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ショートショート『好きにかわるコトバ』

「告白したい」

 いや、すればいいじゃん。
「だけど。面と向かってストレートに伝えるのは、ちょっと」
 ラインでもディスコでも、他に方法はあるじゃん。
「それだと本気が伝わらない」
 まあ、そうかも。じゃあやっぱり、直接言うしかないじゃん。
「恥ずかしい」
 告白するのが?
「直接、言葉にするのが」
 言葉に? 好きだって?
「そう、それ」
 好き以外で、伝わる形で想いを告げたいと。
「そう」
 うーん、定番だと『月がきれいですね』とか?
「有名すぎて、直接言ってるのと変わらない」
 確かに。そうなると、新しい言葉を考えるしかないかぁ。
「そういうの、苦手」
 国語の成績、アレだもんなぁ。
「お前は得意」
 まあねぇ。これでも学年一位ですし?
「お願い」
 仕方ない。いっちょ一肌脱いでやりますか。
「こんなところで脱がないで」
 慣用句だっての。ホント、国語苦手なんだな。・・・ええと、そうだな。
「わくわく」
 若干マイナーなところから持ってくるのはどうだ? 『お菓子なら頭から食べてしまいたい』とか。
「何それ」
 芥川だ。好きってより『可愛い』を伝える比喩表現だけど。
「なんか怖い」
 まあ、字面だけ見ると猟奇的かも。
「それに、相手も知ってるはず」
 ふぅん、ずいぶんと物知りなやつなんだな。引用系はダメか。
「新しいのを考えて」
 例のやつをもじって、『星がきれいですね』とか?
「オリジナリティが足りない」
 手厳しいね。じゃあ、『あなたと過ごす時間は、砂時計のようだ』とか?
「どういう意味?」
 刻々と時が過ぎ去っていくのが目に見えて惜しい、みたいな意味かな。好きな人と過ごす時間って、早く感じるもんだろ?
「お前もそうなの?」
 俺? いやあ、時と場合によるかなぁ。
「じゃあ、心がこもってないからダメ。もっと具体的なイメージを思い浮かべて」
 えー、難しいなぁ。
「お前ならできる」
 期待が重いね。うーん、『一緒に珈琲が飲みたい』とか?
「コーヒーなんて、誰とでも飲める」
 いや。俺、珈琲が趣味なんだよ。
「知らなかった」
 誰にも言ってなかったからな。だから大切な人には、俺の淹れた珈琲を一緒に楽しんでもらいたい・・・かな。
「なんか、いいかも」
 だろ? あらためて考えると、なんだか照れくさいな。
「告白とは、そういうもの」
 いやいや。俺が告白するわけじゃないから。
「もう、告白したようなもの。お前の気持ちは伝わった」
 へ?
「誰にも教えていないことを教えてくれた。告白も同然」
 い、いや、お前ならいいかなって、軽い気持ちでだなぁ。
「それが本心。わたし、お前の大切な人」
 ま、まあ、ある意味間違っちゃいないけど・・・。
「やっぱり告白は、男のほうからしてほしい」
 ・・・つまり、これって。

「これまでのやりとりで伝わったはず。わたしの、本気」

 ――国語、得意じゃん。

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