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◆読書日記.《日端康雄『都市計画の世界史』》

※本稿は某SNSに2019年9月27日に投稿したものを加筆修正のうえで掲載しています。

 日端康雄『都市計画の世界史』読了。

日端康雄『都市計画の世界史』

 都市計画が専門の工学博士による都市計画の歴史を紹介する一冊。

 こりゃあいい本だな! 情報量もかなり詰まっているし、歴史として適度に様々な時代の都市に目配せが出来ていて「都市計画とは何ぞや?」という所から理解するのにも最適。読み応えもズッシリとして嬉しい。

 これ最近ブクオフで200円コーナーで買ったんだが、意外な掘り出し物だったなぁ。

◆◆◆

 都市の時代区分は大きく分けて前近代都市と近代都市とに分けられるのだそうだ。

「前近代都市」の始まりはどのようなスタイルが主流だったのかというと、それは「城壁の都市」ということになる。

 つまり、前近代都市の始まりとは軍事的/経済的に支配地域意を守るという意識が固まって住居を集中させた所から始まっているようだ。つまり「支配者」が生まれてこその「都市」だったのだ。

 前近代の計画的都市デザインの基本は碁盤状の幾何学的な区割りだろう。

 なぜ碁盤状が良いかと言えば、効率が良いからだ。

 何の効率が良いかと言うと、まず土地配分の効率が良い事。
 公平に土地が分配できる。これが四角や三角に切った不格好な土地だとわざわざそれにマッチした家を一戸ずつ作らなければならない。

 碁盤目状の区割りだと、土地の形を全て整える事ができるので、いちいち一戸一戸の住居の建築デザインを考えなくとも、おんなじ形の家をずらーっと並べれば良いので家を建てるにも効率が良い。
 しかも道に迷わないし、物の流通にも経済だ。

 しかし、これは逆に軍事的に言うと「攻められやすい土地」だともいえる。軍隊がスムーズに都市の中で移動できるからだ。
 だからこそ軍隊の侵入を防ぐために都市全体を囲う城壁が必要になってきて、これが「城壁都市」になる。

 中国などは広大な平地が広がっているので、非常に外的の侵入を受けやすい事情があったために、碁盤状の都市はほぼ城壁都市となっているのだ。

 それに対して日本の都市は周囲を海で囲まれているので外敵に侵入されにくい。
 だからこそ平安京や平城京などは碁盤状の都市区画になっていても中国や西洋のような堅固な城壁ができなかったと言われている。

 因みに西洋の城壁都市では、軍事上の利点に重きを置いて城壁だけでなく都市区画も迷路状にしてある城壁都市もある。

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 前近代都市が近代都市に変わるきっかけが「産業革命」の時期という事になる。歴史というものは、様々な分野でリンクしてくるものだ。

 近代都市を作るにあたって、西洋では「工業分野と都市」というものについてどのように両者を折り合わせていくのかという事で様々な考え方が生まれて様々な実験が行われた。

 工場を都市のどこの位置に置くのか、それに対して住居はどこにあるべきか。学校や保育所などの生活圏と仕事場と混在していて良いのか? そして広場や公園や大通りなどの公共施設はどうするのか?
 自動車や機関車も発明されると、交通網も考えて都市デザインを行わなければならない。

 因みに、日本には計画都市が長い事できず、スプロール市街地(無計画に拡大した市街地の事)が多いという問題を抱えているそうだ。
 これにはいくつか理由があるが、日本は地理的に碁盤状都市のような幾何学的な区割りをしにくい地理事情があるという事も関係している。

 日本のように山や丘、谷のように起伏の激しい地域が多く、広大な平地が少ないという事情がある。
 碁盤状都市は奈良や京都などのようなある程度開けた平地がないと成り立たないのだ。
 起伏の激しい土地を碁盤状に区切ってしまっては碁盤状都市の利点である効率性などがなかなか発揮できないのである。
 そのうえ森、林、川、海、などなど幾何学的な区割りを広大な土地に適用するには邪魔となる土地条件が多すぎる。
 そういった地理に合わせた土地利用を行っていくと、自然と道は曲がり、斜面に沿ってカーブを描き、川に沿った区割りを行っていくと、幾何学的な区割りなどは成り立たなくなってしまうのだ。

 こういった条件を考えるというのも実に面白い。
 本書を読んでから都市や街の見方もまた別の見方ができるようになる。

 都市計画は建築デザインにも影響を与えるので、建築分野にも絡んでくる問題だというのも興味深い。
 身近な問題だと日照権や騒音の問題があるだろうし、「街並み」を考えた建築デザインも必要になる。

 本書ではこのように都市の発展のロジックを踏まえて様々な都市論を語り、かなりの情報量で片っ端からその歴史を説明してくれる結構な親切本だ。
 ぼく自身は都市論については以前から興味を持っていたのだが、都市計画などは全く明るくなかったので、本書で基礎から勉強できたのは僥倖だったと思っている。


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