見出し画像

【自転車競技】 華やかに、力強く。クラシックの女王をめぐる戦い ~2023パリ〜ルーベ・ファム~

春。待ちに待った自転車ロードレースのシーズンが開幕しました。ヨーロッパでは毎週のようにクラシックレースやステージレースが開催され、熱戦が繰り広げられています。
なかでも、2023年4月8日に開催されたパリ~ルーベ・ファム (PARIS-ROUBAIX FEMMES)は、とくに印象的な大会でした。

自転車競技歴5年、自転車ファン歴11年のわたくし。今日は大会の模様とともに、注目選手やロードレースの魅力などを独自の視点でお届けします。よろしくお願いいたします。

女子版パリ~ルーベ

パリ~ルーベ(PARIS-ROUBAIX)とは、ワンデーレースの中で最も格式あるレース「モニュメント」のひとつです。そして今回ご紹介するパリ~ルーベ・ファム (PARIS-ROUBAIX FEMMES)は、その女子版のレースであり、2021年からUCI女子ワールドツアーレースのひとつとして開催されています。

別名「北の地獄」👿

パリ~ルーベの前日に開催されるパリ~ルーベ・ファムは、フランス北部にあるドゥナンをスタートし、ルーベにあるべロドローム(自転車競技場)をゴールとする、全長145.4キロメートルのレースです。

公式サイトより引用https://www.paris-roubaix-femmes.fr/en/stage-1

ロードレースと言えば舗装された道を走るイメージですが、パリ~ルーベ・ファムのコースには「パヴェ」と呼ばれる石畳区間が17箇所、距離にして約29キロが設定されており、レースの大きな見どころとなっています。

荒れた石畳は非常に走りにくく、尖った石でタイヤがパンクしたり、ハンドルを取られて落車したりと、さまざまなトラブルが起こりやすくなります。

毎年ドラマチックな展開になるので、観ているほうは楽しいのですが、選手にとっては過酷そのもの。そのためこのレースは「北の悪魔」とも呼ばれています。

レース後の選手たち。

注目選手

タフなコースを走り切る体力と、トラブルなく走るバイクコントロール、そしてレースに勝利するための冷静さと集中力が必要になります。

またロードレースは通常チーム戦であり、エースやアシストといった役割分担がなされますが、パリ~ルーベ・ファムのようなワンデーレースではとりわけ独走力のあるパワフルな猛者たちが集まります。

個人的に注目したのは、シクロクロスで活躍している2人の選手です。

マリアンヌ・フォス選手 Marianne Vos(オランダ、ユンボ・ヴィスマ)

ロードレース世界選手権大会で3度の優勝('13, '12, '06)、そしてシクロクロス世界選手権大会ではなんと8度の優勝 ('22, '14, '13, '12, '11, '10, '09, '06)という輝かしい成績を持つ、自転車界のレジェンドです。

ルシンダ・ブラント選手 Lucinda Brand(オランダ、トレック・セガフレード)

そして、2021年シクロクロス世界選手権大会チャンピオンのブラント選手です。恵まれた体格と優れたバイクテクニックで、昨年のパリ〜ルーベ・ファムでは3位という成績を収めています。ブラント選手は常に冷静で、けして大崩れをしません。シクロクロスレースの運び方は的確で、とても勉強になります。

そのほか、2022年大会優勝のエリーザ・ロンゴボルギーニ選手 Elisa Longo Borghini(イタリア、トレック・セガフレード)、1週間前に開催されたロンド・ファン・フラーンデレンにて優勝したロッタ・コペッキー選手 Lotte Kopecky(ベルギー、TeamSDワークス)など、有力選手が参加します。

逃げ集団とメイン集団

全24チーム140名の選手たちが一斉にスタートしたレースは、22キロ地点で18名の逃げ集団と追走集団に分かれました。

ロードレースにおいて、逃げはチームが優位にレースを進めるための作戦のひとつであり、状況によってはそのまま逃げきって勝利する可能性があります。また追走集団では各チームのエースがアシスト選手に守られ、虎視眈々と勝負を狙います。

集団の差は5分ほどに広がったまま、選手たちは石畳区間へと突入していきました。

思わぬトラブル

残り約72キロ付近で、追走集団にいたマリアンヌ・フォス選手にメカトラブルが発生しました。バイクを交換するのに時間がかかってしまったフォス選手は、単独で追走集団を追いかける苦しい展開に。

次々に現れるパヴェ区間と、集団内で起きたアタック(攻撃)により、追走集団が徐々にばらけてきます。フォス選手はパヴェ区間を飛ぶように走り、脱落してきたグループと合流しては、追い抜いていきます。

フォス選手は追走集団との差を30秒まで詰めましたが、ロードレースでは少人数での走行は風の抵抗を大きく受けるため、すでに相当なパワーを消費しているはずです。

ついに北の悪魔が出現😱

逃げ集団の中からダニエク・ヘンゲフェルト選手Daniek Hengeveld(オランダ、チーム ディーエスエム)が単独で先行し、その後ろを走る逃げ集団と追走集団、そしてフォス選手という展開になりました。

やがてレースは終盤に差し掛かり、残り37キロ付近でふたたびアクシデントが起こりました。追走集団に大落車が発生したのです。

集団の先頭を走っていたエリーザ・ロンゴボルギーニ選手が荒れた路面にハンドルをとられ、スライディングするように転倒。そしてすぐ後ろを走っていた選手もバランスを崩して、折り重なるように転倒してしまいました。

落車に巻き込まれなかったのはただひとりという激しいクラッシュで、まさに悪魔がささやいた瞬間でした。
追走集団にいたブラント選手も落車に巻き込まれましたが、その後レースに復帰しました。

10秒をめぐる攻防

いよいよレースは終盤へと向かっていきます。

先行していた選手と合流した逃げ集団は、徐々に人数を減らして8名になりました。そして追走集団には、落車から復帰したブラント選手や怒涛の追い上げを見せたフォス選手、そして優勝候補のコペッキ選手などが残っています。

フィニッシュに向け、レースが目まぐるしく動きます。
逃げ集団とのタイム差を縮めるため、そしてライバルたちの体力を削るため、追走集団のなかでアタック合戦が起こります。

ブラント選手も果敢にアタック!

追走集団のスピードアップによって、逃げ集団とのタイム差は20秒、15秒と縮みます。このまま追走集団が逃げ集団に追いつくかと思われましたが、逃げ集団の選手たちは諦めてはいませんでした。

「私たちは必ず勝てる。だから行こうよ!」

集団の中で、手を大きく振り上げながらライバルたちを鼓舞する選手の姿がありました。

ライバルでありながら強調してローテーションを組み、逃げ切る可能性を信じる選手たち。追走集団との差が10秒に迫るなか、力を振り絞って走り続ける逃げ集団は、鬼気迫るものがありました。

残り1.5キロ。そして逃げ集団と追走集団との差は、縮まらない……!

最後まで諦めない

優勝争いは逃げ集団の7名に絞られ、多くの観客が待つベロドロームへと入っていきます。

最終周回のジャン(鐘)が鳴り、7名でのスプリントとなりました。頑張れ頑張れ。思わず力が入ります。

そして大歓声のなか先頭でゴールに飛び込んだのは、集団の中で常に先頭を走り、最終盤に周りを鼓舞し続けた、アリソン・ジャクソン選手Alison Jackson(カナダ、EF Education-TIBCO-SVB)でした!

私が勝ったの?? 喜びと驚きを隠せない表情のジャクソン選手。

そして表彰式では、大会ならではの大きな石のトロフィーが贈呈されました。ゆっくりとトロフィーを掲げるジャクソン選手の姿に、会場も大きく湧きます。

レース中、常に先頭に立ち、ライバルたちを鼓舞し、最後まで諦めなかったジャクソン選手の走りは、まさしく女王でした。

優勝タイムは3時間42分56秒。そして長く苦しいレースを完走したのは140名中104名。
華やかに、力強く。パリ〜ルーベ・ファムは観る人を熱くさせた、すがすがしいレースでした。

おわりに

大好きな自転車競技。ついつい熱が入ってしまい、3,400字も書いてしまいました。最後までお読みいただいたみなさま、ありがとうございました!

大会ハイライト

公式サイト

ロードレースの記事はこちらのマガジンにまとめてあります。よろしければどうぞ。

この記事が参加している募集

スポーツ観戦記

記事を読んで頂きありがとうございます(*´꒳`*)サポートをいただきましたら、ほかの方へのサポートや有料記事購入に充てさせて頂きます。