◆詩.《映画『男はつらいよ19作目・寅次郎と殿様』に捧げるポエム》
※本稿は某SNSに2019年1月3日に投稿したものを加筆修正のうえで掲載しています。
寅さんは未来永劫、とら屋に戻ってきては騒動を巻き起こし、失恋をしては旅に出なければならないという運命をその命に刻まれた、時空のさまよいびと。
自由人であるのはずの寅さんは自由を求めるたび、全く同じ行動と結果を繰り返す。寅さんは永劫回帰ループのいばらに囚われた虜囚。
「とらや」という重力圏に繋がれた寅さんは、足枷を嵌められて「とらや」と地方との間を延々と円運動し続けなければならない運命に囚われたハレー彗星なのだ。
悠久の太古から、寅さんは気付かぬうちにまったく同じ行動を繰り返しているのである。
進みもしなければ、引き返す事さえかなわない身。
成長し、身を固め、嫁をもらい、ひとつの地に腰を落ち着けるという人並みな幸せを、あらかじめ禁じられた灰色の咎人。
これは時の牢獄なのだろうか?
まさか、自由人の寅さんが、何十年にもわたってお釈迦様の手のひらのうえで、壊れたレコードのように同じ軌道をぐるぐるぐるぐると、同じことを何度も何度も何度も何度も……繰り返しているだなんて。
自由人のはず寅さんが、まったく同じ行動に拘束されてしまっていることに、気付くことさえできないなんて。
寅さんは、未来永劫同じ場所を走り続けなければ死んでしまう、車輪の中の小栗鼠。
悲劇的な運命の車輪は、いまだ寅さんをそのうちに抱いて解脱を許さない。
嗚呼、寅さん――
これはメビウスの輪の中でひたすら幸せという名のゴールを目指して無限ループを繰り返す寅さんの、19回目の輪廻の物語。
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