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奥さま、鏡の前でずっこける。

夫と結婚して10年、同棲期間を含めると12年がたつ。
我が家は自営業のため、ほぼ毎日24時間、夫とふたりで過ごしている。

夫婦とは、空気みたいな存在なのだろうか。

先日、夫の友人夫婦とともに歌舞伎を鑑賞することになり、東京へ出かけた。

待ち合わせは夕方。それまで東京のまちをぷらぷら歩いた。
入谷の朝顔市のひとの多さに驚きつつ、下町情緒をたのしんだ。

東京国立博物館では、今の時期ならではの涼しげな浮世絵にうっとりした。

その日はとても暑かったから、博物館の地下にある自販機コーナーでアイスを買った。
「そろそろ行こうか。」「うん、そだね。」
食べ終わるとすぐ、わたしたちは博物館をあとにした。


外出のとき、夫はいつもわたしの先をあるく。
夫はせっかちで、そもそも歩幅が広い。だからわたしはいつも小走りで後を追う。つきあっていた頃は、手をつないでくれ……なかった。
いまもむかしも、変わらない。ずんずんずんずん、行ってしまう。

地下鉄日比谷線の座席は、長いシートではなく、ひとり掛けに変わっていた。車内は混雑していたので、わたしたちはドア付近に立ち、読書をしていた。


東銀座駅で下車し改札を出るとすぐ、歌舞伎座のロビーに到着した。
そこには大きなちょうちんが飾られ、お弁当やお土産コーナー、コンビニもある。歌舞伎にちなんだ商品がたくさんあり、おもしろい。

友人夫婦を待ちながら、歌舞伎茶屋で遅い昼食を取ることにした。

お茶屋の座席は狭く、ちいさな正方形のテーブルを前に、夫と向かい合う。メニューを見ながら話し合い、冷たい歌舞伎そばをふたつ注文した。

注文したあと、交代でお手洗いへ行った。
「左に曲がってすぐだよ。」夫の言葉に「そう、ありがとう。」と立ち上がる。

トイレは思っていたほど混雑しておらず、スムーズに順番がまわってきた。
そしておもむろに、化粧台の鏡を見た瞬間、わたしは固まった。

(ええええ)……!!


普段はしないアクセサリーを身につけ、ちょっぴりおめかししてきた(つもり)。
なのに、左の口元に、見かけない黒い物体が付いていた。

思い出した。
これは博物館で食べたアイスにトッピングされていた、ココアクッキーの粒。しかもわりと大きめ……!

最近、外出の際はほとんどマスクを外している。建物の中も、駅も、車内も。
つまりわたしは、上野から銀座のまちを、ずっと口のまわりにココアクッキーを付けたまま、歩いていたのだった。

恥ずかしい。
誰も気づかないだろうけど、いい歳して、わたしはなにをしてるんじゃ~。

と同時に、ふつふつ怒りがわいてきた。

夫よ。
どうしてココアクッキーに気づいてくれなかったんじゃ~!
まあ、いつも先を歩くし、電車の中ではお互いに下を向いて本を読んでいたし、気づかなかったのは仕方ない。

でもね、でもね、
お茶屋さんのテーブルで、面と向かって話してたじゃん。
てゆうか、もしそこで気付いたとしても、ほんの5分前だろうけど……!


鏡の前で、心底、がっかりした。
アイスを食べたあと、口元を気にせず出発してしまった自分に。
そして夫は、ほんとうにわたしの顔を見ていないんだなあ、ということに。


さっとウェットティッシュで口を拭き、なにもなかったように席へ着く。
しばらく待ったあと、歌舞伎そばがやってきた。

隈取り模様の面長のお麩が、自分のように見えなくもないけれど、歌舞伎そばは冷たくて美味しかった。

せめてもの救いは、口についていたのがクッキーだったことか。
生チョコレートの粒だったら、溶けてホラーのようになっていただろう。

「美味しいね。」

いつも、一緒にいる。
夫婦とは、空気みたいな存在なのだろうか。

最後までお読みいただきありがとうございました。
マヌタさんに起こったシチュエーションの逆バージョンが、わたしの身に降りかかりました。

「ふふふ、ヤツめ、アラフォーにもなって頬にごはんつぶを付けて一心不乱に食すとは、、、なんという愚かさ」

そう思うと日頃の妻へのストレスをここにぶつけて、あざ笑ってやろうと放置することにしたのです。

妻への密かなる復讐より

気づいていて放置されるのと、気づかないまま放置されるのと、どっちがいいのかなあ。どっちもどっちかなあ…笑

よい連休をお過ごしください。ではまた!

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