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手のひらに、うつくしさとアイデアを。掛川市二の丸美術館特別展『根付にあそぶ』 秋の掛川ぶらり旅・その2 

静岡県掛川市への2泊3日の旅のお話です。その1はこちら

掛川駅前で昼食をすませ、掛川市二の丸美術館で開催されている開館25周年記念特別展「京都 清宗根付館きょうと せいしゅうねつけかんコレクション 手のひらのミクロコスモス 根付に遊ぶ」を鑑賞しました。

掛川市二の丸美術館

掛川市二の丸美術館は、たばこ道具などの細密工芸品を主とする木下コレクションと、近代日本画を収集した鈴木コレクションを基に、平成10年4月に開館した美術館です。

手のひらサイズの美術品

根付とは、江戸時代に着物の帯から印篭などをつり下げる留め具として使われたものです。美しい細工が施され、手のひらサイズの工芸品として今でも多くの作品が作られています。

今回、根付の専門美術館である「公益財団法人 京都清宗根付館」の6000点におよぶコレクションから厳選した秀逸な作品400点が、二の丸美術館にて展示されています。

夫婦揃って根付を見るのが大好き。現代作家の作品が一度に見られる機会はそうないので、この展覧会を心待ちにしていました。

赤丸の部分が根付です

たくさんの根付!

根付は直径3〜4センチほどの大きさです。肉眼での鑑賞でもじゅうぶん楽しめますが、緻密な彫刻も根付の見どころ。受付で単眼鏡の無料レンタルをしていたので、ひとつお借りしました。

展示室に入ると、たくさんの根付。

宝の山がこれでもか~! というほど並んでいて、わくわくします。

見て楽しむ

最初に目に入ってきたのは、可愛らしい鳥です。

《四十雀》素材:象牙・へご 宍戸 濤雲(ししどとううん)作
京都 清宗根付館所蔵

鶴の模様の豪華な衣装を着て扇子を手に持ち、背中には翁のお面。うれしそうに能を舞っているようです。

こちらは、丸まった葉の中に虫が一匹。

《葉影》 素材:象牙 落合 尚(おちあいしょう)作
京都 清宗根付館所蔵


可愛らしいカタツムリ。紫陽花の萼は数ミリほどで、緻密な金や螺鈿の細工が施されています。きれい!

《デコでん》 素材:象牙・檜・貝・漆 針谷祐之(はりやまさゆき)作
京都 清宗根付館所蔵

いろいろな素材やかたち

どの根付も個性的。その多様性を生みだしているのは、素材の豊富さにあります。木材などのほか象牙やべっ甲など、紹介されているだけでも16種類ありました。

また、根付にはいろいろな「形」があっておもしろいです。

こちらは差し根付。長さは10~15センチほどありました。

ぷっくらした鴨のつがいがかわいい饅頭根付。蓋の内側には蓮の花の螺鈿装飾がされていました。

鴛鴦おしどり》 素材:欅・金・貝 宮崎輝生(みやざきてるお)
京都 清宗根付館所蔵

ユニークなモチーフをたのしむ

さて、根付のおもしろさのひとつは、豊かなモチーフにあります。
古典的な題材から、愛らしい動植物、はたまたこの世に存在しないものまで、千差万別です。

こちらは歌舞伎の演目「草摺引くさずりびき」。着物の裾が揺れる様子や力強い表情はリアルで、今にも動き出しそうです。

《草摺引》 素材:象牙 中村 雅俊(なかむら まさとし)作
京都 清宗根付館所蔵

後ろ姿を斜め上から撮影したもの。

背中にある四角の「三升紋」は、市川團十郎家の定紋です。粋でいなせな姿に思わず「成田屋!」と声をかけたくなります。

しかもこの作品は、どの角度から見ても視線が合う「八方睨み」という技法が用いられているようです。


こちらは、巨大な鯉のうえで、かっと目を見開く男性。琴高仙人きんこうせんにんという人物の、ある言い伝えがモチーフです。

《琴高仙人と鯉》  素材:象牙 中村雅後(なかむらまさとし)作
京都 清宗根付館所蔵

「琴高仙人」は、中国の周時代の仙人で、琴の名人です。200年ほど諸国を放浪した後、弟子達に「龍の子をとってくる」と言い残して川に飛び込みました。約束の日に弟子達が川で待っていると、鯉にまたがって現れたと言い伝えられています。

MCF Japan公式サイトより引用
https://www.mcfjapan.net/carp_kinkosennin.html

そのほかにも、妖怪や幽霊、艶やかな女性の根付などがありました。

不思議なものたち
《タコのイタコ》という作品もありました(右上)。

なかには、こんな根付も。

《王》 素材:象牙・海松 高木喜峰(たかぎきほう)作
京都 清宗根付館所蔵

江戸時代に実用品として生まれた根付は、いまでは美術品としての評価が高く、その美しさから国内外で人気があります。
また外国人の根付作家もいらっしゃいます。

《森の宝石》 素材:黄楊・貝・水牛角・本花梨・琥珀・金箔 スーザン・レイト作
京都 清宗根付館所蔵

スーザン・レイトさんはおもに小動物をテーマとした作品をつくられ、高円宮ご夫妻のコレクションにも収蔵されている作家さんです。

想像して、楽しむ

根付のモチーフはとってもユニークで、想像力を働かせながら鑑賞すると、とても楽しいです。根付に付けられたタイトルにもヒントが隠されていて、その意味を探し考える楽しさもあります。わかったときは「なるほど!」と驚嘆してしまう、アイデアとユーモアあふれる作品ばかりです。

《鬼ヶ島》素材:象牙 栗田元正(くりたもとまさ) 
京都 清宗根付館所蔵

なにを飲んでいるのかな。

《今日のいっぷく》 素材:陶 北澤泉水(きたざわいずみ)作
京都 清宗根付館所蔵
《浮世絵に恋して》 茶材:鹿角 向田陽佳(むかいだ ようか)作
京都 清宗根付館所蔵
《風神円盤投げ》 素材:象牙 宍戸濤雲(ししどとううん)作
京都 清宗根付館所蔵
《ほ>づき》 素材:琥珀 ・漆 佐々木明美(ささき あけみ)作
京都 清宗根付館所蔵

超絶技巧

さらに、注目したいのは根付彫刻のうつくしさです。
手のひらにのる小さなサイズの根付には、数ミリ単位の彫刻や染め、細工が施されています。近くで見れば見るほどその細かさに驚かされます。

《羽衣》 素材:象牙 岸一舟(きしいっしゅう)作
京都 清宗根付館所蔵
《庭》 素材:鹿角・琥珀・純金 高木喜峰(たかぎきほう)作
京都 清宗根付館所蔵

展覧会のなかでいちばん印象的だったのは、箱根付。
さまざまな花がひとつひとつ、色とりどりに細工をされていました。つややかさと繊細な装飾が、まるで宝石箱のようでした。

《花籠》 素材:黒柿・白蝶貝・象牙・べっ甲  宮崎 輝生(みやざきてるお)作
京都 清宗根付館所蔵

製作の裏側を知る

根付製作のようすも紹介されていました。

こちらは及川空観先生直筆のスケッチ画です。ひとつの作品を正面からだけでなく、斜めから見た場合までしっかり描かれていました。

また、靴の裏や人の筋肉の盛り上がりなど、細部にまでこだわり製作に取り組まれているのが伝わってきました。

手のひらに、根付

最後に、今回の展示会では、根付を身につけて撮影できるイベントがありました。お着物を着てにこやかにポーズを取られる方もいらして、会場はとても華やか。

イベント用の根付の中からわたしがチョイスしたのは、上で製作過程を紹介していた及川空観先生の作品。有名作家さんの根付に実際にふれるのは、はじめて。落としたら大変です。そーっと、そーっと。

うわー!(言葉がでません)

時計を見れば、閉館ギリギリまで滞在していました。

手のひらサイズの美術品。根付のおもしろさと奥深さを思い切り堪能した午後でした。

旅のお話はもう少し続きます。よろしければお付き合いくださいませ。

おわりに

最後までお読みいただきありがとうございました。
こちらの展覧会は、NHKのニュースでも紹介されたそうです。動画もぜひご覧ください。

掛川市二の丸美術館

〒436-0079 静岡県掛川市掛川1142番地
TEL:0537-62-2061
FAX:0537-62-2062
開館時間 
9時から17時(入館は16時30分まで)
休館日
月曜日(祝日の場合は開館し、翌日休館)、展示替、施設メンテナンス日

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