見出し画像

奥さま、主人のzoom研修を受ける

主人がオンライン研修の講師をすることになった。相手は同業の方たちで、月に一度、情報交換を兼ねた勉強会を行っている。毎回講師が変わり、主人に声がかかったようだ。

主人はきっちりした性格だ。何をするにも準備を念入りにし、リサーチをする。研修に向けてパワーポイントの作成から資料作り、ネット環境の整備など、あれこれと準備をしていた。

仕事が早く片付いたある日のこと。

主人が「いまから研修の予行演習をする」と言った。参加者は、もちろんわたしだ。

まずは配信の準備をする。テレビとノートパソコンを繋げて、パワーポイントの資料をテレビの画面に映す。画面の横で、主人が講義をする予定だ。

主人はリビングで機械を並べ、わたしはドアを挟んだ廊下へと移動する。

そしてiPadのカメラの位置はどうかとか、部屋のライトをもう少し明るくとか、音声は聞き取りやすいかなど、あーでもないこーでもないと言い合いながら調整していく。

あらかた準備がととのった。そして「ちょっとここ座って」と、主人の席に座るよう指示された。自分がどのように見えるか、確認したいようだ。

へいへい。

わたしはテレビ画面の横の椅子に、ちょこんと座る。

「うん、画面もよく見えるな。じゃあ、なんかしゃべって。」

へいへい。

わたしは姿勢を正して自己紹介をする。

「えー、テスト、テスト。わたしはおりちゃです。」

うーん、これじゃテストにならないよな、もっと話さないと。そうだ。わたしは、もじもじしながら

「えーと、43歳です。独身です」

iPad越しの主人の顔がゆがむ。

「独身じゃないだろ笑」「うふふ。こちらからは以上でえーす(手を振る)」

やりとりをしているうちに、気づいたら30分が経っていた。何事も細かい主人は「うーん、スマホを固定するスタンドが必要だなあ。今日はここまでにしよう。」と言った。

あー、疲れた。セッティングの手伝いだけでぐったりだ。

別の日。

セッティングも完璧にできて、いざ主人の講義を受けることになった。「あとでフィードバックするから、ちゃんと聞くように」と言われた。

へいへい。

わたしは事務所へと移動し、気合を入れる。きっとあとで質問の矢が飛んでくるから、しっかり聞いておかないとな。


講義は順調に進む。画面に映るYouTube好きの主人は、まるでビジネス系YouTuberのようだった。

しばらくして主人が「ちょっと、顔が近いな」と青汁を飲んだときのような顔をして言った。「あ、そう? 失礼しました」

…こっちはさ、パワーポイントの画面をよく見たかっただけなのよ。

また少しして「うーん、あなたが相手だとやりにくい。」と言った。「ふーん。じゃあ、マスクしとこうか。これならいい?」「ああ」

わたしだってさ、小一時間あなたの顔だけ見てるのツライし。お互い様じゃい。

さらに、主人が話している途中「ぐえっ」と変わった音がした。わたしはすかさず「ね、ね、今のなんの音?」と聞くと、とぼけた顔をして「ん? さあ笑」

ちょ、気になる!


講義も終盤。あと少しで終わると思ったら夕食のことが頭にチラついてしまい、最後の最後に出されたクイズをうっかり間違えてしまった。

「おまえさー、ちゃんと覚えとけよ」

へいへい、すみましぇん…。


講義は一度休憩があって、1時間15分ほどで終了した。思っていたよりもずっとスムーズに進み、内容も面白かった。

最後に感想を伝えて、よかったところや修正するところを話し合った。主人は手応えを感じたようで、満足そうな顔をしていた。そんな主人を見て、わたしもホッとした。

そしていよいよ明日の夜は、オンライン研修の本番だ。

主人は大丈夫。あれだけ準備して、練習もしっかりしたんだから。きっとうまくいくはず。

さてと。

わたしも明日は、何かあった時にすぐに動けるようにスタンバイしておこう。別の部屋で、のほほんとオリンピックを観ながら。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。


記事を読んで頂きありがとうございます(*´꒳`*)サポートをいただきましたら、ほかの方へのサポートや有料記事購入に充てさせて頂きます。