◆読書日記.《ルネッサンス吉田『愛を喰らえ!!』》
※本稿は某SNSに2021年5月11日に投稿したものを加筆修正のうえで掲載しています。
ルネッサンス吉田『愛を喰らえ!!』読みましたよ~♪
第18回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞受賞作。
今年読んだ中では1~2を争う面白さだった。圧倒的な圧の怒涛のモノローグ。とげとげしく荒れた描線。繊細な内面描写。このささくれだった女性心理が刺さる刺さる。堪能しました。
<あらすじ>
男が嫌いだ。心の底から。死に絶えろ男ども。
――百花は昔、父親からレイプされた。
その後、関係を持ったのが体育教師、名も知らぬ大学生、予備校の講師、バイトしてたデザイン事務所の社長……全てが憎い。抵抗しなかった自分も含めて、全て憎くてたまらない。
抵抗したらもっと酷い目にあったかもしれない。
反応したら男が調子に乗ったかもしれない。
私にはボンヤリしているしかなかったのだ……。
男を憎む百花は風俗業で食いつなぎ、そのままずるずると風俗業界で生きてきた。男を憎んだまま。
彼女はいつの日か、一軒の風俗店の経営を任されるようになっていた。
彼女の風俗店にある日、内田万里と名乗る男が男娼として入店してきた。
百花は店があがる頃、内田を連れて飯を食いに行くようになった。
しばらくして内田は、稼ぎが貯まって学費が払えるようになったのでこの業界から足を洗うと百花に告げた。
内田は「たまに店長に会いに来てもいいですか?」と百花に尋ねる。
「だめだよ」。
――それからしばらくして、内田は久しぶりに百花の店に足を向けるが、店のあった場所は既に更地になっていた……というお話。
<感想>
<あらすじ>に書いた所(第一話)までは、この物語のほんの序章に過ぎない。
風俗で働く女性を活写して優れた逸品。
カサカサに乾いてつっけんなのに、どこか何かを求めて飢えている女性の心理。
この作品の描線も、この主人公の内面に合わせているのではないかと思わせられる。
主人公の百花はまだ若い女性ながらも、手はカサカサで節くれだっており、体はアバラが浮いてゴツゴツと角張っている。化粧っ気の全くない顔。意欲が抜け落ちた無気力な表情。
「憎悪」の時にだけ、その顔に感情らしきものが浮かぶ。
主人公「百花」からは、意図して「女性らしさ」の描写を消しているかのようだ。
無性の絵柄。
「愛の行為」であるはずのセックスが、彼女らの心を鑢のようにガシガシと削っていく。
寄って立つべき庇護者の父から裏切られた女たち。
この物語のもう一人の主人公・娼婦の優美は言う。「親は本来安全地帯であるべきだ」と。
それがなかった私は父親に向けたかった感情を今になって主治医に展開してしまっているのは仕方のないことなのだ。
――風俗業で働く彼女らにとって「セックス」とは快楽ではない。
「私の価値は性行為にしかない。父親ですらこれなしでは私を愛さなかった」。
だが、男にとってさえ「セックス」は愛ではなかった。
彼らは愛でセックスをしているわけではない。娼婦は男たちにとって、単なる性欲の処理の相手でしかなかったのだ。
それが分かっているからこそ、娼婦らは男と寝るごとにその心をザリザリと目の粗い鑢で削られていくかのように消耗する。
男と女が求める愛の所業は、互いにことごとくすれ違っていく――
この物語は、そうやってすれ違い続ける男女の思いの隙間を、いかにして埋めていくのかと懸命に足掻く人々の物語である。
または、それらの隙間をもう「どうしようもない」と諦めながらもズルズルと諦めきれずにドツボで藻掻き続ける風俗業の人たちの物語でもある。
生きていく事がそのまま魂をすり減らしていく事でもある人々の元に愛と幸福は訪れるのか。
『ガロ』の女流漫画家たちのような繊細な心理描写の掘り下げが圧倒的な名品。
この凄い迫力に負けて、久しぶりに一気読みしてしまった。
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