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◆随筆.《ライトノベルの「ライト」とはいったい何がライトなのか?》

※本稿は某SNSに2021年3月2日に投稿したものを加筆修正のうえで掲載しています。


 ふと思い立って先ほどネットで「ライトノベル」の「ライト」とは、いったい何が「ライト」なのかというのが気になって調べてみた所、だいたい「読み易さ」だとか「挿絵付きでのイメージし易さ」といった意味が書かれていた。

 確かに、ライトノベルはある意味「やさしい文学」だと思う。
 それは「読み易い」の「やさしい」でもあるし、「人に優しい世界観」という意味での「やさしい」でもある。

 「読み易さ」や「挿絵付きでのイメージし易さ」というものは、要は「読者が頭を使わずに読める」からこそ読み易いわけで、だから読者に「優しい」と言える。
 そして、このライトな文学は、例えば「主人公が挫折しない物語」であったり「主人公が努力をせずにチート能力を手に入れる物語」であったり「魅力的なキャラは誰も不幸にならない物語」といった感じで、どんな読者が読んでも心を痛める事なく物語を楽しめるような形式という意味で、近年ますます「人に優しい世界観」のものが多くなってきている。

 最近の様々なラノベ関連作品を見ていて思うのは、この「ライト」の意味する「やさしさ」とは「現実的な世界の"重み"」を脱した「軽み」の事でもあるのではないかという事である。

 最近のラノベ作品には、政治や国際情勢、人種差別問題、食料危機、社会問題、社会福祉問題等々、現実の社会と関連する「重々しい課題」「生々しい現実」はほとんど触れられる事がない。我々も無関係でないような、身につまされる切実な問題を、読者に投げかけてくる事はない。

 そういう、読者も共に現実的に考えて取り組まなければならないと思わせられるような重苦しい課題を読者にも突き付けるような作品は「ラノベ」的ではないのではなかろうか。

 つまり、そういう苦しい現実からの「軽やかな逃走」。現実世界の重力からの、軽やかな解放感。――それを得るのが「ラノベ的なもの」なのではないか。

 ラノベに出てくるファンタジー世界では、国がどのような政治体制なのかは細かく説明されないし、宗教的な対立で虐殺や迫害が起こる事もない。

 学園ドラマであっても何年何月何日の出来事で、世間ではどんなニュースが騒がれているのかという現実的な事はほとんど話に関係してこない。

 そんなライトノベルの「軽さ」というものは、生々しくわれわれの生活に直接かかわってくる「現実世界の重苦しい問題」から逃れ、なるべく浮世離れした世界へと、遠くへ遠くへ飛翔する「軽やかな逃避」なのではないかとも思うのだ。

 だから、近年のラノベは現世を逃れて頻繁に異世界に「転移/転生」するし、美しい自然と温かい人間味溢れる「地方市村幻想」が表れ、退屈な授業風景が省略され、美男美女ばかりで清潔な「学園幻想」が、ラノベでは好んで描写されるのではないか。

 彼らはよりユートピア的で、より虚構的な虚構へ向かって、ただひたすらに逃走するのだ。

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