見出し画像

思い出の街。変わらないで、なんて言わない。

3月末、出張で埼玉県越谷市へ行ってきた。
そのまちは、はじめて一人暮らしをした、思い出深い場所だ。大学に通い、そのまま市内の保育園に就職。宇都宮へ転居するまでの15年間を過ごした。

大宮駅で新幹線を下車し、京浜東北線で南浦和駅まで向かう。くねくねした連絡通路を歩いて武蔵野線へ乗りかえて、越谷レイクタウン駅に予定より20分ほど早く到着した。

駅を降りて驚いた。
当時は都市整備が始まったばかりで、広大な更地(田畑)にショッピングモールがどーんと建っているだけの、殺風景な地区だった。
それから12年が経ったいま、目の前には広々とした公園が広がり、高層マンションや戸建住宅がずらりと並んでいる。
新しいまちができていた。

300メートルほど歩き、観光協会で自転車を借りた。

最初の目的地までは約4キロの道のり。駅周辺の記憶はほとんどなく、もらったマップを片手にきょろきょろしながら進む。

「あっ!」
15分ほど走ると、見覚えのある景色があらわれた。と同時に「あれっ?」。
あったものが無く、無かったものがあった。

何だろう何だろう。うれしさととまどいを感じながら、花びらが舞い散る道をぐんぐん進む。歩道のタイルはでこぼこで、カゴの中の鞄が、ぼこんぼこん跳ねる。

あったのは、建て替えられた市役所だった。

すぐそばの交差点であたりを見まわす。
道路はこんなに狭かったっけ。駅前の建物はこんなに低かったっけ。住んでいたときはもっと広くて、大きかった気がする。記憶は案外不確かで、あいまいだ。

市役所で用事を済ませ、ふたたび自転車に乗る。
次の目的地は、ひとり暮らしをしていたアパートのすぐ近く。地図がなくても迷わず行ける。

市役所のすぐそばには元荒川が流れていて、川沿いには長い藤棚が続いている。元気がなかった古木の藤は手入れが行き届いており、安堵した。


駅前通りをまっすぐ進んでゆく。
「なっつ!!」
目の前に次々現れる景色のなつかしさに、この言葉しか出てこなかった。

バイト帰りに、ダッシュして帰った川沿いの道。
通勤時に素早くパンク修理をしてくれた自転車屋。
フルーツタルトが抜群においしいパティスリー。
ここは…カメラ店だったはず。
住んでいたアパートへ寄ってみると、オーナーが変わったのか外壁が塗り替えられていた。

生活していた頃の記憶がやさしく蘇ってくきて、鼻の奥がつんとする。


最後の用事を済ませて駅へ戻る途中、立派な桜の木を見つけた。

大相模不動尊。たしかバスの車内アナウンスで、聞いたことがある。何より、風になびく「虹だんご」ののぼり旗に釘づけになった。仕事を済ませたらほっとして、とてもお腹がすいた。誘われるように境内に入る。

お団子を注文した。ベンチで待っている間も、ひっきりなしにお客さんがやってくる。有名なお団子屋さんなのかと、期待する。

甘だれと生醤油をいただく。

一個がおおきい。そしてほんのり温かくて、もっちもち。えー、こんなに美味しいお団子屋さんが近くにあったなんて知らなかった。
すぐそばで、ちいさな子どもたちのはしゃぐ声が聞こえる。


12年ぶりに訪れた街で、ただひたすら「なっつ!!」と叫んでいた。
なんというか、同窓会で旧友に再会した時のような高揚感と喜び、気恥ずかしさと羨望。新鮮で、懐かしかった。


大好きだったまちが、少しずつ知らないまちになってゆくのは、すこし悔しくて、すこしさびしい。
でも、変わらないでいて欲しい、という気持ちはあくまでこちらの勝手な願望であって、けして押し付けちゃいけない。だって、あちらは変わりたいかもしれないし、変わらざるをえないのかもしれないから。

ひとも、街も、同じく生きてる。未来へ、向かってる。
せめて、思い出せる何かがちょっとでも残っていてくれれば、それでいいよな。

なんてことのない風景も、一瞬も、きっとだれかにとって胸が震えるくらい、かけがえのないものだ。












この記事が参加している募集

旅のフォトアルバム

この街がすき

記事を読んで頂きありがとうございます(*´꒳`*)サポートをいただきましたら、ほかの方へのサポートや有料記事購入に充てさせて頂きます。