見出し画像

3年ぶりのふるさとで、娘に戻る

祖父の一周忌に参列するため、茨城の実家へ帰った。
帰省の際に利用する高速バスはコロナの影響で運休しており、今回は各駅列車での移動。夫は仕事のため、一人旅だ。


実家は、小さな田舎町にある。乗り継ぎ列車の発車まで、あと1時間。「遅くなるから夕飯はいらない。」と伝え、簡単に食事を済ませることにした。

金曜日の夜。家路を急ぐ人々の足取りは、早くて軽い。そして駅の照明は、やたら眩しかった。

慣れないおにぎり。海苔が破れた。


ようやく来た列車に乗りこみ、北へ向かう。やがて乗客はひとり、またひとりと少なくなってゆく。

そして、自宅を出発してから4時間半。ホームに降り立った瞬間、やわらかい海風が全身を通りすぎた。

ああ、やっと着いた。

真っ暗な駐車場で、心配そうに改札口を向く母の姿に「おーい」と大きく手を振る。母もこちらに気づき、手を振りかえす。3年ぶりに会った母は、白髪がずいぶん増えて、小さな肩がさらに小さく見えた。
運転しながら「元気だったよ」と笑う母の横顔にほっとしたと同時に、月日の経過を目の当たりにし、鼻の奥がつんと痛くなる。


父は起きて待っていた。
座布団にどっかりと座り「おかえり」と笑う。近況報告を済ませると、得意げにパソコン画面をこちらへ向ける。「見てみろ。」

なんでも、仕事で使わなくなった部品をネットオークションに出品しているようだ。小さな工事店を営む実家は、父の代で店じまい。父なりに、仕事を減らし少しずつ整理をしているらしい。

「ハハハ、時間切れだ。」と、あっけらかんと笑う。そんな父を「まったく、こないだは商品を間違えて発送したんだよ。」呆れ顔で見る母。

我が道をゆく父と、振り回される母。わたしはどちらの血もきちんと流れている、と思う。

エアコンのない部屋に布団を敷き、ゴロリと横になる。窓を開け扇風機を回すが、夜が更けるとともに蒸し暑くなり、なかなか寝付けなかった。


鳥のさえずりで目を覚ます。


朝食をとったあと、サンダルを履いて外へ出た。

母が手入れをしている庭。わたしはその庭を見て回るのが、とても好きだ。


雑草のなかにある、カラフル。

横に倒れたり、蜘蛛の巣が張っていたり、虫に食べられていたり、枯れていたり。母の庭の花は、自然のまま。背伸びせず、ありのままのすがた。

みんな生きているんだよなと、はっと我にかえる。


愛犬りゅうが眠る桜の木は、枝も葉もわさわさ。


午後、夕飯の買い出しについていく。
「何が食べたい?」「お刺身がいいなあ。」「あとは串カツにしようか」「いいね! 一緒に作ろう」
カートを押しながら、歩幅を合わせてゆっくり歩く。


夕方。プランターに咲いていた赤い花は、しゅんとしぼんでいた。


父はわたしが帰省するたび「帰ってこお(こい)。」と言う。冗談にも本気にも取れる言葉に、どう返事したらいいのかわからず、いつも笑ってごまかしてしまう。

まだ、帰る場所がある。夫婦とか、愛とか、家族とか、いまだによくわからないわたしの、ふらふらした気持ちを見透かされているようで。


「ゆっくりしてげ」

手作りのブランコ
置き忘れた父の煙草
扇風機のまわる音

静かに時間が流れる。ゆっくり、ゆっくりと。

いつまでたっても甘ったれのわたしは、ひととき、娘に戻る。

この記事が参加している募集

休日のすごし方

ふるさとを語ろう

記事を読んで頂きありがとうございます(*´꒳`*)サポートをいただきましたら、ほかの方へのサポートや有料記事購入に充てさせて頂きます。