思いをした観客はいなかっただろうか?

 ネルソンに対して復讐を遂げたファーガスに喝さいを送った観客に向けて、この映画は「ネルソンは無実だった」という真相を出す事で、「テロリストのアポリア(難問)」をその喉元に突き付けているのである。「貴方もファーガスもネルソンも民間軍事会社もみんな同じ、人殺しを正当化する卑劣な人間なのだ」と。


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