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助手席での出来事


こんな顔するんだ

すぐそばには途方にくれた泣き出しそうな瞳


あなたには大切なひとがいるけど

ずっと知らないふりをしていた

仕事帰りに「会える?」と連絡がくるたびに

ふたつ返事でアパートを飛び出して


同級生の男の子には無いものをたくさん持っている

どこまでも優しくてずるいひと

一緒にいるときだけはわたしのものだと

まわりの冷めた視線も気にしなかった


わたし馬鹿だから

見え隠れする彼女の存在とかあなたのほんとの気持ちとか

みたくないものには蓋をして


優しいまなざしや体を引き寄せる手

温かいぬくもり

その時だけの都合の良いものだけに

しがみついて逃げていた


冷たい雨が降る夜

初めて乗ったあなたの車の中の

助手席からみた横顔はいつもよりずっと大人で

彼女がいつもみてる景色だと知った


あなたの一番になりたくて

もう終わりにしたくて

帰り際に初めて好きだと呟いた


あなたは小さく首を振る

近くにいるのに遠くて

哀れみにも似た瞳で

わたしを見ないで欲しかった


長い沈黙が続いて

ただ聞こえるのは雨の音

窓ガラスには

水に濡れたネオンがきらきらとひかる


二番目でもいいと

言葉にしたら負ける気がして

何かが壊れそうな気がして

しまい込んだ


夏のはじめの静かな夜

雨の音を聴いていたら、ふと思い出したんだ



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