“隻腕”クライマーのパラクライミングTALK⑯
隻腕クライマー・大沼和彦が主催する、パラクライマーたちによるインスタライブ。日曜日の夜に不定期でゆる~く開催。悪ふざけだったり、パラクライミングへの熱い思いだったりが繰り広げられています。
今回は、ほかのパラスポーツの大会運営から、学ぶべきことについて語り合いました。
▼今夜のお相手は…
▼ゴールボールには、真似しなきゃいけないところがたくさんある
濱之上文哉(B2)通称ビーチ:ゴールボールの試合を見てきました。フランスや韓国、アメリカといった国々がトーナメント制で戦う大会で、立川で開催されていました。
ビーチ:いいなって思ったのは、ポータブルラジオみたいなものを貸してもらえて、配信の実況中継が聞けるようになっていて、ちゃんとプロのスポーツアナウンサーっぽい人が、流暢に専門用語で、ルールはこうなっていて、みたいなのを説明してくれた。
安良岡伸浩(RP3):美術館の解説みたいな感じ?
ビーチ:だから、ゴールボールについて、NO知識で行っても楽しめる。
安良岡:パラクライミングの解説実況は、もうちょっとエモーショナルな感じでもいい。アメリカの大会では、すごく個人的なことを言ってんだろうなみたいな実況ありましたよ。『この間、こいつと飯食いに行ったんだけどさ』みたいな。
ビーチ:あとは、体験ブースがあって、ゴールボールの実際の球が置いてあって『投げてみますか』って。しかも、ボッチャとか車椅子バスケ用の車椅子とかも置いてあって、ほかの競技とも連携を図りながら、各々の競技が集客したお客さんに、各々の競技を知ってもらう機会を作るみたいな感じだった。細かい工夫ではあるけど、面白い仕組みがいろいろ作られていたんで、パラクライミングでも、ほかの競技を勉強してくるっていうのをひとつのアプローチにしてもいい。
さらに、受付で、ガチでしっかりしたパンフレットが配られていて、その中に選手のプロフィールとか、スポンサー企業の紹介とかがあった。試合のインターバルの時間があるときに、パラパラっとめくって、間が持つっていうか、そういう小道具として成立していた。海外チームの説明でも、「韓国チームはランキングは16位だけど、侮れない選手がいる」みたいな、見どころが集約されて書いてある。パンフレットを、パラクライミングの選手会で作ってもいいし、そういう仕事をやってみたいみたいなっていう学生さんに、卒業制作の一環として作ってもらうみたいな。やりがい搾取だって怒られるかもしれないけど。
安良岡:大沼さん、作って!
大沼和彦(AU1):丸パクリでいいですか?3年ぐらいかかりますけど…
安良岡:パンフレットも、紙にすると経費がかかるから、QRコードとか、PDF化とかでも全然面白いです。
ビーチ:でも、紙の臨場感はすごくある。やっぱり受付で渡されると、ちゃんとしているって感じがする。ガチのイベント感がすごく出る。ハードの強みがあったなっていう気がする。
安良岡:競技中はみんなガヤなしですか?
ビーチ:選手はアイマスクをして、会場の“音”を頼りにプレーするから、基本的に「静かにしなさい」という設定だけど、休憩時間になると、運営側の人たちによる、音楽みたいな手拍子みたいなのが唐突に始まって、拍手を煽ったりするわけ。「手拍子して」みたいな感じで。そういうちょっとした盛り上げというか、お客さんは放っておいたら、ぼーっとなって休憩時間も静かなままになっちゃうけど、その合間を温めるというか、そういう努力がすごく見られた。
安良岡:手拍子に著作権はないですからね。
ビーチ:それこそDJと同じような感じで、前座の人がいるとか、合間をつないでくれる司会者がいるとか。
大沼:確かに、パラクライミングの大会って、淡々と進んでいく感じがしますもんね。そんなに、お金をかけなくても、盛り上げていけそうな要素はまだまだありそう。
ビーチ:パラクライミングって、今はまだ大会をとりあえず成立させるっていうところで、マンパワーとお金が切れてる感じだと思う。次のステップとして、見に来てくれてるお客さんを、シンプルにどう楽しませるかという観点で、例えば、競技の合間に、野球みたいに、ビールの売り子みたいな人がいるとか。
安良岡:プロテインの売り子をいれる!
ビーチ:ゴールボールって、パラリンピックに選ばれてる競技だからというのはあるけど、どうやって、あれだけの人数の、若い世代の障害者をスカウトしてるんだろうなっていうところで、非常に学ぶべき、というか、真似しなきゃいけないところがたくさんあった。
ひとつは、ハードルの低さ。ボールを転がして止めるのも、要は、横になれば止められるわけですよ。運動したことない人でも、一応の動作はできるというところからスタート。その点では、パラクライミングに比べると、割と安全に最初から参加できる。
もうひとつ、チーム競技だっていうところで、お互いにチームメンバーを募って維持しないと、試合にすら出れないっていう切実さがある。
▼選手のモチベーションを維持するためには
安良岡:パラクライミングも、クラス成立するかどうかが、大きいモチベーションのひとつではありますけどね。
ビーチ:選手個人には、活躍したい・メダルを取りたいっていうモチベーションと、競技を普及させたいっていうモチベーションがあるけど、競技の普及が、選手頼りになっちゃってるところがある。個人を頼りにしてしまうと、なかなか普及させようというモチベーションは高まらない。パラクライミングにも、もうちょっと分かりやすいインセンティブがあった方がいいのかな。いま、大会では、成立したクラスの選手には、メダルが授与されていて、それも、目に見えて分かりやすいひとつの動機付けではある。だけど今後は、成立したクラスで勝ち上がった人の方が、賞金なり渡航費援助なりが高くなりますよ、みたいな、わかりやすい仕組みがあってもいい。実際、モスクワの世界選手権でメダルをとって帰ってきたときは、成績によって、賞金の多い少ないがあった。
見世物として、純粋に比較したときに、パラクライミングも全然遅れを取らない面白さがある。コンテンツ自体のクオリティに、そこまで差はないと思う。例えば、加藤あすみちゃん(RP1)の登りは、パラクライミングを分かりやすく体現してる。感動したっていう感想の多くは、あすみちゃんの登りに対してだった。
大沼:渡邉雅子さん(AL2)の登りもすごく気合いが入ってる。
安良岡:真剣に壁に向き合ってる姿が、みんなの心を打って、声援が生まれるわけですよ。
ビーチ:がんばっている選手が、楽しく続けていけるような環境が整っていけばいいなって思いますよね。
(了)
▼障害別クラス分けについてはこちらの記事を↓
▼“パラクライマー”大沼和彦【日曜日のインスタライブ】23年3/12
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