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最近のUXデザイナー志望者の傾向とWebディレクター不要論について

お久しぶりです。東京の端くれでひっそりデザイン会社を営むおりです。
最近、協力先企業においてデザイナーの採用をお手伝いすることが増えてきたのですが、その際に見えてきた最近のWebサービスのUXデザイナーの傾向について、やや引っかかる部分があったので、またぞろ筆を取った次第です。

UIやUXという言葉は広く一般に浸透してきた

これはとても喜ばしいことです。特にゲームなどの影響もあり、一般ユーザーであってもUIとUXの概念や関係性を正しく理解し、言及することが多く観測されるようになりました。

で、広く一般に浸透してきたということは、それらを作るデザイナーも増えてきたのかな?と思っていたのですが、どうやらそうでもないようで採用活動には大変苦戦しているという状況でございます・・・。

最近のUXデザインという業務の認識について

募集要項上で職種としては、インターフェースの画面設計を独力で完結して欲しいので「UI/UXデザイナー」としているのですが、この表記が悪いのか何なのか、「UXデザイナー志望です」という方が多くいらっしゃいます。

【補足】
UI/UXという表記についてはこちらの過去記事で決着をつけています。

UI/UXの表記について

それの何が問題か?という話なのですが、UXデザイナー志望、または現在UXデザインを主にやってますと自称する人の職務内容が、ひと昔前のWebディレクターに酷似しているなと感じるんですよね。

Webディレクターって何?っていうZ世代のみなさんにご説明しますと、Webサイト(※Webサービスではないただの静的なサイト)に、どういうコンテンツを載せるか?を企画して提案したり、実装までのスケジュールを管理する、いわゆるプランナーやプロジェクトマネージャー的な職能の人たちですね。

2024年現在、もう多分絶滅危惧種な職種であり、今から新規でWebディレクターを目指します!って人はあんまり居ないと思われます。

Webディレクターが(ほぼ)絶滅するまでの歴史のおさらい

こうなった経緯は色々あるんですが、ひと昔前にはすでに「Webディレクター不要論」なるものが一部のWeb制作界隈で囁かれるようになっていたのが記憶に残っています。これについて軽く説明します。

ひと昔前、Webサイトのワイヤーフレームを書くのはWebディレクターの仕事であり、デザイナーはそれに装飾的な肉付けを行うだけの人でした。すなわちツールオペレーターですね。こんな感じの分業が当たり前だったので、装飾だけさせられていたデザイナーはやがて自分自身で画面設計をするために(デザイン思考とかの流行もあって)上流工程を目指しはじめ、Webディレクターの領域も担当するように。Webディレクターはワイヤーを書きまくった結果、自分で装飾までやった方が早くね?となり、デザイナーの領域も担当するように。

そうしてお互いの領域が混ざり合ってきたことで、「もう別に分ける必要なくね」ということで、不要論が出たというわけですね。これに関しては成熟した分野においてはごく自然な流れですし、私も同意見です。

それ以外にも、そもそも未経験者が名乗ってて低品質な場合が多かったり、技術に対する専門知識が無くて伝言ゲームで情報ロスが激しかったり、営業気質の体育会系ゴリラばっかり集めた結果制作陣と対立構造を産んでたりとか、SEOハックしたクソアフィキュレーションサイトの濫造や動画サービスの台頭でWebサイト運営自体の価値が下がった等、色々な要因もあったりしますがそのへんは割愛

なお、職種の区分名の重要性が薄れただけでそれぞれの工程自体が無くなったわけではありません。(その他にも、フロントエンド技術の複雑化で下流工程方向にもキャリアアップコースが伸びて行ったことも要因の一つです。)

で、そんな流れがあったわけなんですが、その歴史の流れが今度はWeb"サービス"(やアプリケーション)におけるUIデザイナーとUXデザイナーでリフレインしてる気がするんですよね。

UXデザイナーのWebディレクター化

これが今回の本題ですが、昨今サービスやアプリにおけるUIの重要性が認識されるようになってきた結果、どこの企業でもUIデザインに力を入れるようになり、UI/UXの概念が認識されはじめてそれらを高める需要が高まった結果、歴史が繰り返してないか?と思うわけです。

そもそもかつてWebデザイナーとWebディレクターが分業性だったのはなぜか?というと、その分野における歴史が浅く、習熟度の関係で分業した方が早く「使える」人材が育つからですね。それと同じ理屈で、UIデザイナーとUXデザイナーを分業性にした方がすぐに需要に対しての供給量を満たせる。ということなのでしょうけど、それに付随してUIデザインとUXデザインは別モノだと考えてる人や企業が結構多くなったような気がしています。

その結果、figma等のツールは一応触れるけどそこまでゴリゴリには作らずコンセプトのワイヤーフレーム程度で止めて「あとはデザイナーさん・フロントエンドエンジニアさんよろしくお願いします!」という感じの、かつてのWebディレクターみたいな感じのUXデザイナーがまた増えてきてるような感触を得ています。

こういった職能のUXデザイナーさんのことを、一旦「ディレクター型UXデザイナー」と呼称しますね。

で、話を採用に戻すんですが、募集要項上で職種としては、課題抽出やソリューション定義(機能要件作成)から始めて実装直前のアウトプットまで独力で完結して欲しいので「UI/UXデザイナー」としているのですが、この表記が悪いのか何なのか、「UXデザイナー志望です」という方が多くいらっしゃいます。

つまり、欲しいのはかつてのWebディレクターとWebデザイナーの両方の職能を持っている人なのに、Webディレクターの職能だけを持っている人がよく釣れる(逆に言うと転職市場に多くいる?)。というのが、最近の困りごとなわけです・・・。

UIとUXの責任者が繋がってないと何が問題なのか?

分業で回ってるならそれでいいじゃん。と言われるかもしれませんが、現場の肌感覚としてUIが出来上がるまでに必要なフローのうち、

  • ユーザーの課題を発見して言語化する能力

  • それを解決するためのソリューションを考える能力

  • ソリューションを画面に落とし込む能力(ワイヤーフレーム)

は、それぞれ別の能力な気がしていて、「的確な課題を発見できる人であっても良いソリューションを思いつくとは限らない」とか「良いソリューションを思いつく人でもそれを画面上で使い勝手の良い状態に落とし込めるとは限らない」というのが一般的だと思うんですよね。

よくあるUIデザイナーとUXデザイナーの担当領域の図

で、この中でも損失が大きいのが

  • それを解決するためのソリューションを考える能力

  • ソリューションを画面に落とし込む能力(ワイヤーフレーム)

ここの間です。

多くの場合、PdMやディレクター型UXデザイナーは、自分で画面を作りきった経験がなく、最初から企画・マネジメント系の職種としてキャリアをスタートしているため、画面上での表現方法の引き出しや標準仕様についての理解が深くありません。(これはかつてのWebディレクターも同じでした。)

専門家ではない人が画面を設計(=ワイヤーフレームをつくること)し、それに肉付けするだけ。という制作フローをとっていると、かつてのWebディレクターとオペレーター型Webデザイナーの組み合わせと全く同じ構図で同じ問題が発生してしまいます。

なので、下記図解のように少なくともソリューションを考えて画面に落とし込むところまでは、1人の人間(あるいは1つのチーム)が一貫して行った方が良いという持論を持っているわけです。

筆者の理想と思うUI/UXデザイナーの担当領域の図

UI/UXデザイナーはどこに居るのか?

上記図のような理想を持って採用のお手伝いをしてるわけなのですが、まぁそういった職能を持ってる人が転職市場に全然居ません。もしそういう感じの職能で転職検討されてる方がいらっしゃったらX(旧:Twitter)でDM送ってきてくださいお願いします・・・。

でも不思議なのが、ディレクター型のUXデザイナーはよく見かけるんですが、セットで居るはずのオペレーター型UIデザイナーは全然見かけないんですよね。一体誰が最終的な画面の意匠を決めてるんだろう。単純に条件に引っかからないから出てこないだけなんですかね?

閑話休題。もしこのままディレクター型UXデザイナーを軸として分業していくのが世の中の流れなのだとすると、WebサービスにおけるUI設計はPO>PdM(ディレクター型UXデザイナー)>フロントエンドエンジニアのフローが最適であり、UIはフロントエンドエンジニアがついでに作るのが一番手っ取り早い。という結論になってしまう気がするのですが、一緒に仕事しているフロントエンドエンジニアの皆さんを見ていると、とても画面設計まで手が回るような暇な状態に見えないので、やはりPOとフロントエンドエンジニアの間のどこかには「UI/UXデザイナー」が挟まっているのが現実的なんじゃないかなぁ。とは思います。(ポジショントークっぽいですが・・・)

ちなみに私は自分のことをUI/UXデザイナーとは思ってない(特に領域を指定せず、ただのデザイナーだと思ってる)ので悪しからず。

かつての流れを見ても、ある一定の経験を積んだディレクターやデザイナーは担当領域を広げるためのキャリアアップを始めることが想定されるので、Webサービス周りの市場が成熟しきった今の時代ならそろそろ出てきてくれても良いのでは?って思ってるんですが、どこかが大量に囲い込んでたりするんですかね?

あと有能な人材は新興の勢いがある分野に取られるのが常なので、もしかしたらVRやARなどの仮想現実領域や、AI産業などの方に引っ張りだこなのかもしれませんね。個人的にも仮想現実領域周りのUI/UX設計には興味があるので、そういう話がきたらホイホイ行っちゃうなーとは思います。

まとめ

なんかとっ散らかってきたのでまとめると、

  • Webディレクター型人材がリバイバルしてる気がする。

    • でも露骨にオペレーターなUIデザイナーはあんまり見ない。不思議。

  • UI/UXに機能要件から実装手前まで、広い工程で責任を持って取り組むデザイナーめっちゃ少なくない?気のせい?

  • もし居たら声かけてください。世の中がどんな感じなのか話してみたい。

の3点です。
シンプルにそういう人と雑談もしてみたいので、気軽にお声かけて貰えるとめっちゃ喜びます。

筆者のX(旧:Twitter)はこちら

しょーもないことばっか呟いてます

補足のコーナー

  • 「ひと昔前」とは、だいたい10年〜15年くらい前のことです。Webデザイン成熟期であり、Webサービス・スマホアプリの黎明期あたりを想像してもらえれば。

  • 本記事におけるWebディレクターやWebデザイナーの話はすべて「まともな」人を想定しており、まともじゃない人やスキル不足で機能していないケースは話の対象外としています。

  • UIデザインとUXデザインは別モノ、という表記について。そりゃ別モノだろうと言われると思うので、ここで言ってるUXの範囲はUIに関連するものに限定されるという事を補足します。詳しくはこちらの記事で。

  • UIデザイン(装飾面に限る)に専門性が無いとか、そんなに負荷が高くない。と書きましたが、Webサービスにおける文脈においてのみです。ゲームのUI装飾技術は全く別モノなので一緒くたに考えないでください。

  • なんか協力先企業に実際に面談に来た人をコケにしてるような印象を持たれそうですが、面談に呼んでる時点でこれらはすべてクリアしてます(別の部分でのミスマッチによってなかなか決まらない)。書類選考、あるいはそのもっと前の段階で落としてる場合の話ですので、悪しからず。


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